第60回 港区芝浦~浜離宮
小綺麗って、貧しい空間じゃない?
吉川は、芝浦運河沿いの遊歩道をレインボーブリッジ方面へと向かっていた。遊歩道沿いの空き地には、のんびりした時間を楽しむ人がちらほらと見受けられ、東京にもお散歩ブームが到来していることを感じる。その分野では“先駆者”の吉川は、そこから海岸通りに戻り、巨大な日の出水門を横に見ながらさらに先へ進む…と、気になるものを発見した。水路の脇にある『あずま発着場』。古びた船着き場で、「もうやってないんじゃない…? いちおう行ってみる!?」。ということで路地を回って着いてみると…、「やっぱりやってないよ!」。まあ、こんな寄り道も時にはおもしろいものだ。
さらに先に進むと、今度は「あのラーメン屋、結構うまいよ」と、とある店を紹介。そこで昼ご飯を食べようという話になったが、ウマイ店は込んでいて、断念。さらに歩き、レンボーブリッジの付け根付近にある芝浦スタジオまでやってきた。ここには録音&撮影スタジオがあり、吉川もリハーサルなどでたまに訪れることがある。スタジオの前の塀を乗り越えた空き地は吉川にとっての「穴場」で、「リハの合間に、天気のいい日は寝っ転がって日焼けしたり、海を見ながらボーっとしたりしてるよ」。ということで本日もここでしばし休憩。目の前ではレインボーブリッジが巨大な弧を描いていて、なかなかの絶景ポイントだ。
「夜に一番海側のほうまで行くと、スズキとか釣れるんだよ。釣っても放すんだけどね。雨が降ったときは、リハの合間にレインボーブリッジの歩道に上がって、軽く走ったりしてるよ。高速が上にかかってるから雨に濡れなくていいんだよね。でも、このあたりも小綺麗になっちゃったけど、俺は“小綺麗”っていうのがどうも好きじゃないんだよね。街にしてもさ、例えばニューヨークのソーホーみたいに、たまたま家賃が安くて便利だったからってことで、絵描きとかいろんなアーティストが自然に集まってできた街は素晴らしいと思うけど、東京でも企業が先行した場所はわざとらしいし、いちいち金かかるようにできてて、そういうの見てると、これって貧しくないか?と思っちゃうんだよね、模造品だなと」
のんびり日向ぼっこしながら、いろんな話をした。自然の近くで聞くほど、吉川の反骨トークは含蓄を帯びて響く。
ラーメン屋が満杯で食べ損ねた昼食は、浜離宮に戻る途中に弁当を買い、竹芝桟橋近くの公園で食べた。弁当だけではバランスが悪いからと、吉川はコンビニで野菜の総菜を数点購入。ベンチに食べ物を広げると立派なランチに早変わりだ。
浜離宮に向かうルートは、最初は海岸通りの一本海側の道を歩き、その後は海岸通りをひたすら新橋方面へ。東京湾側には港湾関係の巨大な倉庫やトラックなどが並び、“巨大なモノ萌え”を感じるおもしろい風景だ。「昔はこのあたり、もっとあやしい雰囲気だったんだよね」と吉川。夜は出歩いちゃいけないような感じですか?と聞くと、「そう、だから俺は夜に歩いたりしたけど」。なるほど。だから危なかったのでは…。「あ、あはは(笑)」。
浜離宮は素晴らしい庭園だった。木の美しい枝ぶりを見たり、生い茂った葉がドームのような天井を形作っている中に入り、木漏れ日を浴びたりしながら、吉川の案内で庭園をくまなく歩く。「あっちに行ってみようよ」。促されて向かった先は、一面の菜の花畑。「海際、山際というより“自然際”が好き」と吉川は言う。年齢に関係なく、こんな美しさをちゃんと感じられるようでありたいと思った。
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