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第32回 世田谷区上目黒~祐天寺

石屋とドロップキックの思い出

 街を歩いていて吉川がよく言うのは、「川に蓋をするのは絶対に反対」ということだ。護岸工事で岸や川底をコンクリートでかためるのも反対。自然には自然の浄化作用があり、自然のままでいてこそ川は美しい流れを保つ。人間がゴミを捨てなければの話だが、この日も『蛇崩川支流緑道』を歩きながら、そんな話をした。環境問題に関しては先見の明があった吉川である。

 五本木と上目黒の間を抜け、東横線の高架下に入ると、珍しい自販機があった。「ちょっとおもしろいでしょ」と、得意気な吉川。それは使い終わった缶を入れるといくらかの小銭が出てくる機械で、これまたエコな一品。そこから高架を戻り、道を左へと進むと、吉川セレクトの本日のメインイベントが待っていた。

「都心で、これだけの敷地でやってるってことがまずすごいよね」。目の前に現れたのは、巨大な石だった。自然の石ではなく石屋さん所有のものなのだが、道の両側に石、石、石、石! しかしこれ、本当に売り物なのだろうか? 商品だとしたら、雨風にさらされていては形も崩れようってもんだ。

「それが違うんだよ。石ってのは、雨風にさらされてこそ味が出てくるもんで、石好きにとっては、川原で拾った普通の石でも、ちょっと何かの形に見えただけで結構な値段がつくんだよ。だからこれだけの石が並んでるってのは、石好きにしてみたらたまんないね。まあ、これを飾れる庭を持ってる人が東京にどれだけいるのかってことになると、実際売れるかどうかは分からないけど、これが趣味だったら逆にすごい。“ただの石好きなんですよ、エヘヘ”なんて言われたら、大物だね。俺が小さいころ、家の近くに石屋があってよく遊んでたから、そういう懐かしさもあるけどね」。それではぜひ、吉川家のリビングにも石を一個、いかがでしょう?

「おける庭が欲しいけどね。庭が1畳しかないのに、1畳分のでっかい石がひとつだけあるってのも、またバカでいいかもね(笑)」。

 名残惜しい石屋を後に、次に向かったのは、夜中しか開いていない地域名物のパン屋『キクヤベーカリー』。クリームパンがおいしいということで、夜中に行列ができるそうだ。「昔、友人が食べたいっていうから、一度だけ並んで買ってあげたことがあるよ。しかし東京の人は並ぶのが好きだよね。で、どんなモノでも並んで食べると“意外においしい”って言うでしょ。前向きな人が多いよね(笑)。関西から以西はまず並ばないから」。

 祐天寺に向かう道すがら、昼から込んでる焼き鳥屋『忠弥』を発見。立ち寄りたい気持ちを一時封印し、動輪のある幼稚園に差しかかったところで、幼稚園時代の話で盛り上がったりした。

「俺はそのころからやんちゃだったね。隣りの家のコがブランコを横取りされた敵討ちとかいって、近所の小学生にドロップキックしてブランコを取り返してたからね。蹴ったらそいつがブランコに頭ぶつけちゃったんだけど、俺は“悪いのはこいつだ”って言い続けて、母親に“謝りなさい”って言われたことを覚えてる。いつも正義感だけは強いから。昔から不正は許せない。それで母親がいつも謝りに行ってたよ」

 昨年の12月30、31日には、代々木国立競技場第2体育館で、スーパーミュージシャンを従えての素晴らしいセッションライブを繰り広げた吉川。2008年もドロップキック・マインドで、味のある路地裏を突き進む。

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「この辺にいるはず…」と言われ、振り返ると猫 夜中しか開かないけど行列のできる、キクヤベーカリー 吉川推薦の和装小物店。「面白いモノを売ってるよ」


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