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第59回 港区大門、浜松町周辺

立ち飲みにあこがれた少年時代

 待ち合わせ場所は大門駅の近くにある焼き鳥屋『秋田屋』前。桜が満開の東京の午後、店はまだ開店前で、炭を用意する従業員の姿がちらほらと見受けられた。

「ここは、いつ通っても飲んでる人がグシャーっと歩道まで溢れてて、日が暮れるころにはみんな酔っぱらって盛り上がってたんだよね。焼き鳥を焼く白い煙りがグワーットあがってて、それがまあすごいいい匂い。店構えもこげ茶色の古めかしい感じで、その雰囲気がよかったんだけど、数年前に建て替えてきれいになっちゃったね」。残念がる吉川だが、今も『秋田屋』の開店時間は午後3時半。ちょっと一杯やりたい人には、相変わらず優しい店である。

「よくこういうとこにフラっと入ったりしてたよ。昔、うちの田舎なんかは、酒屋さんに立ち飲みのスペースがあって、よくおっちゃんたちが飲んでたけどね。10円とか20円の、串に刺した貝とかイカとか、缶詰なんかを食いながら、2、3杯飲んで帰るみたいな感じ。あるとき、住んでた家の隣りが酒屋さんで、俺はよく、外から帰っちゃあ酒屋に寄って、10円のイカを買っておっちゃんたちといっしょに食ったりして母親に怒られてた。でも、小さいころって、そういうおっちゃんが格好良く見えたわけ。店の端っこのスペースで、3、4人で立って酒を飲みながら話してる感じが、“大人だなぁ”っていう、あこがれだったよね。俺だって小さいころはカウンターにも届かなくて、大人を見上げてたわけだからね。マネしてつまみだけ食べるんだけど、もともと酒のつまみだからすんげえしょっぱいの(笑)」

 開店時間まで、まだ間がある。とりあえず今はパスして、「ここは穴場」と吉川が紹介する芝離宮に向かう。ちょうど桜は満開。周りを高層ビルに囲まれた都会のオアシスは、「穴場」というだけあって花見日和の割りに人も少なく、のんびりしたムードがいい感じである。

「浜離宮が有名すぎるから、みんなこっちには来ないんだよね。ここを作ったのは…ああ、なるほど、もともとは大久保さんだ。大久保彦左衛門の大久保家だよね」。入り口の説明看板を読みながら、「しかしこれが個人の家だったっていうのは…すごいよね」と、感心しきりの吉川である。

「入り口に、スミレが咲いてるって書いてあったけど、どこにあるかわかんないよね」と言いながら歩いていると、「あっちにあったわよ」と、初老のご婦人が教えてくれた。戻って探すも、なかなか見つからない。「ここよ、ここ!」。見かねたご婦人が手招きして場所を教えてくれた。よく探さないと見逃すような小さいスミレだが、吉川はちょっとうれしそうだ。

「山とか歩いてると、ああいうお母さんによく会うよ。すごい親切で、いろんなことを教えてくれるけど、急いでるときとか話しを切るタイミングが見つからなくてちょっと困ったりして(笑)」。芝離宮では、「フランスに行ったとき、葉っぱがサラダに出てきて食った」という西洋タンポポも発見。実はスタッフの間では、西洋と日本のタンポポの見分けがつかなかったのだが、吉川が教えてくれたのだ。

 今回のウオーキングルートは、大門から芝浦に向かい、浜離宮まで引き返してくるコース。公園から芝浦へ向かうには、本来なら海岸通りに出るのが直線ルートだが、「いや、こっちから行こう」と、JR浜松町方面に逆戻り。線路脇の路地に入り、昔のタイル張りのきれいなビルを見学したり、あやしいムード満点のJRの古いガード下を抜けたりしながら、芝浦運河沿いの遊歩道へ向かった。

(つづく)

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大門駅近くにある『秋田屋』。ただ今開店準備中! 古いタイルに感心! 浜松町駅裏の『渡辺ビル』 味のあるJRの古いガード。車は通れなくなっている

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