第68回 目黒区上目黒~碑文谷
古寺には子ども時代の思い出が
9月7日。過酷を極めた海外取材から帰国したばかりの吉川は、中目黒のスタジオにいた。身体の肉が落ち、日焼けし、本人曰く「帰還兵みたいだった」という姿は、帰国後数日で少しずつ元に戻りつつあったが、その“今”を写真に収めるべく、吉川を撮り続けているカメラマンの細野晋司氏が、さまざまなアングルからシャッターを切っていた。
「真っ黒になって帰ってきちゃったよ」と吉川。裸の上半身と、ずり降ろしたジーンズからのぞく腰骨のラインが艶めかしい。「昔は素潜り10メートルぐらいいけたけど、今は7~8メートルぐらいしか潜れなかったね。もう酸欠になりそうになりながら貝を捕ったりしたけど、しんどかったよ」。立ち話をするにつけ、そのロケがいかにハードなものなのかが伝わってきた。それに関しては後日改めて報告するとして、帰国後最初のウオーキングで向かったのは、学芸大学の駅近くにある『飯塚精米店』。ここでは自家製おにぎりを作っていて、街角ランキングでも常に上位に入る人気店だ。「こんな店があるんだったら、さっきスタジオでおにぎり食わなきゃよかったな」という吉川だったが、碑文谷公園の木陰で食べたおにぎりは「うまい! これなら食えちゃうね。やっぱりちゃんと作ったものはウマイよ」ということで、鮭のおにぎりを完食。「昔、こっち方面に住んでたときはたまにジョギングに来てた」というこの公園には、ポニーの乗馬を体験できる施設や、ウサギなどがいるミニ動物園があり、中央には大きな池がある。日差しの強い午後は空いたベンチが見つからないほど近隣の人たちに親しまれている公園だ。木陰の柵に腰掛けながら、過酷ロケの写真を何枚か見せてもらった。そこにはかなりオドロキの写真があり、興味はさらにつのる。ロケ話を聞きながら再び歩き始めた道の途中で色っぽい雰囲気の小料理屋の看板を見つけると、「いいねぇ、こういうとこでたまにはしっぽりいきたいねぇ…」。そしてセミの鳴き声と風を感じ、「もう秋だね…」とポツリとつぶやいた。
目黒通りを越え、碑文谷のダイエーの脇を入ると、駐車場に食い込むように建っている小さな焼き鳥屋が目についた。「行くならこういうとこに行かなきゃ!」。買い食いした焼きたてレバーもなかなかの美味。「誰かの結婚式で来たことがある」というサレジオ教会を過ぎ、『円融寺』に向かう。由緒ある天台宗の寺には、古い仁王門があり、その先には歴史を感じさせる木造の本殿があった。「時を経たものって、やっぱりいいね。醸すものが違う。いろんなものを見てきてるんだろうね。あの(高い床の)下には絶対、あり地獄とかの巣があるよ。子どものころ、そういうのを見つけちゃ、葉っぱとか木でちょんちょん突いて、出てくるのをつかまえて遊んでた。赤土にいるオケラとかもね。オケラは甲冑を着てるみたいで、子どもにとってはカッコイイ虫なんだよ」。少年は虫取りが好きだが、吉川もその類にもれなかったようだ。
次の目的地を『平和通り商店街』と決め、静かな住宅街を進む。「これいいね!」。見つけたのは『珠算塾』の看板。「今、ヨーロッパとかで流行ってるらしいよ。珠算ができると暗算が速くなるし、脳が活性化されるっていうけど、俺は子どものころ、そろばんを車にして遊んでたよ(笑)」。やはり予想通りの少年だったようである。
(つづく)
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