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2009年01月26日

 

第55回 渋谷区猿楽町~目黒区中目黒

あこがれの日本家屋で鴨居にゴン

 並木橋の脇を通り、路地を抜け、“裏”ルートから代官山を目指してたどり着いたのは、代官山アドレスの裏側。八幡通りを横切り、武家屋敷風の駐車場をパスしながらヒルサイドテラス方面に足を進めていたとき、「このあたりにあるバリ風の洒落たレストランに来たことがある。店の外のテラスに水が流れてるようなとこ」とふいに吉川が言う。いつもの吉川からすると洒落た場所に自ら行ったとは意外だが…「NHKでやった『真夜中は別の顔』の撮影でね」というから納得だ。「出演していた大澄賢也さんを水に落とす場面で、なんだかすまなくてね(笑)」

 ヒルサイドテラスに着くと、「デビュー当時、ここにあったサンドイッチ屋によく連れてこられた」と吉川。その店『TOM'Sサンドイッチ』は、本日も営業中。平日午後のヒルサイドテラスにあまり人影はなく、冬の温かい日差しがちょっとしたのどかさを演出していた。

「こっちこっち、この日本家屋にずっと行ってみたかったんだよね」。吉川が手招きする先には、堂々たる姿を見せる時代がかった家屋があった。傾斜地になっているため、ヒルサイド側から屋根に飛び移れるほどその距離は近い。「どうやって入るんだろう? この柵を越えれば屋根づたいに…」と、大人らしからぬ相談をしながら、なぜかコソコソと道路側に回ると……。「あれっ?こんな入り口、あったっけ?」。聞けば、去年の6月から一般開放されたという。広大な日本庭園を有するその建物は、重要文化財となっている『旧朝倉家住宅』。入館料100円を払い、靴を脱いであがり、大正時代の和風建築の趣を色濃く残す家の中を歩きながら、「いやー、素晴らしい!」と吉川は感激しきりだ。「昔からすごい屋敷だと思って見てたけど、こういう家で、着物着て、夏は縁側でスイカの種を飛ばす。そういう生活が一番贅沢だね。このまま押入れに隠れて、閉館してからひとりでゆっくり楽しみたいよ(笑)」。子どもならやりそうなことですよね、と返すと、「大人になったからなおさらやりたい」と吉川。「もし解体してビルにするなんていったら、絶対やりに来たい。それなら通報されてもいい(笑)」。昔の家だから、ほらね、と吉川は鴨居に「ゴン」と頭をぶつけて見せる。182センチの体は、この家にはちょっとだけ大きすぎるようだ。

 その後は、高台にあって景色のいい西郷山公園で休憩し、坂の下の菅刈公園にも立ち寄り、坂に沿って作られた都心では珍しい畑を見に行った。「いつも子どもがいっぱいいるんだよね。学校で畑をやってるのかもしれないけど、そういうの、いいんじゃない」。そして今回の締めは、目黒川を渡った中目黒にあるなじみの金魚屋。「金魚を始めたときにいろいろ教えてもらった」という『熱帯魚 かのう』は、魚好きのご夫婦で経営しているアットホームな店。錦鯉から、飼育用の鮫、エイ、そしてアマゾンから来た巨大なピラルクーまで、ちょっとした水族館のようだ。特にピラルクーは「ばかデカさに笑っちゃう」と、吉川も大笑いしたほど見応え十分!「魚って見てると癒されるし、美しいね。なんで魚が好きかって、“野生”の近くにいたいっていう気持ちもあるのかもしれない。今の犬とか人間と友達みたいな存在もいいのだろうけれど、俺は毒されてない魚がいいかも。ウロコなんて鎧みたいじゃない。ちょっとゾクッとするというか、本能が喜ぶって感じかな」

 吉川にとって、今年はデビュー25周年。来年2月まで続くアニバーサリーイヤーは始まったばかりだ。


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八幡通りにある、もとは屋敷だった駐車場 都心でも空が広い。西郷山公園からの眺め 魚好きなら立ち寄りたい『熱帯魚 かのう』

2009年01月12日

 

第54回 渋谷区東~猿楽町

俺は人生が“賭け”だな

「新年だから、ちょっと寄ろうか」

 吉川のひと言で向かったのは、渋谷二丁目付近から代官山へ向かう途中にある金王八幡宮。吉川は境内に入ると、手慣れた動作で手を水で洗って清める。日本人ならやり方ぐらい覚えとかなきゃと吉川の手元を凝視すると、「まず右手でひしゃくを持って水を汲み、左手を清めてから持ち替えて右手を清め、また持ち替えて左手で水を受けて口をすすぎ、最後にひしゃくを立てて残りの水を柄に流す」と、手順を教えてくれた。境内には、けがれを祓い心の清浄を祈願するという茅輪(しかも巨大!)があり、左周り、右回り、そして中央を通る手順通りに吉川も輪をくぐり、本堂へ向かった。

 吉川の新年は、八ヶ岳での乗馬から始まったそうだ。「たった2日間だけだったけどね。富士山を見て、温泉に入ってね」。NHK大河ドラマ『天地人』で織田信長を演じるために始めた乗馬も、今では自分への試練となっている。「馬って、楽に乗ってるように見えるけど、実際はすごい筋力を使うから、長く乗ると俺もヘロヘロになっちゃう。でも俺の場合、コンスタントに激しい運動をやっていかねばならぬっていう思いもあるからね。自分に飽きないようにするためには、常に崖の端を歩いてるような感覚が大事だと思ってて、乗馬はその一環。気を抜いて落馬したら骨が何本か折れるみたいなもんで、俺はやっぱりそういうのが好きなんだろうね。人間って、放っておいたらだんだん伸びたゴムになるでしょ。そうするとモノ作りなんかできなくなっちゃうから、年齢と反比例するモチベーションをキープするためには、そういう際どいことに接したり、そういう人に会ったりすることだよね。俺が芝居なんかするのも、自分が役者になりたいというより、それによって何か間口が広がるから。前に、心臓外科医を演るために心臓手術に立ち会わせてもらったときも、人間の生死の場にいるっていうすごい緊張感があった。だから、映像に出ること自体よりも、それをするための間にあることが俺にとっては大切なんだね。馬だって、これをやってれば60までステージを走ってられるかなって」

 神社から並木橋方面に向かうと、馬の話にちなんだJRAの場外馬券場に出くわした。ちなみに競馬などのギャンブルに関しては「全然興味がない」そうだ。その理由は、「俺の場合、人生賭け事だから、それで十分だよ(笑)」。「どうせ賭けるなら、俺は自分が馬のほうがいい(笑)。ヨーロッパでやってる障害競馬っていうのをやってみたいんだけど、これがすごい危ない競技で、飛び越えるのを失敗すると、人間の上に馬が降ってくる。まあ、もし若いころに馬に乗ってたらだけどね」

 明治通りの並木橋に差しかかった。吉川は橋を渡らず迷わず脇道へ。しかし数年前まで東横線の高架下にあった集合住宅は撤去され、街が変貌を遂げているのが見てとれる。とはいえ、コンクリートのガードにはグラフィティが描かれ、昔ながらの銭湯もある。「このあたりで『漂流街』のロケをやったんだけど、当時はもっとやさぐれた感があってよかったね。ロケの後で銭湯に行ったら、かなり無国籍な感じで、そういう不良くささというか隠微さは、それはそれで楽しいってあるじゃない」。吉川は「文化という観点から見れば、一方しかない街っておもしろみとかうまみがないよね」と、残念がりながらJRの線路を歩道橋で越え、さらに路地を代官山へ。「あっ、鯛焼き食べようか」。その声の先に、最近人気の『黒鯛』が見えてきた。

(つづく)

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並木橋の裏手のガードにはグラフィティが 映画ロケ後に吉川も体験した『さかえ湯』 『黒鯛』の小サイズ「女の子が好きそうだね」