≪ 第72回 | Home | 第74回 渋谷区神泉~港区北青山 ≫

 

第73回 渋谷区並木橋~桜ヶ丘

ギターと鰺の開きの不思議な関係

 待ち合わせ場所は渋谷の並木橋。川の“暗渠”マニアの中でも熱中度の高い渋谷川に沿って東横線の高架脇を歩き、まずは渋谷駅南口近くの“暗渠”の入り口を見届けた。もともと川をコンクリートで固めて蓋をするのは反対派の吉川だ。「いろいろ理由はあるだろうけど、光とか土とか、それから有機的なものがないと生き物は生きられないんだから、本当は川に蓋をするもんじゃないよね」

 線路沿いの路地には、ごみごみした中に珍しいものが点在する。『全日本柔拳連盟本部』という太極拳を教える教室の看板を見ては、「太極拳やってみたい」と興味を示した。「今、スクワットで中腰のまま体重を移動したりして太極拳の真似事はやってるけど、めちゃくちゃキツイ。汗ダラダラになるから、体を作るのにはすごくいいと思う」。聞けば、最近世話になったスポーツトレーナーの人に「驚くほど筋肉が柔らかい」と絶賛されたそうで、「今まで何のケアもしないでやってこれたのもそのおかげで、生まれ持った体に感謝しなきゃいけないね」と吉川。しなやかなステージパフォーマンスの秘密は、こんなところにもあったようだ。

 渋谷の南口から桜ヶ丘のほうへ足を向けると、「若いころはよく通った」という楽器屋街がある。改めてギターとの出会いを聞いてみると、それは小学校低学年のことだった。「姉貴がフォークが好きで、おじさんのギターをもらったかなんかしてアコースティックギターが家にあったんだよね。で、当時はエレキは高くて買えないから、ギターマイクだけ買って、アコギのホールにつけて古いステレオにつないでジャーンとやったら、出力がでかすぎたのが、ガチーンってステレオがダメになって親父に怒られたのがギターの始まり。まあ、それ以前に小学校3年生のとき、町内会の何かのイベントで弾き語りをやったけどね。姉貴のアコギを借りて、歌ったのは中村雅俊さんの『ふれあい』。練習不足でひどいもんだったけど、ガキのころは目立ちたがり屋だったから(笑)」。今思えば、それが人前で歌うことの原体験かも、と吉川は笑った。

 楽器屋のウインドーには、さまざまなギターが並んでいる。「昔はホントによく見て回ったけど、今はギターまわりのことは何でもできる知り合いがいるから、その人に頼んじゃうよね。やっぱりプロの世界だと、店に品物が出る以前に探してもらわないといいものがないというか、一般の人には申し訳ないけど、いいビンテージは本当にビックリするくらい音が違う。俺が一番よく使うのは、金色のゴールドトップっていうレスポールのオールドタイプだけど、あの音も他にマネができるもんじゃない。やっぱり古いものって、職人の腕もあるけど、乾きだよね。木がちゃんと乾いてないとギターは鳴らない。今は機械で乾燥させたものが多くて良くないね。鰺の開きだって、天日で干したのと機械で干したのは味に雲泥の差があるじゃない。そうそう人間が思うほど単純じゃないというか、乾かすなら熱を与えりゃいいだろうっていう、愚かしい考え方ね。多分、一番大事なところが抜けてるんだよ。時間をかけて乾かす中に、どうにもならない何かがあるはずだと思うんだけどね。よく、そういうビンテージをコレクションしてる金持ちもいるけど、それも愚かな行為だと思うよ。楽器は弾いてやらないと何の価値もない。楽器がかわいそうだよね」

 25周年ファイナルとなる2月6日の日本武道館コンサートまであと少し。お気に入りのゴールドトップが、今の吉川のロックを奏でる。

※写真をクリックすると拡大画像が見られます。拡大写真の右側にマウスを重ねると「NEXT」ボタンが現れ、次の写真を見ることができます。

不思議な角度から見る渋谷駅東横線ホーム 店名は“中村カイロ”だが、実はお茶の店だった ギターキッズたちが一度は通る楽器屋街

トラックバック