第76回 品川区戸越~大田区西馬込
池上梅園への長い旅
戸越銀座商店街にある昔ながらのプラモデル店『マスダヤ』で懐かしいプラモを物色しながら、プラモにまつわる吉川の思い出話の続きを聞いてみた。小学生時代、自分で作った潜水艦に強力なモーターを付けてチューンアップし、学校の池で“ひとり推進式”をやったときの悲しい結末とは何か? 「池に浮かべたら、取り付けたモーターが重すぎて、走りながらズブズブ沈んじゃったんだよね。冬で寒かったけど、俺、胸くらいまで水につかって池の中を探したよ。でも見つからなかった。そしたら、夏前に水を抜いて掃除することになって、急いで見に行ったら排水溝みたいなところに半分くらい入ってひっかかってた。もうボロボロで、それを見たときは悲しかったね。ひとりぼっちで沈んでたと思うと、舟がかわいそうになっちゃって…」。手塩にかけた舟に、強いシンパシーを感じた吉川だった。「デコトラって知ってる? トラック野郎が乗ってた電飾付きのトラックなんだけど、そのプラモも作ったよ。あとはスーパーカーも作ったし……」。プラモの話は終わりそうにないので、そろそろ次に向かうとする。
「このあたりに梅園があるはずだから、そこに行かない?」。梅好きの吉川が提案する。梅を見るにはちょうどいい季節。さっそく向かうことにするが、場所を把握しておらず、商店街で聞きまくることにした。しかし最初の店のお母さんには「梅園なんてない!」と言われ、次の店では「向こうのお寺のほう」と、ファジーな説明。近所に住んでいる知り合いを電話でつかまえると、「確か環七の手前」と、アバウトな答え。とりあえず環七に向かって裏道をテクテク歩き出した。大原通り、品川区豊町を過ぎ、下神明まで来ても梅の気配はなく、「『梅園』知ってますか?」と聞くと、「中華料理屋?」と返される始末。「まあ、行くしかないね」。吉川は、「♪小鳥はとっても歌が好き~」というかわいらしい童謡を口ずさみながら軽快に歩を進めた。すると鳥の歌に誘われたのか、チュンチュンという声が。「鳥がいるってことは、もうすぐ梅園じゃない?」。しかしそれはマンションの屋上庭園に集まったすずめ。そうして環七も越え、街頭地図で『梅田小学校』の名前を発見しては「絶対この近くだよ」と確信したのだが、まだ梅園は現れない。その先には電車の整備車庫のような『馬込車両基地』。「ここにどうやって電車を持ってくるんだろう?」。素朴な疑問を話し合いながら角を曲がると、電車の引き込み線があり、疑問は解決。そしてついに『池上梅園』の文字が!。園内には色とりどりの梅が咲き、吉川も写メで撮影。「桜のソメイヨシノはほとんど同じ色だけど、梅は白から赤から色々あってきれいだよね」。ひとしきり散策してから、吉川も初めてだという池上本門寺に入ってみた。ふと見ると、『力道山の墓所はこちら』の看板が。「へぇ、力道山の墓ってここなんだ」。プロレスという形式そのものには思い入れはないと吉川は言う。闘うなら、ショーアップされたものより、「ガチンコで闘うほうが好き」。「でも、力道山っていう人は特別だと思うよ。俺が生まれるずっと前の話だけど、日本が戦後に復興するとき、力道山が空手チョップで、敵だった白人のレスラーを倒してくれる。それで日本人はすっきりして大歓声を送るわけだよね。昔の話だけど、そういう気持ちだけは分かるね。今はそういうヒーローっていないけど、誰かに思いを託すってことは、今も変わらずあると思うよ」。梅はちょうど八分咲き。紙面になるころは満開に咲いているだろう。
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