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2008年02月26日

 

第35回 渋谷区恵比寿~広尾

デートの思い出と武将に思いをはせる

 恵比寿の駒沢通り沿いにある『以久せ』という店は吉川のおすすめである。「この界隈では珍しい、料亭みたいな古っぽい雰囲気がいいでしょ。ランチは普通の値段だから、ちょっと昼飯食べようって、こんなとこに来るのも悪くないよね」。

 駒沢通りを渡り、広尾方面に向かって裏道を歩くと、さらに吉川おすすめの『羽沢ガーデン』の前を通りがかった。残念ながらここは昨年クローズしてしまったが、樹々に囲まれた邸宅をレストランにしたもので、美しい大人の隠れ家だったのだ。

「夜にバーに行くと誰もいなかったりして、いい感じだと思ってたんだけどね。離れに個室があって、予約しておけば、京都の料理屋みたいな感じで仲居さんが料理を運んできてくれるとかね。イヤラシイ雰囲気だよねぇ(笑)」

 そういう話になると、吉川はいつも最初は口ごもる。しかしその後、照れを払拭する様子で一気に話してくれるのだ。

 この界隈、懐かしく思い出す場面は広尾の『F.O.B-COOP』にもあった。言わずと知れた輸入小物の草分けのようなショップだ。
「10代のころ、女の子とデートするのにここのカフェでよく待ち合わせさせられたね。ここで会って、小物を買ってから帰ろうとかいって、何回コーヒーとか紅茶を飲まされたか(笑)。でも俺、そういうのは結構つきあうんだよ。女の子ってのは洒落たいわけじゃない。レストランにしても、いつもと違う格好をして行く場所が欲しいわけでしょ。それはそれでつき合って、じゃあ次は俺の知ってる店に行こうって、浅草の煮込みの店とか連れていくと喜ぶよ。まあ、この店に関しては、女の子が小物好きなのは分かるからね。これとこれどっちがいい?って聞かれても、俺は正直どうでもいいんだけど、それを言うとアウトなんだよね。“人の話聞いてないでしょ”って(笑)」

 羽沢ガーデンから『F.O.B-COOP』へ向かう途中、この日は広尾商店街も通り抜けた。吉川は迷わず『祥雲寺』へと足を向ける。大名墓群があるこの寺で、吉川が向かうのは黒田長政の墓所。

「長政は黒田官兵衛の息子なんだけど、この官兵衛が天才軍師ですごかった。豊臣秀吉に仕えたから結局は織田信長の軍師でもあったわけで、信長は彼のおかげでいろんな城を落とせた。すごい戦略家で、織田信長も豊臣秀吉も徳川家康も、自分じゃなく天下を取る人間がいるとしたら誰だっていうと、3人とも官兵衛の名前をあげてるんだよ。争乱に乗じて一度は天下取りを目論み、関ヶ原の戦いでは息子の長政をあえて徳川方に送ったんだよね。戦いが長引く間に自分は九州を落として、さらに攻め上がるというシナリオを頭に描いたみたいなんだけど、思いがけず息子の長政が大活躍しちゃって、あっという間に徳川が勝って戦いが終わっちゃった。自分の策略を息子に話したらもれると思って、言わないのがあだになったんだね。血は争えないというか、知らなかったとはいえ大活躍した息子も相当な策略家だったわけだね。だから仕事でつまった時なんかに参るんだよ。軍師って作戦を立てる象徴みたいなもんだから、知恵を貸してくれと。でも、いつ来ても誰かが墓参りに来た痕跡がなくて、寂しいね」

 デートの思い出話とは違い、武将話は一気にまくしたてた。「男ってこういう話が好きだから」。晴れた冬の日、2時間も歩けば軽く汗ばみ、お腹も空く。「昼飯、どうする?」。話し合った結果、西麻布の『北海園』へ。入り口で客を歓迎する店名物のオウムの年齢が57歳だったと聞き、驚きを隠せない吉川だった。

(つづく)

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羽沢ガーデンの入り口だったところ。「なくなるの残念だね」 「一度入ってみたい」という広尾商店街路地裏の店 「鳥って長生きしないよね」と話してたら、なんと57歳!

2008年02月12日

 

第34回 港区南青山~渋谷区広尾

ウーパールーパーと探偵物語

「ここはウチのファームなんだけどね」。青山学院大学の裏手の一角。吉川の案内で住宅街を歩くと、貫録ある古風な民家に出くわした。「知り合いの家なんだけど、仕事で長期間いなくなる時に、事務所の植物とか金魚とかを預かってもらってる。土の庭があるし、大きい水槽もたくさんある家だからね」

 今、そのお宅には、吉川がスタジオで飼っているウーパールーパーが預けられている。昨年秋に撮影でペルーに出向いた際に預けたもので、「結構大きくなっちゃって、うちの水槽じゃ狭くなってきてかわいそう」という理由で今も仮住まい中だ。

「あいつらは目がほとんど見えないから、冷凍キューブになった赤虫を食べやすい大きさに切って口の周りに持っていってやると、歯がない分ものすごい吸引力で吸い込む。でも、氷ってる餌だから飲み心地が悪いんだろうね、一度吸い込んでからペッペッと赤虫を2、3匹吐き出すのがバカすぎておかしいよ(笑)。手も最初は指がくっついてるのに、毎日動かしてるうちに動くようになってくる。子供のころからずっと見てるとおもしろいよ。餌をやるときに机を3回打つとか決めておくと。その音であがってくるからね。水中ではえら呼吸だけど、陸上だと肺が発達して肺呼吸になるとか、不思議な生き物だよ。食べると旨いらしく、それで数が激減しちゃって養殖が盛んになった。美味いとか、皮が重宝されるとか、すべては人間様のご都合しだいってわけ、おおよそ絶滅した生き物ってのは乱獲が主原因だという、傲慢な話だよね」

 六本木通りを恵比寿方向に渡り、坂を登ると、皇族の家の壁と隣りの塀の間が路地になっていた。何の意味もない路地でも、見つけたら入るのが吉川流。路地を抜けると右前方に国学院大学。その先にある氷川神社は、事務所の初詣で訪れた神社だそうだ。

「自分の初詣はいろんな神社に行ってるよ。毎日歩いてると、正月の三が日だけでも10や20の神社に出くわすから、それを一通り詣るというね(笑)」。この氷川神社には、今どき珍しい土俵もある。同行スタッフと「子供のころって必ず相撲大会があったよね」と、談笑する吉川だった。

 裏道りを明治通りへ向かう途中、一軒の魚屋を教えてくれた。『丸大魚店』という名前の古い魚屋だが、「表通りのスーパーより全然いい魚を売ってる。プライド持って商売してる」と、お墨付き。

 そして次に「おもしろいものを教える」と向かったのは、屋上を通って家に入る不思議なマンション。「傾斜地に立ってるからそうなったみたいだけど、内覧をやってる時に通りかかって、わざわざ見に行ったんだから。“ちょっと部屋探してるから見せてくれない?”って。一度屋上を通ってみたかったんだよね。礼を言ってすぐ帰ったら“もういいんですか?”って(笑)」

 そこから広尾高校前の信号に出て、駒沢通り方面へ向かいながらなだらかな坂を下る。歩きながら吉川は、もうひとつお気に入りだった場所の話をしてくれた。「このへんに、ドアの幅くらいしかない家があったんだよ。二階建てで、ものすごい細い。おかしな家だなと思って気に入ってたけど、ついになくなっちゃった。その家はね、もし自分が探偵物語みたいな映画とかプロモーションビデオを撮ることがあったら、絶対に住んでる設定にしようと思ってた。出入りするシーンでドア開けて出てきた時、家自体がそのまんまの大きさかよって思ったら笑えるでしょ」。そんな映像をぜひ見てみたかったと思ったが、それもまた時の流れである。

(つづく)

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吉川のウーパールーパはピンクと黒。これは別個体 氷川神社の土俵。ここまで立派なのは珍しい? 恵比寿の裏路地で見つけた『ゆ』。青空に映える