第49回 千代田区神田明神~淡路町
老舗めぐりは食べ過ぎに注意!
昔の日本を感じさせる雰囲気のある店内。飾り棚には、ひょうきんな顔の狸の置物や、美しい江戸切り子のグラスなどが飾られていた。「次回はここに行こう」という吉川の希望でやってきたのは、神田明神の門前にある甘酒屋『天野屋』。「江戸に仇打ちに来た人が生活のために甘酒屋を始め、仇は見つからずにそのまま店が本職になった」と吉川が話してくれていた例の店である。
「いいねえ、この雰囲気」。エアコンもなく、開け放たれた窓から風が入り、扇風機がその風を回している。ウオーキングの前に飲み食いしたことは今までにないが、「ま、いいか」ということで、さっそく甘酒を注文。それは控えめな甘さが心地いいやさしい味わいだった。口直しにはもろみ味噌がついている。一口食べると「ウマイ!」と吉川。店の雰囲気にやや不似合いな客たちに興味を持ったのか、おかみさんが出てきて自家製の糀納豆やたくわんを試食させてくれた。その都度吉川は旨さに大喜び。「帰りに寄って買って帰ろう」ということになり、さて懸案の“仇打ち”の件を確認すると…。
話は本当だった。なにしろこの『天野屋』は創業163年。商売の事始めとなった甘酒から、現在はさまざまなこだわりの一品を販売している。「じゃ、後でまた来ますからね」と挨拶して、神田明神を起点とするお茶の水~淡路町~神保町の路地裏探索をスタートした。
「あそこの古い家とか事務所にいいよね。川がもっときれいで、夏には飛び込めるんなら借りてもいいかな」。聖橋を渡る途中、神田川に面して建つ民家を指して吉川が言う。にごった川にも魚の影があることに気づき、水がきれいだったら自分で魚を捕るつもりらしい。やはりターザンな人である。
お茶の水駅の脇を抜け、ニコライ堂を見ながら坂を下り、淡路町に向かう。今回吉川は珍しくお散歩マップを持参していた。「以前、知り合いとこの辺を歩いたことがあるんだけど、いい感じの蕎麦屋とかいろいろあって、店を紹介するのにいいなと思ったんだよね」。そのメモには、神田の『薮蕎麦』、お汁粉『竹むら』、蕎麦の『神田まつや』などに印がついていた。一軒ずつ店を確認しながら、まずは志の田寿司のテイクアウトで腹ごしらえ。続いて、気になっていた『近江屋洋菓子店』にも迷わず入店。昭和レトロな店構えに、「いい雰囲気だよね。石原裕次郎とかの映画に出てくるような、昔の日活映画みたいな作り。映画の世界で見たキャバレーっぽい感じの椅子も置いてあるし、俺はこういうとこ、好きだね」。素朴な総菜パンにかぶりつき、店内で売っているボルシチも食す。店を出てさらに路地をめぐると、昼時だけに“金目鯛の煮付け御膳”など、料理屋の前には旨そうなメニューが並ぶ。「うーん、食べるなら金目鯛のほうがよかったな…」。しかし時すでに遅し。甘酒、寿司、パンとつまみながら、気がついたらすでに腹いっぱいになっていたのだ。「最悪だね」と吉川も大笑い。「ホントは『薮蕎麦』で昼を食べたかったんだけど。人間、食べる量にも限界があるから、これはギャル曽根ちゃんみたいな人じゃないと無理だった(笑)。だいたい蕎麦屋のはしごとかできないでしょ。もしやるなら、昼に蕎麦食ってビール飲んで、歩いて、みんなで遊んで、夜に蕎麦食ってしめる。計画性持たなきゃダメだな(笑)」。珍しい失態に笑いながら、ちょっと寄りたかった喫茶店『ショパン』の前を通り過ぎ、神田の多町から小川町、神保町の古本屋街へと歩を進めた。(つづく)
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