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2009年10月25日

 

第70回 世田谷区馬事公苑

馬に教えられた人間の勘違い

 待ち合わせ場所の『馬事公苑』に着くと、吉川はすでに障害レースを見学していた。馬と人が一体となってバーを越えていく姿は美しく、調和を感じる。

「あの子のお母さんに声かけられちゃった。『乗馬ライフ』見ましたって」。そう言う吉川が指し示す先には、ブロンドの髪をなびかせた女のコがいた。「家族で乗馬をやってる家なんだろうね。障害もやるんですか?って聞かれたから、ちょぼちょぼですってこたえたけど」。吉川が『乗馬ライフ』の表紙に出たのは数カ月前。ロッカーとして写真撮影する時には見られないような柔和な笑顔で、『天地人』で織田信長を演じた時に共演したスィグロという馬と一緒に写真に収まっていた。

「あいつはかわいいんだよね。スペインから連れてこられた馬なんだけど、日本に来て少ししたらいきなり甲冑を着た男を背負って、カメラやクレーンがあって火が燃えたりする現場に入れられて、俺が乗ってる間ずっと怖がってふるえてたから。でも動いたら怒られるしね。馬の先生から、暴れると怪我人続出だから、可哀想でもこういったケースでは蹴飛ばすしかないからね、って言われてたからさ。まだ若くて人間でいうとティーンエイジャーくらいなんだけど、そういう修羅場を一緒に過ごしたから何か絆ができたんだね。すごいビビリだけど負けず嫌いで、頑張るんだけど、もともと闘牛士を乗せる闘牛用の馬でサラブレッドじゃないからさ、足はそんなに速くなくて、最初はガーっといくけど全部の馬に抜かれる(笑)。もうぜいぜいいって吐きそうになってるからね。でも、その情けなさがかわいいっていうか、体の作りもちょっとデブちんで、かわいいよね」

 馬事公苑の中は広く、厩舎もあれば日本庭園もあり、馬を歩かせる(走らせる)場所は当然、柔らかな土になっていて、人間の体にもやさしい。サクサク、と土を踏みしめながら、「ここはまた別の障害のレースに使う場所だね」などと、吉川の説明が続く。乗馬を始めたのは信長役を演じたのがきっかけで、「とにかく台本に書いてある馬の場面を、意地でもやってやろうと思った」のが始まりだったが、馬への愛着は深まり、「ハマッたなんてもんじゃない」くらいハマってしまった。

「ひとつは、すごい体力作りになるってことで、あとひとつは、馬は決して自分で操作しようと思ったらダメなこと。馬って、乗っけてもらってるっていう感覚がないとダメで、それが俺はすごくおもしろい。無理に自分の意のままに操ろうなんて馬には通用しないからね。馬は素直だから、通じてない時は人間がどっか間違ってるんだよ。慣れないうちは、手は右に行けって指示してるのに、足では逆の指示を出してることがあったりして、そうなると馬は“はっ?”って(笑)。どっちなんだと思ってるのに、“言うこときかない”って人間が怒るという愚かなことが起こる。馬を困らせてるだけなのに、人間だけが困ってると思う愚かさたるや、自分で情けなくなるよ。障害で飛ぶときも、人間が飛ぼうと思って踏ん張っちゃうと馬の背中を押さえつけることになって、馬にしてみたら“飛びますよー”って言ってるのに、人間が体重かけて落としてるわけ。それを何回もやると、馬は“こいつと一緒にやるとあぶない”と思って飛ばなくなる。人間、そういうことってよくあるじゃない。何かやろうとして力が入りすぎて台無しになるとか。乗馬やってるとそういうことが具体的に感じられて、教えられることばかりだね」。ということで、聞くほどに興味深い馬の話はもう少し続く。

(つづく)

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馬事公苑で障害レースを見学。フォームがきれいだ 苑内には自然がいっぱい。たまに馬にも出くわす 公苑の隣にあるミニ動植物園。ミニ熱帯魚館もある

2009年10月12日

 

無人島の10日間。俺は退化しているのか、進むのか

 10月2日に『中居正広の金曜日のスマたちへ』スペシャルの中で放送された吉川の無人島生活。VTR終了後、食い入るように見ていた中居の「吉川晃司、なんであんなにカッコイイんだろう」という言葉が印象的だったが、デビュー25周年を機に、「人が太刀打ちできない場所で己の小ささを見つめたい、己を追い込みたい」との思いから始まった10日間の過酷体験について、今週は番外編として吉川に話を聞いた。

「とにかく日中はずっとカメラが回ってる状態だからしんどかったね。寝床を作るにも電信柱くらいありそうな丸太をひとりで運んだり、オオコウモリもオオトカゲもいたしね。でも、何より怖いのはアリだって言われて、それはスタッフも一番怖がってた。普通の小さいアリみたいなんだけど、肉を食いちぎる。一斉に襲われたら動物なんて死んじゃうからね。で、ある日、腹が減ったら食べられるように干物にした魚の欠片をカバンに入れておいて、次の日開けたらカバンの中がアリで真っ黒。俺もさすがに悲鳴をあげたよ。ウワァァァァって。まあ、向こうも必死だからね。ウミガメの卵も1メートルくらい深いところに産んでて、よくここまで母ガメは掘るなと思ったけど、それを食べるためにトカゲも頑張ってそこまで掘る。これは命の競争なんだなと思ったね」

 いきなりすごい話だが、吉川は、「都会にいて伸びたゴムみたいになってた五感が研ぎ澄まされてよみがえるのがよかった」と、真っ黒に日に焼けた顔で島の日々を振り返った。

「夜は本当にひとりぼっちで、最初の夜なんか、寒いし、緊張してるし、珊瑚の死骸が波にもまれてガチャガチャいう音がすごくて眠れなかった。サバイバルの専門家に聞いたんだけど、人間って、壁に囲まれれば囲まれるほど安心して野生の力を失っていくけど、まったく何もない空間では恐怖でなかなか寝れないんだって。マタギの人たちも山の中では一面だけ葉っぱを葺いて壁を作って、壁に背を向けて寝るんだって。で、吉川さんが(島で)葉っぱで壁を作ったのは正解ですって言われたけど、最初に教えてくれよと思ったよね(笑)。一晩だけ、雨も降らずに満天の星が見えた夜があって、それはもうハンパじゃないくらいきれいな星空だったけど、あとは風と雨との攻防。濡れた洋服も乾かせなくて、もう神経衰弱だよね。夜中にひとりで何回も叫んでたから。試されてるんだなと思ったけど、いい加減にしてくれって何度も思った。湿った草で火をおこすのにすごい時間かかって、ボッと火がついたときはすごい喜びなんだけど、記録のカメラが湿気と塩気にやられて撮れてなくてがっかりしたりね。とにかく海がきれいで楽しいなんていう余裕は残念ながらもてなかったな。栄養が取れなくて体が動かなくなるし、島にいる間は本当にやってられなかったけど、帰ってみればいろんな意味でよかったよ。人間、耐えるってことをしないとありがたみが分からないからね。ひとりで何かするってことは、いろんな意味で研ぎ澄まされるし、まず自分を守ることをしなきゃいけないわけだから。でも、“文明という名の堕落”と誰かが言ったけど、人間は最も退化した生き物だと思ったね。人間には道具を作る能力があるから、道具や武器を持ってれば一番強いけど、それをはずされたら太刀打ちできない。掌が柔らかすぎるから、木の葉っぱを持っただけで切れるしね。でも動物はそんなことない。腐らせた餌をしかけてトカゲを捕まえたんだけど、なんでトカゲは腐ったものを食べても大丈夫なんだろう、俺たちは進化してるんじゃないんだって、捕まえたトカゲを見ながらずっとそんなことを考えてたね」

 島を離れるとき、吉川は島に向かって「ありがとうございました」と頭を下げた。「たかが10日間だけど」と吉川は言うが、『たかが』が大きな前進になることは、吉川の秘められた心だけが知ってる気がする。

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