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2008年11月24日

 

第52回 中央区築地~月島

勝どき橋を走った17歳の吉川晃司

 昼を過ぎても築地場外市場はにぎわいを見せていた。「夏に知り合いを集めてBBQをやった時は、ここで大ぶりの伊勢エビを一匹2000円で買ったからね。東京じゃ普通はありえない値段だけど、全部買うから安くして、他のも買うから安くしてって値切って買っちゃった」。買い物上手は交渉上手。値切るのもコミュニケーションのひとつなのだ。魚好きの吉川は、「ちゃんと築地を歩く時は、また別の機会に早朝の場内に行こう」と言いながらもさまざまな店の前で足を止める。「ここでよく包丁を買った」という包丁屋正元の前では、プロ仕様の道具の説明もしてくれた。「貝を開けるヘラは普通1本のヘラで全部やっちゃうけど、本当は貝によって道具が違うの。赤貝用とか平貝用とか。牡蠣なんかはやっぱり殻ごと買って自分で開けて食べたほうが断然ウマイよ。海の香りが苦手っていう人もいるけど、田舎のきれいな海で育った連中にとっては、たまらなくいい香りなんだよね。殻を開けて、海水と牡蠣のエキスが混じり込んだそのままをいただくんだけど、ちょっと柑橘系を搾ってもいいね。だから、牡蠣の香りや味の違いは、育った海に左右される。これからの季節、ナマコもはずせないな、俺としては。これもね、えもいわれぬいい香りさ。コラーゲンが豊富だし、身体を内から暖めてくれるらしいから、女性にもいいでしょ。ひとつ、いいこと教えるね。牡蠣をフライにする時、小さい牡蠣は2つ一緒に、靴を箱に入れるみたいに腹を重ねて揚げるんだよ」。なるほど、と感心していると、「なんちゃってね」と照れ笑い。ウマそうな話によだれが出そうになってしまった。

 刺し身などの皿を売る店では、盛りつけのこだわりで話が弾んだ。「スタジオで曲作りしてる時なんか、気分転換したくなることがあって、そんな時は近所の仲間に声かけて刺し身を振る舞ったりするんだよ。檜のまな板に、お新香、ミョウガ、大葉にモロキュウ、大根のツマなど、いろんなものを盛りつけるの。アート感覚っていうか、カッコよく言えば枯山水みたいな感じ。作ってる時は無心になれるし、食べた人は喜んでくれる。そういうのをやるのが好きなんだよね」

 築地6丁目から晴海通りを渡り、勝どき橋に向かう途中では、さらに思わぬ話も飛び出した。「昔、この通りを半パンにびしょ濡れのワイシャツで何度も走ったよ」。もちろん実話ではない。デビュー作となった映画『すかんぴんウォーク』で、東京湾をバタフライで泳いできて上陸する有名なシーンでの話だ。「当時は勝どき橋のどんつきが海で、そこから上陸、晴海通りをハダシで走って、走ってる間に体が乾いて、皇居のところで、はとバスに潜り込むっていう設定だったんだよ。映画っていろんな角度から撮るから、泳ぐのも走るのも10回以上繰り返して、今思うと感心しちゃうよね。撮影してる時はデビュー前で無名だから、通りすがりの人が“AVの撮影?”“そういやアイツ、AVで見たことある”なんて適当なこと言ってたりして(笑)」。その時17歳の吉川晃司が走った道を、来年デビュー25周年を迎える吉川が歩く。橋からの眺めは時代と共に変わっても、人はそうそう変わらない。あのころの青さや熱さは形を変え、今に脈々と受け継がれている。それを証拠に(?)、その後向かった月島の駄菓子屋では、30円と10円の懐かしいゼリーのおやつに大はしゃぎ。吉川が手にしたのは30円のヨーグルト味。「30円のほうが絶対にウマイ!」と笑う姿は、まさに少年のままなのだった。(つづく)

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築地の露天でドライ桃を購入。ウマかった! 場外の魚屋で生子を発見!「ウマそうっ!」 「月島は表通りより路地の雰囲気がいいね」

2008年11月10日

 

第51回 千代田区神保町~山の上ホテル

本を読まなきゃ人間深くならないよ

 神保町のすずらん通りにある中国書専門店『内山書店』に入ると、吉川は棚から分厚い本を取り出してこう説明した。

「これが宮城谷(昌光)さんに勧められて買った中国の4000年分の地図。“小説に付いてる地図だけじゃ分からない”と言ったら、中国の全時代を網羅してるものがあるから、それを傍らに置いて読むといいって教わったの。でも、時々字が分からない(笑)。中国の略字って、あまりにも略されてるからね。宮城谷さんには、地図の他に『資治通鑑(しじつうがん)』っていう中国の史書も勧められたけど、これはもう見た瞬間にあぜんとした。原文のまんまなの。漢文、しかも見たことのない複雑な文字で、要は和訳されていない(笑)。さすがに買わなかったけど、宮城谷さんの研究ぶりはすさまじいと思ったね」

 地図の効用については、「大陸の川って、一度氾濫すると平気で数百キロも流れが変わっちゃうらしく、この町からこの町まで何日で行けたっていうのが時代によって矛盾するわけで、そういうことを地図を見ながら読んでるとイマジネーションが広がる」とのこと。天気のいいい午後、すずらん通りを歩きながら吉川の本の話は続いた。

「何度も言ってるけど、中国が好きで中国史を読んでるわけじゃなくて、日本を知るためにはまず中国を知らないといけないし、本来の熟語の意味とかも分からないから。『四面楚歌』だって、“四面が楚の歌”っていうのは、そういう場面があったからできた言葉なわけで、中国の4000年を把握すると、日本の武将の戦術とかも分かってくる。ルーツはほとんど中国にあるからね。だからまずいところにハマったんだよ。一生かかっても読み切れる数じゃないから(笑)」

 地下鉄神保町駅近くの路地には、吉川おすすめのカフェ『さぼうる』がある。古くからこの街にある有名店で、古き良き味わいを醸す雰囲気がいい。広島の修道高校時代の水球部の先輩でコラムニストの神足裕司氏と飲んだ時、待ち合わせで訪れたそうだ。本屋街は「紙と印刷のにおいが好き」と吉川。その後は多くの小説家が執筆のために滞在した山の上ホテルに向い、さらに本の話を続けた。

「今、若い人たちがあまり本を読まなくなったっていうけど、もったいないよね。本を読まない人って底が浅いし、俺は本を読まない連中は基本的に信用しないと言ってもいい。そういう人って、近道しようと思っても結局は人生の大遠回りしてると思うよ。文字を読まないと想像力が身に付かないし、学びたいって気持ちがなくなったらそこで止まっちまう。自分を高めるためには、生涯勉強でしょ。ベタベタな言葉だけど、俺はホントにそう思うよ。人に会って、この人深いなっていうのは、出で立ちとかまなざしで分かっちゃうし、深くない人は魅力的に思えない。学問とは人を知ること、と言っても過言じゃないもんね」

 でも、読むのはいいけど書くのは難しいね、と吉川は笑みを浮かべる。「北方(謙三)さんに何度も“書け”って言われるけどね。音楽やってるヤツは文章に独特のリズムがあるからいいって。でも、そうそう書けるもんじゃないでしょ。だから、夢としてはあるけど、今はとにかくひたすら読むと」

 神保町、お茶の水界隈は大学も多く、「学生街っていいよね」と吉川。帰り道、今回の歩き始めから気になっていたニコライ堂の近くにあるスペイン・バル『カフェ・ド・アリ』に立ち寄った。吉川は、ダブル・エスプレッソを注文した。

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吉川なじみの街、神保町すずらん通り 中国関係の書を探すならまずここへ! 天ぷら&中華&ワインバーも有名だ!