第47回 港区赤坂周辺
言葉の通じない店で考えたこと
吉川と共に街を歩くと、たまに狐につままれたような気になることがある。赤坂の氷川神社前の坂を下り、地下鉄千代田線の赤坂方面へ向かっていたところ、「あまり人とすれ違わずにショートカットできる道があるよ」と言ったと思ったら、吉川の姿はひょいと路地に消えた。「は?」と思いながら背中を追うと、路地を抜け、大きなビルの脇に出た。見上げるとそこは鹿島建設のビル。吉川はさらに脇道をずんずんと進み、通りすがりの紳士然としたビジネスマンをちらっと見ては、「いいスーツ着てたね」と瞬時に見抜く。普段はジャージー姿ではあるものの、やはりいいものを見る目を持った人なのだと感心していると、突き当たりを右に折れてさらに数分。やっと“ああ、ここに出たのか”と思える場所にたどりついた。そこは、国際新赤坂ビル東館と西館の間を抜けたところの三叉路。「ね、わかったでしょ」。人知れぬ路地を紹介した吉川はちょっと得意げな笑み。確かに、なんとか研究所という怪しげな看板を掲げた家や、古いがしっかりした造りのビルなどを眺めながら、大規模な開発から取り残された路地ならではの風情を感じることができた。見上げる先には赤坂サカスのビル。しかし吉川の次なる目的地はさらに用がなければ絶対行かなそうな階段路地だった。
赤坂二丁目交番に向かって右手。再び「ひょい」と路地をまがった吉川の後を追うと、バーなどが軒を並べる細い階段があった。上りきると少し広い道路に出たので、ちょっと立ち止まってひと休み。迷路のような赤坂探検はなかなかに楽しい。
「ここのキムチはおいしいよ。日本人はあまり買いに来ないみたいだけどね」。今や韓国料理&韓国食品街になった赤坂みすじ通りにある一軒。吉川はここに「よくキムチとマッコルリを買いに来る」そうだ。「ここだと生マッコルリがあって、うまいよ」。その脇の路地を入ると、今度は韓国人が経営している中華料理屋『礼林』があった。「なんで中華料理なの?って思うけど、俺は時々、おもしろがってこういう店に入っちゃうの。でも言葉が全然通じなかった。日本語も英語もダメで、店のオヤジが電話してたら5分くらいで子供が来て、“どうもすいません、うちはみんなしゃべれないんです。でも、日本人はあまり入ってこないですよ”って言われた(笑)。しかしそういうとこはたくましいよね。日本人だと、自分がしゃべれないと申し訳ない感じになるでしょ。でも、俺がしゃべれないと軽く嫌な顔されたから(笑)。したたかというか、度胸あるというか、そのたくましさは見習うべきかもしれないね」
その後、みすじ通りから一ツ木通りへ抜け、赤坂不動尊などに立ち寄りながら青山通りに出ると、「猫の住処があるよ」と、思いがけないことを言う。赤坂見附に下る途中のビルとビルの間にある低い塀をのぞき込み、「ほら、いた」と吉川。見ると、子猫がこちらをのぞいていた。「生まれたばっかりのちいちゃいときからここに1匹だけで、親は死んだのかな。ミルクをやりに来てる人とかがいて、俺も時々ソーセージをやったりしてたけど、都会の猫はたくましいなと思ってさ。青山のピーコックの裏にも子猫が何匹かいたけど、全部いなくなっちゃったからね」。猫に別れを告げ、赤坂見附から弁慶橋に向かう。「しかしまだまだ暑いね。じゃあ、甘酒を飲みに行こうか! 甘酒って実は夏の飲み物だからね」。そう言うと吉川は、大股で横断歩道を渡っていった。(つづく)
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