第33回 目黒区下目黒
公園の猫で考える動物の幸せ
吉川の路地歩きに特別な法則はないが、「この先に何もないなと思ったら、とりあえず脇道に入ってみる」のが彼の流儀。今回の最初の“曲がり”は、目黒警察の先だった。山手通りを目黒に向かって歩き始めたとたん、カクっと脇道に入る。しばらく歩いて出たところは目黒川。
「ここは品川の先まで桜並木で、咲いてるときはきれいだよ。散り際がまたよくて、雨が降った次の日なんか川面がピンク色の花びらで埋まるんだよ」。冬の川沿いは寒い。桜の季節が待ち遠しい。
区民プールの脇を通り、目黒通りを越え、柳通りを歩きながら「目黒不動に行こう!」と吉川。山手通りを渡ると、赤い鳥居の参道入り口が見えてきた。
商店街を入ると、まず左手に現れたのは『たこ薬師』。「俺は1週間に2回くらいのペースでタコを食ってるから、参らないといけないね」。吉川はいつものスマートな仕種でポケットから賽銭用の小銭を取り出し、賽銭箱に入れた。しかし“週2でタコ”とはよほど好きなのだろう。「タコは旨いよ。身近で買えるのはほとんど茹でた後に一度冷凍してある外国産のタコだけど、国産マダコの茹でたてを食べるとホントに旨くて、今まで食べてたタコは何だったんだと思うよ」。そう言われると確かに旨そうである。
商店街には「来ると立ち寄る」というおでん屋、「いつも行列ができてるうなぎ屋」もある。店先で焼いている蒲焼きを買い食いするのがいいという吉川だ。目黒不動はなかなか見ごたえのある神社だった。裏手には『甘藷先生』として有名な青木昆陽の墓もあった。「徳川吉宗の時代に、飢饉を救うためにさつまいもの栽培に成功したってことは覚えてたけど、歴史ってのは頭で覚えるだけじゃなく、自分で歩いて体と一緒に記憶すると忘れないね」。路地歩きはアウトドア脳トレの時間でもある。
次に向かった林試の森公園では、『出会いの広場』と名付けられた広いエリアでお年寄りたちがゲートボールに講じていた。自販機で暖かい飲み物を買い、しばしベンチに座って見学。「お年寄りになっても性格って出るね。ぎゃーぎゃー言ってるじいさんとか見ると、もうちょっとのんびりやればいいのになと思うよ。俺もそうならないように人のふり見て我がふり直せだね(笑)」。
公園内では、猫たちも悠然と闊歩している。「みんなが餌をあげてるから、まるまる太ってるのよ」と、通りがかりのおばさんが説明してくれた。「ノラじゃ可哀想だからって連れて帰る人もいるけど、鳴いてダメなんだって。やっぱり自由がいいのよ。人間だってそうでしょ」。のどかな午後の公園で聞くには、なかなか含蓄のある言葉だ。「おっしゃる通りだよね。女のコとか、ノラ猫を“可哀想”って言う人もいるけど、餌をくれる人はいるわけだし、彼らにしてみたらパラダイスでしょ。一番哀れなのは動物園にいる動物だって俺は思ってるからね。それを見て“かわいい”って言うのはイカレテると思うし、かわいいなら逃がしてやれよって。動物園の動物たちから見たら、人間のほうが檻の中に入ってるように見えるんじゃないの」。何かを見たときにどういう視点で考えるか。それに関しては、ぶれない熱さをなくさない人である。
五反田まで歩き、TOC(東京卸売センター)を見学。初めての場所に吉川もワクワク気味だ。卸し専門店が並ぶ中で小売りOKのモロッコ小物の店を見つけ、きれいな色の小鉢を数個購入。「刺し身を食べるときに、しょうゆ、ポン酢しょうゆ、レモン塩とかを入れるのにいいね」。どこを歩いても、街はさまざまに楽しめる。
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