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2009年06月08日

 

第63回 中央区銀座、裏通り

セットのような路地にLOVE

「北方(謙三)さんと銀座に来ると、すごい老舗のバーに連れて行ってもらったり、見たこともないスコッチを飲ませてもらったりして、これがまたウマイんだよね。この道何十年というようなバーテンダーの人たちも素敵だしね。でも北方さんって、店を出るたびにトレンチコートを肩に引っかけて、襟をパッと立てて歩くんだよ。眉間にシワよせてね。ちょっと笑っちゃうでしょ。“北方さん、それ疲れないの?”って聞いたら、“おまえ、ここは俺のテリトリーなんだ”って。北方さんは写真撮るときもいつもそういう顔するから、“北方謙三”というサービスとしてハードボイルドを演出してるんだと思うんだけどね」。巨匠に対してそういうことを言えるのも、著書の後書き(『水滸伝 16 馳驟の章』)を頼まれて書いたりするほどの長いつきあいがあってのことだ。「大変だったけどね、後書きは。やっぱり文章って難しいよ」と、吉川はちょっと苦笑いした。


2008年12月08日

 

第53回 中央区佃周辺

手作り箸の値段は高いか安いか?

 築地から勝どき橋を渡り、佃に差しかかると、「おもしろい店を紹介するから」と、吉川は弾んだ声をあげた。ウキウキする理由は、この街並みにもありそうだ。『つくだこはし』と書かれた朱赤の橋を渡ると、いかにも吉川好みの、良き時代を忍ばせる風景が広がっていた。吉川のおすすめは、職人がひとりで黙々と箸を作っている店だった。「前に買おうと思ったんだけど、これがいい値段するんだよ」。露天に並べられた手作りの箸には、安いもので数千円、高いものには万単位の値段がついていた。しかし『紫檀』という木を削りだして作った箸は、見るからに美しく、不思議な六角形をしている。「手になじみやすいんだよ」と、作業の手を休めたご主人が説明してくれた。試しに吉川も箸を手にしてみる。「さすがに使い心地いいね。自分で作ったものを、自分で売るってのは職人の原点だし、カッコイイよ。でも、親父さんがひとりで作ってるところを見ると、こういう店も跡継ぎがいなくて無くなっちゃうのかな。それはちょっと寂しいね」。結局吉川は数千円の箸を購入した。「前に来た時はちょっと高いなと思ったけど、“先が欠けたりしたらいつでも直しに持ってきな”って。削り直して形を整えるからって。それで少し短くなっても、箸ってのはそうやって使うもんだって。そう考えたら決して高くはないし、長期的に考慮すれば割り箸のほうが割高になろうってもんだよ。世界中の森林が急激に消滅しているからには、MY箸を持ち歩くくらいの貢献はしたいね。それに、佃のお土産としても粋じゃない。職人さん手作りの箸買ってきたから、生涯大切に使ってくれと(笑)」


2008年11月24日

 

第52回 中央区築地~月島

勝どき橋を走った17歳の吉川晃司

 昼を過ぎても築地場外市場はにぎわいを見せていた。「夏に知り合いを集めてBBQをやった時は、ここで大ぶりの伊勢エビを一匹2000円で買ったからね。東京じゃ普通はありえない値段だけど、全部買うから安くして、他のも買うから安くしてって値切って買っちゃった」。買い物上手は交渉上手。値切るのもコミュニケーションのひとつなのだ。魚好きの吉川は、「ちゃんと築地を歩く時は、また別の機会に早朝の場内に行こう」と言いながらもさまざまな店の前で足を止める。「ここでよく包丁を買った」という包丁屋正元の前では、プロ仕様の道具の説明もしてくれた。「貝を開けるヘラは普通1本のヘラで全部やっちゃうけど、本当は貝によって道具が違うの。赤貝用とか平貝用とか。牡蠣なんかはやっぱり殻ごと買って自分で開けて食べたほうが断然ウマイよ。海の香りが苦手っていう人もいるけど、田舎のきれいな海で育った連中にとっては、たまらなくいい香りなんだよね。殻を開けて、海水と牡蠣のエキスが混じり込んだそのままをいただくんだけど、ちょっと柑橘系を搾ってもいいね。だから、牡蠣の香りや味の違いは、育った海に左右される。これからの季節、ナマコもはずせないな、俺としては。これもね、えもいわれぬいい香りさ。コラーゲンが豊富だし、身体を内から暖めてくれるらしいから、女性にもいいでしょ。ひとつ、いいこと教えるね。牡蠣をフライにする時、小さい牡蠣は2つ一緒に、靴を箱に入れるみたいに腹を重ねて揚げるんだよ」。なるほど、と感心していると、「なんちゃってね」と照れ笑い。ウマそうな話によだれが出そうになってしまった。