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2008年10月27日

 

第50回 千代田区淡路町~神保町

女性にメイク道具を贈るのはいいか悪いか?

「歩き始めからあんなに腹いっぱいになったのは、連載史上初めてだね(笑)」

 魅力的な食べ物屋が並ぶ淡路町の路地を歩きながら、吉川は笑っていた。神田明神の『天野屋』に始まり、『志のだ寿司』『近江屋洋菓子店』とつまみ食いを続けてあっという間に満腹になり、目当てだった神田『薮蕎麦』やお汁粉『竹むら』もすべてパス。しかしここ淡路町界隈にはさらに胃袋を刺激する店が軒を連ねていた。『ミルクホール』というのれんを掲げる食堂の前を通っては、「いいねー、こういうとこ。ここで食べてもよかった(笑)」。腹ごなしに付近を散策すると、路地の間に『一八稲荷』を発見したりしたが、別の通りに抜け出ると再びいい匂いが鼻をついた。「この香りはごま油…?いや、何か他の油も混ぜてるね」。香ばしい匂い漂う先には天ぷらの『八ツ手屋』。外観もこれまた吉川好みの老舗感たっぷりだ。苦笑しながら店の前を通過し、“食べる時は計画的に”の心得を抱きながら淡路町の路地を後にした。

 外堀通りに出て淡路町の交差点に向かうと、ある店の前に並んだ“筆”が目に止まった。よく見ると、書道の筆の他に、女性がメイクに使うフェイスブラシもある。店の名前は『栄豊斎』。筆の名産地として名高い広島の熊野の筆を販売しているとの表記もある。そんな名品の化粧道具を女性に贈ったら喜ばれるはずと吉川に問うと、「いやぁ、それは微妙じゃない?」と、意外な答が返ってきた。

「女性の機嫌がいい時だったらいいんだけどね。うっかり悪いタイミングで渡すと、“私にもっと化粧しろっていうこと?”みたいな話になりかねない(笑)。そこが男と女の難しいところで、実際に化粧道具をあげたらどういう反応になるか、みんなの統計が知りたいね(笑)。でも、どうせならそういうものこそ高級品を買うってのはいいと思うし、粋だよね。熊野っていうのは俺が育った町の隣りで、ひと山越えたとこなんだけど、子供のころ自転車に乗ってよく行ったよ。昔から筆作りが地場産業で、熊野の筆は日本一といわれていて、店の前に巨大な筆がぶら下がってたりしたからね。そこの筆は全部職人の手作業で作ってたから、きっと女性用のブラシもいいものだと思うよ」。店に入り、実際に手で触ってみると、なめらかな肌ざわりが心地いい逸品だった。そしていよいよ、吉川がこよなく愛す古本の街、神保町へと向かう。

「最近はあまり来なくなったけど、以前はリュックを背負ってよく本を買い出しに来てたよ。多い時は背中のリュックいっぱいに本を詰めて、さらに両手に袋。さすがに重いし、ちょっとカッコ悪いから、一度に買うのは7、8冊にとどめるようにしてるけど、古本はホントに安いからね。文庫本って読んだら捨てちゃう人も多いと思うけど、俺は面白かったら何度も読みたいし、面白いと思ったらハードカバーで買っておきたいの。でも、それで集め過ぎちゃって、今は自宅の本棚が底が抜けそうなくらいヤバイ。もうやめないとなーと思ってるけど、まあ、いつの日か書斎のある家に住みたいね。海外の映画で見たような、移動式の梯子がかかってるような本棚のある書斎。そこに登りながら本を読めるような生活がしたいね。いい本は時代に関係なく自分の財産になるからね」。裏道を通り、神保町のすずらん通りに入ると、目指すのは中国書専門の『内山書店』。作家の宮城谷昌光さんに勧められたあるものをそこで購入したそうだが、吉川に案内された店内で見せられたのは、驚きの“あるもの”だった。
(つづく)

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「食べ物屋なのに、なぜミルクホールなの?」 香ばしい匂いに誘われる天ぷら屋『八ツ手屋』 『栄豊斎』で売ってる化粧ブラシ。触り心地◎

2008年10月13日

 

第49回 千代田区神田明神~淡路町

老舗めぐりは食べ過ぎに注意!

 昔の日本を感じさせる雰囲気のある店内。飾り棚には、ひょうきんな顔の狸の置物や、美しい江戸切り子のグラスなどが飾られていた。「次回はここに行こう」という吉川の希望でやってきたのは、神田明神の門前にある甘酒屋『天野屋』。「江戸に仇打ちに来た人が生活のために甘酒屋を始め、仇は見つからずにそのまま店が本職になった」と吉川が話してくれていた例の店である。

「いいねえ、この雰囲気」。エアコンもなく、開け放たれた窓から風が入り、扇風機がその風を回している。ウオーキングの前に飲み食いしたことは今までにないが、「ま、いいか」ということで、さっそく甘酒を注文。それは控えめな甘さが心地いいやさしい味わいだった。口直しにはもろみ味噌がついている。一口食べると「ウマイ!」と吉川。店の雰囲気にやや不似合いな客たちに興味を持ったのか、おかみさんが出てきて自家製の糀納豆やたくわんを試食させてくれた。その都度吉川は旨さに大喜び。「帰りに寄って買って帰ろう」ということになり、さて懸案の“仇打ち”の件を確認すると…。 

 話は本当だった。なにしろこの『天野屋』は創業163年。商売の事始めとなった甘酒から、現在はさまざまなこだわりの一品を販売している。「じゃ、後でまた来ますからね」と挨拶して、神田明神を起点とするお茶の水~淡路町~神保町の路地裏探索をスタートした。

「あそこの古い家とか事務所にいいよね。川がもっときれいで、夏には飛び込めるんなら借りてもいいかな」。聖橋を渡る途中、神田川に面して建つ民家を指して吉川が言う。にごった川にも魚の影があることに気づき、水がきれいだったら自分で魚を捕るつもりらしい。やはりターザンな人である。

 お茶の水駅の脇を抜け、ニコライ堂を見ながら坂を下り、淡路町に向かう。今回吉川は珍しくお散歩マップを持参していた。「以前、知り合いとこの辺を歩いたことがあるんだけど、いい感じの蕎麦屋とかいろいろあって、店を紹介するのにいいなと思ったんだよね」。そのメモには、神田の『薮蕎麦』、お汁粉『竹むら』、蕎麦の『神田まつや』などに印がついていた。一軒ずつ店を確認しながら、まずは志の田寿司のテイクアウトで腹ごしらえ。続いて、気になっていた『近江屋洋菓子店』にも迷わず入店。昭和レトロな店構えに、「いい雰囲気だよね。石原裕次郎とかの映画に出てくるような、昔の日活映画みたいな作り。映画の世界で見たキャバレーっぽい感じの椅子も置いてあるし、俺はこういうとこ、好きだね」。素朴な総菜パンにかぶりつき、店内で売っているボルシチも食す。店を出てさらに路地をめぐると、昼時だけに“金目鯛の煮付け御膳”など、料理屋の前には旨そうなメニューが並ぶ。「うーん、食べるなら金目鯛のほうがよかったな…」。しかし時すでに遅し。甘酒、寿司、パンとつまみながら、気がついたらすでに腹いっぱいになっていたのだ。「最悪だね」と吉川も大笑い。「ホントは『薮蕎麦』で昼を食べたかったんだけど。人間、食べる量にも限界があるから、これはギャル曽根ちゃんみたいな人じゃないと無理だった(笑)。だいたい蕎麦屋のはしごとかできないでしょ。もしやるなら、昼に蕎麦食ってビール飲んで、歩いて、みんなで遊んで、夜に蕎麦食ってしめる。計画性持たなきゃダメだな(笑)」。珍しい失態に笑いながら、ちょっと寄りたかった喫茶店『ショパン』の前を通り過ぎ、神田の多町から小川町、神保町の古本屋街へと歩を進めた。(つづく)

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甘酒も納豆もたくわんもウマかった『天野屋』 次に行った時にはぜひ食べたい神田『薮蕎麦』 『近江屋洋菓子店』。吉川好みのレトロな雰囲気