さあ「ポスト平成」の準備をしよう 【鈴木寛の「2020年への篤行録」 第52回】

2018.01.15 Vol.701

 あけましておめでとうございます。2018年は「戌年」。「戌」という言葉は、もともと「滅」(滅ぶ)という意味ですが、これは縁起が悪いことではなく、草木が一度枯れるけれど、そこから新しい命が芽吹いていくという意味がこめられています。いわば「リセットからのリスタート」と言えるでしょう。  本稿を書いているのは、12月23日の天皇誕生日。今上陛下のご退位が2019年4月30日に決まり、翌5月1日から皇太子殿下が次期天皇に即位されることが、このほど決まりました。今年は、残り1年4か月となった「平成」の御代のカウントダウンというムードが一段と濃くなってくるはずです。  昭和39年(1964年)生まれの私などは、3つ目の時代を迎えることで、余計に年をとったような気分にもなりますが(苦笑)、まもなく成人式を迎える20歳の皆さんが生まれたのは、1997年(平成9年)。その年に、4大証券会社のひとつだった山一証券が経営破綻したことがしばしば引き合いに出されますが、バブルが崩壊してまさに日本社会が塗炭の苦しみに喘いでいた時代でした。  振り返れば、平成の御代は「リセットし損ねた」時代でした。すなわち、昭和の高度成長期時代までに確立した社会の様々なシステムが疲弊し始めていたのにもかかわらず、変化を恐れて大胆な改革に手をこまねいてしまいました。教育制度に関して言えば、マークシート方式の試験を象徴とする丸暗記重視のスタイル。これは工業化社会でマニュアルどおりに成果を出す人材育成のためのようなもの。創意工夫型の人材を生み出す基盤整備が遅れ、日本で起業率が低く、イノベーション競争に遅れている一因になっています。  しかし、ここ数年は、各界の次世代リーダーたちが2020年のオリンピック・パラリンピック後の具体的な社会づくりを提案、実行する動きが増えてきました。小泉進次郎さんたち若手議員が少子化の歯止め策として「こども保険」を提案し、あるいは大企業を脱藩して起業や震災復興、地方創生に活躍するといった若者たちの活躍をみていると、次代への危機感が広がっていると感じます。  私自身も負けないように2030年の日本を担う人づくりへ邁進したいと思います。グローバルで多様な価値観を受容し、学んだ知識を活用して自分の頭で創意工夫できる人材を一人でも多く輩出できるよう、「ポスト平成」を見据えた準備をしっかりと行います。今年は、皆さんと一緒に、新時代を迎える準備を本格化させたいと思います。 (東大・慶応大教授)

待機児童問題最大のパラドックスとその打開策 【鈴木寛の「2020年への篤行録」 第51回】

2017.12.12 Vol.701

 11月27日放送のBS日テレの討論番組「深層NEWS」に教育経済学者、中室牧子さんとご一緒に出演いたしました。テーマは「いまなぜ教育無償化か」。先の衆院選で、政権与党が教育無償化や待機児童対策を含む「2兆円パッケージ」を公約に掲げたことから、その意義や妥当性について議論しました。 「2兆円パッケージ」は11月末時点で、2兆円のうち8000億円が幼児教育と保育の無償化に充てられ、認可保育所に通う3〜5歳児は全て無償という方向性になっています。  私が提案したかった待機児童対策は、総額2兆円ある児童手当のうち、3歳以上の中高所得者家庭の児童への給付はやめて、まず0歳から2歳までをメインターゲットにした小規模保育園の「おうち保育園」への機関補助に回すとともに、0歳から2歳までについては児童手当を月額3万円に増額することです。  番組では、中室さんが機関補助の充実が一番必要だと指摘されており、その通りです。ただ、選挙公約としては、「無償化」をスローガンとしたほうがキャッチーだったでしょう。それでも、保育士や教員の確保が難しい都会では、親御さんに人材確保のための若干の追加負担をご理解いただく必要もあります。都道府県によって、本当に事情がバラバラです。国と自治体が、しっかり協力して、より洗練したスキームを作らねばなりません。  一番の難問は、待機児童対策をすればするほど、待機児童が増えるというパラドックスです。受け皿づくりを進める政府の想定は約32万人ですが、民間の調査では、70〜88万人程度の試算もあります。実際、都会はなかなか新規に保育所を増やせません。そこで、このパラドックスを、緩和する解は、0歳から2歳までの児童手当を月額5万円くらいまで思いきり引き上げることと、職場の働き方改革が不可欠です。育児休暇明けも半日労働または在宅勤務を標準とするなど、職場復帰と子育ての両立を円滑にするためのきめ細かな対応と支援が必要です。  これにより、0歳から2歳まではしっかり児童手当がもらえる、3歳からは、保育所又は幼稚園(預り延長保育含む)で、質の高い教育を実質無償で受けることができるという成長する権利の保障と安心感を、すべての子どもと保護者が持つことができます。その観点から、地方の保護者はお金、都会の保護者は受け皿がたらないのですから、それぞれ政策のカスタマイズが必要です。 (東大・慶応大教授)

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