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2008年04月15日

 

第38回 足立区・竹ノ塚

この道も正義へ通じる

「前に北千住から日光街道を歩いたときは、とりあえず県境を越えてみようと思ったんだよ。徒歩で越えるのって、何となくおもしろいじゃない。神奈川との境も、千葉との境も歩いて越えたことがあるから、それなら埼玉だと。で、たまたま“春日部はクレヨンしんちゃんの地元だ”ってことを思い出して、草加に行って草加せんべいでも食って帰ろうってことで歩きだしたんだけど、これが結構時間かかった」

日光街道を北上しながら、吉川は数年前にここを歩いた理由を説明する。

 ゆっくり歩くお年寄りを通り越しながら、「ちいさいおばあちゃんに会うと、なんとなくありがたい感じがするよね」。お茶屋の前を通りかかると、「そろそろ新茶の季節だね。うまいよー、静岡の一番茶は。何杯入れても渋くならない」。

 乾物屋の前では「渋いねぇ」と言いながら足を留め、古道具屋の店先に置かれた陶器の火鉢に興味津々。露天の煎餅屋で塩味の揚げ煎餅を買い、ポリポリかじりながら、以前見つけたという「着ぐるみ屋」を目指す。

「こんなに遠かったかな。マンションの1階みたいなところに巨大なぬいぐるみの店が現れて、何だこれ? と思って見たら、着ぐるみ屋だった。確かこの辺りだと思うけど…あった、ここ!」。吉川の言う通り、それはまぎれもなく着ぐるみ屋だった。「ヘッドラインでもキャラクター募集して作ってみたら?」。微妙な提案だが、いちおう考えてみましょう。

「そろそろ将棋の公園があるよ。前に来たときも、千住から歩いて腹が減って、角の寿司屋で寿司を買って、あっちの方に木が見えるから多分公園だろうって、そこで食べようと思ったら、公園中でおじさんたちが将棋をやってて、おもしろいとこだなと思ったんだよ」

 たどり着いた元渕江公園では、その日も大勢の人が将棋をさしていた。近隣住民のいこいの場になっているのは一目瞭然で、公園のあるべき姿がそこにあった。「こういうのって、いい感じだよね」。ベンチに座り、ほっと一息。しばし暮れゆく広い空を眺めた。

 本来ならそこから県境を目指すのだが、稽古中の吉川にはまだ仕事が残っていたため、残念ながらこの日はここで時間切れ。その後北千住に戻り、取材スタッフとビールを一杯飲み干し、吉川は軽やかな足取りで稽古後の会合へと向かって行った。

◆ ◆ ◆
 そして4月4日、吉川は新国立劇場中ホールで、主演ミュージカル『SEMPO-日本のシンドラー 杉原千畝物語-』の初日を迎えていた。

 物語のイントロダクションとなる第1幕では吉川の出番は少ないが、だからこそ、その存在感は際立ってみえる。異国に紛れ込んだひとりの日本人外交官が、人との交流の中でしだいに変化し、自分はどう生きるべきかを模索する。抑えた演技からしだいに感情を高ぶらせ、1幕の最後でSEMPOの思いを歌い上げる場面は圧巻だ。

 そして第2幕。吉川は、時に壮大に、時に自らの心に歌いかけるようにさまざまなナンバーを聴かせる。その歌声は感動的で、演じるSEMPOのひたむきさを強く感じさせるものだった。終演後の楽屋。

 素晴らしかったことを伝えると、「ホント? でもまあ大変だけど、みんなでひとつのものを作り上げるのは楽しいし、千畝さんの役だったから心情的にやりやすかったことはあったね。こんな日本人もいたんだと思うし、ほら、俺って、正義とか大好きだから」

 ミュージカル『SEMPO』は、ナチスドイツから迫害された人々約6000人に、命のビザを書き続けたひとりの外交官の勇気と決断の物語。歴史の路地裏にさした一筋の光を演じることは、やはり吉川に似合っていた。
*公演は同所で22日まで。その後、名古屋、神戸公演も行われる。

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変わりゆく街に残る民家 気ぐるみレンタルもOK 将棋場と化す元渕江公園