≪ 番外編 吉川が姜尚中氏とトークショー! | Home | 第57回 飯倉片町~麻布台 ≫

 

第56回 港区六本木界隈

あのころの思い出がつまった街

 土曜の午前中の六本木は人通りもまばらだ。前夜のにぎわいの後の一抹の空しさを漂わせながら、街は冬の強い日差しに照らされていた。「二十歳のころ、頻繁に来てたよね」。思い出をたぐりながら、入り組んだ路地を吉川が歩く。六本木交差点から飯倉に向かって最初の路地を左に入り、小さな交差点を右に曲がると突き当たりは階段。その手前の路地にもよく顔を出した店があった。今はもうなくなったが、「海外アーティストが来日すると必ずといっていいほど顔を出した」その店で、吉川はプリンスやエリック・クラプトンらに引き会わされた。「みんなカッコよかったよ。プリンスがものすごく小さいのにビックリしたり、シーラ・Eとは一緒に太鼓叩いたり、リマールは年を聞いたらすごい上で驚いた。僕、本当は年が違うんだよって(笑)」。笑い話をしながら階段を下り、下りて左側の建物を差して吉川が言う。「このビルに入ってる『BOO!WOO?WOO!』って店、飲もうとなるとここだったなあ。音楽業界人が多くて、俺たちが10代のころは当時流行ってたハードロックのバンドたちが来てて、それから俺とか尾崎(豊)とかがいて、ビジュアル系の髪の毛おっ立てたやつらが来たときは、その髪の毛をかき分けないと入れないくらい狭い(笑)。俺がいつも座ってたのはカウンターの一番奥。斜めの屋根に天窓が開いてて、そこからよく外を見てた。店の前は墓だから見晴らしがよくてね。あのころ、墓の向こうからその窓を見たら、明かりの中に俺の顔があったよ(笑)」。その墓地をぐるりと周り、外苑東通りに戻る“スーパー路地裏”を歩きながら、当時のやんちゃエピソードを吉川は教えてくれた。

「デュラン・デュランかなんかのパーティーに呼ばれた帰り、一緒に行った友人が俺をおどかそうと思って墓の上の茂みに隠れたら、草の下が崖で墓地にドーンと落ちたんだよね。これはもしかしてヤバいんでないの?と思って俺も飛び降りたら、夜中で真っ暗だから黒い墓石が見えなくて、ガーンとぶつかって目の上を切っちゃった。で、なんとか二人這い出して『BOO!WOO?WOO』に行こうと思って歩き出したら、いきなりすごい数の警察が来た。誰かが“血を流した男がふたりいる”って通報したんだね。酔ってるから痛いとかなかったけど、それから救急病院で縫われるわ、次々と“喧嘩したんじゃないのか?”って刑事に聞かれるわ、大変だったよ(笑)」。当時所属していた渡辺プロダクションは飯倉にあり、そのころ住んでいたのは麻布十番。「仕事帰りに六本木に寄って一杯飲んで、家まで歩いて帰る生活だった」と、吉川はそのころを振り返る。「決して都心が好きなわけじゃなかったけど、そこしか行き場がなかったんだね。流行ったカフェバーとかも行ったけど、椅子が固くて座りにくくて、何がいいんだろうって思ってたよ」

 六本木5丁目交差点の角には、デビュー映画『すかんぴんウォーク』の撮影で使った『ハンバーガー・イン』があったが、それも今は新しいビルに姿を変えた。「東京に出てきて、そこでアルバイトしてる設定だったんだよね。店長役が蟹江敬三さんなんだけど、蟹ばっかり食ってる役なの。プロテニスプレーヤーを目指してたんだけど、横の動きがダメだっていうんで“蟹を食え”って言われたと。今考えるとおかしな設定だよね(笑)」。外苑東通りを飯倉片町に向かうと、歩くごとに東京タワーが大きくなってくる。そこから飯倉、そして麻布十番と懐かしい道は続いていた。

(つづく)

※写真をクリックすると拡大画像が見られます。拡大写真の右側にマウスを重ねると「NEXT」ボタンが現れ、次の写真を見ることができます。

トラックバック