変貌するアジア太平洋地域と日本の安全保障(その八)/連載コラム「長島昭久のリアリズム」

2017.12.09 Vol.701
「現状維持(status quo)」という言葉は、台湾海峡の平和と安定においては死活的に重要なキーワードです。過度な対中傾斜で台湾内の世論から拒否された国民党の馬英九政権に代わって8年ぶりに政権に復帰した民進党の蔡英文政権ですが、それとて大陸中国との適度な距離感をつかみ損ねれば途端に台湾の人々からの支持を失ってしまうことは確実です。台湾海峡両岸の関係が台湾の政権にとりその死命を制する重大問題であることは、馬前政権が「ひまわり学生運動(※馬政権が強行しようとした事実上の中台FTAである両岸サービス貿易協定への反対運動)」を中心とした「天然独」と呼ばれる台湾新世代の猛烈な批判にさらされ政権を追われた事実がある一方で、その前の陳水扁民進党政権が過激な独立志向を米国から痛烈に非難されて政権の求心力を喪失していった事実をも併せて想起すれば明らかでしょう。  その意味において、予測不可能なトランプ政権の外交姿勢は、当事者の台湾のみならず同盟国たる日本にとっても頭の痛い問題です。とくに、大統領就任前にトランプ氏が異例にも蔡総統からの祝福電話を受け、その後のテレビ・インタビューで、リチャード・ニクソン政権以来40年ちかく米中関係を規定してきた「一つの中国」政策(”One-China” Policy:「原則」ではない点は注意を要する)からの離脱を示唆した発言は、関係国を少なくとも2カ月余り翻弄しました。結局、トランプ大統領は今年2月の日米首脳会談直前に大統領就任後初の米中電話会談を行い、あっさりと「一つの中国」政策を尊重すると表明し、その背後でどのような戦略的なディール(取引)がなされたのかという疑心暗鬼を各国に招きました。そして、それが今後の両岸関係にどのような影響を及ぼすのか予断を許しません。  これは、米国内法である台湾関係法に基づく米国の対台湾武器供与の行方をも左右するという意味で、台湾の安全保障にとって死活的な問題です。中台の軍事バランスは、1990年代後半以降、年々その格差が拡大しており、2015年時点で中国の公表国防費は台湾の約14倍となっています。そのような情勢下で、台湾が予てから希望しているF-16C/D戦闘機や通常動力型潜水艦などの供与が円滑に進められるかどうか、注視していく必要があります。圧倒的な陸軍力を誇る中国ですが、台湾本土への着上陸侵攻能力はいまだ限定的といわれています。しかし、近年、中国は大型の揚陸艦を建造するなど侵攻能力の向上に努めており、圧倒的なミサイル攻撃能力と併せ考えれば、米国による台湾への軍事支援とともに、台湾独自の防衛努力も加速化させる必要があるでしょう。        (衆議院議員 長島昭久)

変貌するアジア太平洋地域と日本の安全保障(その七)/連載コラム「長島昭久のリアリズム」

2017.11.15 Vol.700
 現在、世界中の耳目を集めているのが朝鮮半島情勢です。トランプ政権は、G・Wブッシュ政権の終盤以来約10年続いた「戦略的忍耐」からの離脱を宣言し、日韓との同盟協力を中心に軍事的圧力を一気に高め、さらに中国を促して経済・金融面からの圧力も増大させています。しかし、北朝鮮の金正恩体制は自らの生存を担保する核とミサイルの開発を止めようとはせず、逆に米国の先制攻撃に対しては弾道ミサイル、多連装ロケット、長距離砲などによりソウルと東京を「火の海にする」と恫喝しています。さしものトランプ政権も、事実上「人質」となった日韓両国(およびそこに在住する米国民)を犠牲にしてまで容易に軍事オプションを開始するわけにもいかず、膠着状態に陥っています。  ここで注意しなければならないのは、米中両国の水面下での動きです。ドナルド・トランプ大統領は、選挙キャンペーン中から頻りに中国を「為替操作国」だと非難し続けましたが、朝鮮半島問題で中国の影響力が大きいと見るや、途端に前言を翻し、北朝鮮の核・ミサイルの開発阻止という安全保障問題と為替や貿易不均衡是正という経済問題とのディールを試みているように見受けられます。米中の戦略的ディール(取引)をめぐって警戒せねばならないことは、米国と同盟国との脅威認識の「ずれ」です。中国も含めた国際社会が北朝鮮の核保有を認めないという点で一致していることは言うまでもありませんが、その運搬手段をめぐっては、自国に届くICBMを持たせたくない米国と、すでに弾道ミサイルの射程内に収まる日韓とで、実現すべき戦略目標は異なります。したがって、仮に米中が、北朝鮮のICBMの開発を阻止させることでディール(※例えば、北朝鮮の核保有の形ばかりの凍結と引き換えに、米本土に届かない範囲でのICBM保有を容認するなど)した場合には、日韓両国が北からの脅威の射程圏内に取り残されることになってしまいます。  米中が合意しかねない朝鮮半島の「現状維持」が、日韓をはじめとする同盟国の戦略的利益を置き去りにすることのないよう、とくに日米韓三か国による緊密な連携は不可欠であります。その際に、歴史問題などで脆弱な日韓関係をいかに安定化させるかは、日韓の政治家に課された重大な使命です。もちろん、日本側の努力こそが重要であることは論を待たないですが、韓国の新政権が安易な反日姿勢を取ることのないよう国際社会にも適切に関与してもらいたいと考えます。  一方、この「現状維持」という言葉は、台湾海峡の平和と安定においては特に重要なキーワードとなります。次回はここに焦点を当てて論じたいと思います。 (衆議院議員 長島昭久)
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変貌するアジア太平洋地域と日本の安全保障(その六)/連載コラム「長島昭久のリアリズム」 http://www.tokyoheadline.com/189465/

変貌するアジア太平洋地域と日本の安全保障(その六)/連載コラム「長島昭久のリアリズム」

2017.10.29 Vol.699
 ドナルド・トランプ米大統領が政権発足初日(本年1月23日)に署名したTPP(環太平洋パートナーシップ協定)からの「永久の離脱」を命ずる大統領令は、米国のアジア太平洋地域の平和と繁栄に対するコミットメントの真剣さを域内諸国に疑わしめるような行動の象徴といえます。内政・外交を通じて「アメリカファースト」を掲げるトランプ政権が、保護主義、孤立主義に陥ることのないよう、われわれ同盟国や友好国が時に注文を付けたり建設的な協力を欠かさぬことがきわめて重要です。  なお、日本政府は、経済戦略を急ぎ修正して、米国を除く11か国でTPP協定の発効を目指し、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)の合意基準をさらに高めるよう努力するとともに、域内に公正で開かれた経済連携のネットワークを確立すべく全力を挙げる方針です。  これは、単に経済秩序の問題にとどまらず、国際秩序をめぐるいわゆる「ツキディデスの罠」を回避するためにはきわめて重要な戦略的課題です。「ツキディデスの罠」とは、古代ギリシャ時代に、覇権国スパルタに対して新興国アテネが覇権争いを挑み、最後には武力紛争が不可避となってしまったことを例に、戦争が不可避な状態まで従来の覇権国家と、新興の国家がぶつかり合う現象を意味する国際政治学の用語ですが、これを現代に置き換えれば、我々はパワーゲームを展開する新興勢力たる中国にどう対峙するかが問われているのです。  ただ、古代ギリシャ時代と異なるのは、既存の国際秩序の側に立つ我々は、単なるパワーゲームの一方の当事国ではなく、「法の支配」に基づく平和的な国際秩序を維持・発展することに努力を傾注している側であることです。この既存の国際秩序が新興国や秩序挑戦国によって浸食され弱体化されることのないよう、我々は柔軟で包摂的な(つまり、将来的には中国も加盟できるよう)ルールに基づいた秩序の再構築に全力を傾けねばなりません。  トランプ政権は、発足100日を経て、「NATO(北大西洋条約機構)は時代遅れ」、「日本や韓国も核武装すべき」などといった選挙キャンペーン中の過激な発言や公約を撤回し、次々に政策転換を図っています。とくに外交・安全保障分野では、レックス・ティラーソン国務長官やジェイムズ・マティス国防長官、H.R.マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)らを中心に伝統的な共和党の現実主義的な政策に回帰しつつあり、同盟国や域内の友好国政府を安堵させています。  それでも、いくつか懸念されるポイントがあり、とくにトランプ流の「ディール外交」がもたらす中長期的な懸念事項を次回以降、1)朝鮮半島、2)台湾海峡、3)南シナ海の三つのケースに絞って検証したいと思います。     (元防衛副大臣 長島昭久)
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【希望の党 東京21区】長島昭久氏「過去4年間国会の議論に緊張感がありましたか?」

2017.10.07 Vol.699
 今年4月に民進党を離党し、政界再編に向け独自の動きを見せていたのが本紙でコラム「長島昭久のリアリズム」を連載中の長島昭久前衆議院議員。今回、希望の党の設立に参加し新党では中心的な役割を担うと思われる。その長島氏に今回の一連の動きと選挙後の日本の形について聞いた。

変貌するアジア太平洋地域と日本の安全保障(その伍)/連載コラム「長島昭久のリアリズム」

2017.09.30 Vol.698
 オバマ政権の8年間に、アジア太平洋の地域安保に対する米国の関与の意思が徐々に希薄化したのにはいくつか原因があります。  第一は、テロとの戦いの一環であるアフガン、イラク戦役に相当数の兵力を割かざるを得ず、最大3割もの兵力が中東湾岸へ振り向けられることになったこと。今後も米国がIS掃討作戦に深く関与するとすれば、アジア太平洋地域における前方展開兵力の立て直しは急務となるでしょう。  トランプ新政権が今年2月に次年度国防予算の前年度比1割増を連邦議会に要求したことは、域内の同盟・友好国にとり大きな安心材料となりましたが、これとて、1兆ドルにおよぶ国内インフラ投資や総額10兆ドル規模の減税といった選挙公約との両立を危ぶむ声もあり、予断を許しません。  第二に、オバマ政権中枢が戦略的視点を欠き、中国によるアジア太平洋地域に対する海洋進出の実相を軽視していたこと。例えば、スーザン・ライス大統領補佐官(国家安全保障担当)は2013年11月に行った講演で、過去に米政府が拒否し続けてきた中国との「新型大国関係」を機能させようと述べ、さらに2016年7月の訪中に際しては、直前に国際仲裁裁判所による「九段線」否定の裁定があったにもかかわらず、中国首脳との一連の会談でこの裁定や南シナ海における中国の横暴な振る舞いについて全く言及しませんでした。  約13平方キロにもおよぶ人工島の造成を中国に許してしまったことは痛恨の失政といえます。これだけの広大なエリアを埋め立てることは一朝一夕にできるものではなく、少なくとも2014年から15年末までの1年半の間に牽制や阻止するチャンスはいくらでもありました。しかも、その人工島の起点となったのは、国際法上、領海もEEZも構成し得ない岩礁(暗礁か低潮高地)に過ぎなかったわけです。このような中国の常軌を逸した行動が、ほぼノーチェックで完了し、今なお「軍事要塞化」の努力が継続されているのです。  オバマ政権の南シナ海における海洋の秩序維持についての無関心は、米太平洋軍がホワイトハウスに対し督促し続けた南シナ海での「航行の自由」作戦を、ライス補佐官を中心とするNSCが約3年間も中断させていた事実にも表れていますが、トランプ政権に交代してからも、今年の5月下旬まで同作戦が行われていなかったことについてもこの際注意を喚起しておきます。  朝鮮半島問題で中国の協力を殊更強調するトランプ大統領が、南シナ海における安全保障問題と対中貿易とを安易にディールする危険は常に存在しており、日本をはじめとする同盟国は米国に言葉ではなく行動を促す必要があります。その際、ティラーソン国務長官が1月の上院での指名公聴会において、「我々は中国に対し、まずは人工島の造成を中止しなければならないと伝え、次に中国によるこれらの島々へのアクセスは認められないとの明確なシグナルを送る必要がある」と述べた言葉の実行を強く迫るべきでしょう。 (衆議院議員 長島昭久)
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「さらば、しがらみ政治」小池都知事が代表務める希望の党が結党会見

2017.09.27 Vol.Web Original
小池氏「日本には今、希望が足りない。国民のみなさんに希望を届けていきたい」
 小池百合子東京都知事が代表を務める 国政新党「希望の党」が9月27日、都内で会見を開き、党の綱領を発表した。  会見は最初に若狭勝衆院議員、細野豪志元環境相、本紙コラムニストの長島昭久衆議院議員ら結党メンバーの15人が登壇。そして「さらば、しがらみ政治」といったスローガンが盛り込まれた動画が流された。それは勝負服の緑のスーツをまとった小池氏が一歩一歩しっかりとした足取りで前に向かい歩き続けるといったもの。その動画が終わると満を持して小池氏が登壇。議員たちは立ち上がって拍手で迎え入れた。  そして小池氏は挨拶の冒頭で「しがらみのない政治、そして大胆な改革を築いていく新しい政治。まさに日本をリセットするために、この希望の党を立ち上げます。リセットするからこそ、しがらみがない。いえ、しがらみがないからリセットができる。そしてまた、今この時期に日本をリセットしなければ、国際間競争、そしてまた日本の安全保障等々を十分守りきれないのではないだろうか。そんな危機感を共有する仲間が集まりました。今日から希望の党、スタートいたします」と高らかに宣言した。  そして「日本にはありとあらゆるものがあります。物があふれています。でも、今、希望が足りない。みんなが不安を抱いている。そんな不安の中で、私たちは希望の党をつくり、しがらみのない政治を作り上げることによって、国民のみなさんに希望を届けていきたい。そして改革をする、その精神のベースにあるのは、実はこれまでの伝統や文化や、日本の心を守っていく、そんな保守の精神。寛容な、そして改革の精神に燃えた保守。新しい政党でございます」と「改革保守」という旗印を掲げた。

変貌するアジア太平洋地域と日本の安全保障(その四)/連載コラム「長島昭久のリアリズム」

2017.09.04 Vol.695
 これまで述べてきたように、中国が、米軍の介入を極力阻みつつ、東アジアから米国の影響力を排除するという戦略目標に向かって着実に地歩を固めているというのは明白な現実です。かつて、サミュエル・ハンティントン教授が、「アジア的な国際関係の“階層構造”下では、中国は、東アジアにおいて覇権を獲得する上で必ずしも武力行使による領土の拡大は必要なく、自国の様々な希望や要求に沿うようにアジア諸国を促すか、時に強制力を用いて自らの考えを受け入れさせるか、または説得しようとするだろう」と述べたごとくです。  そのような中で、AIIB(アジア・インフラ投資銀行)を基盤とする「一帯一路」構想の野心的な試みが本格的にスタートしました。今年の5月に北京で開催された国際協力会議には、130か国以上から1500人が参加し、ロシア、イタリア、フィリピンなど29か国は首脳が出席したのです。習近平中国主席は、開幕式で、「協力と共存共栄を中核とした新たな国際関係を築く」と演説し、米国中心の既存秩序を牽制しました。  その上で、インフラ投資などの資金を賄う「シルクロード基金」に、約150億ドルを追加拠出する方針を表明したのです。さらに、「多国間貿易体制を守り、自由貿易圏の建設を推進する」と述べ、トランプ政権がTPP(環太平洋経済連携協定)を離脱したことを尻目に、あたかも世界経済の牽引役を宣言するかのごとく振る舞いました。  中国は、同時に、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)を中心に、東アジアにおける自らの経済的な影響力の拡大に余念がありません。しかし、RCEPが低いレベルのルールに基づく経済連携に止まり、AIIBによる融資が人権侵害や環境破壊を助長するようでは、アジア太平地域の安定的な発展や繁栄は望めず、我々はそのような動向を看過するわけにはいきません。  地域覇権を確立し、域内から米国の影響力を排除しようとする中国の意図をくじくことができるのは、自らを「太平洋国家」(オバマ前大統領)と位置づけ、第二次大戦以後、アジア太平洋地域における安全保障の基盤を提供し続けて来た米国のみです。  米国は、ハブ・アンド・スポークと呼ばれる二国間同盟網を同地域に張り巡らせて、圧倒的な軍事プレゼンスを維持し、朝鮮戦争、ヴェトナム戦争などで多大の犠牲を払いながらも、政治、経済、安全保障の秩序を守り抜いて来ました。冷戦後も、1994年の朝鮮半島核危機や96年の台湾海峡危機などで米軍のパワー・プロジェクションがもたらす抑止力を遺憾なく示し、地域の安定化のために不可欠な公共財ともいうべき機能を発揮してきました。  しかし、オバマ政権の8年間に、地域安保に対する米国の関与の意思は徐々に希薄化したと言わざるを得ません。  その背景と昨今の動向について、次回、詳しく述べたいと思います。 (衆議院議員 長島昭久)
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変貌するアジア太平洋地域と日本の安全保障(その参)/連載コラム「長島昭久のリアリズム」

2017.08.03 Vol.695
 軍事力を背景に、また拡大する経済力や国内市場を梃子に、中国は、アジア太平洋諸国への影響力を急速に増大させています。しかも、それが戦略的にはアジアを舞台にした米中のゼロ・サム・ゲームになっていることは注意を要します。  近年、最も強烈な中国の圧力に晒されているのは韓国です。韓国政府が在韓米軍へのTHAAD配備を決断して以来、中国政府は配備先の土地を提供した民間企業(ロッテ)の中国国内での営業を妨害したり、中国人旅行客の韓国への渡航を制限したり、韓国製品のオンライン販売を規制したりするなど、陰に陽に圧力をかけました。結果、最近の韓国の世論調査で、中国は日本を抜いて不人気国の第一位に躍り出ました。しかし、5月9日の選挙では、突出した親中・親北の文在寅大統領が選出されました。朴槿恵前大統領の弾劾に端を発した選挙であったことを考慮しても、北朝鮮の直接的な脅威を前にして、なおこのような結果となったことは、今後の米韓、日韓関係に深刻な懸念を生じさせています。  フィリピンでは、中国による脅威に対抗するため対米関係の強化に踏み出したアキノ前政権が同国への米軍プレゼンスを拡大すると、中国はスカボロウ礁への攻勢を強めました。ルソン島の西約230kmのEEZ内に位置する同礁をめぐっては、1990年代から中比間で紛争が絶えず、現在まで、中比の海上法執行機関および海軍艦船のにらみ合いが続いています。その間、中国政府はフィリピンからのバナナの輸入を停止するなど経済的な圧力をかけました。2016年7月、中国による「九段線」の主張を完璧に否定した国際仲裁裁判所の判断によって、フィリピンが全面的な勝利をもたらしたにもかかわらず、新たに政権に就いたドゥテルテ大統領は対中宥和姿勢に終始しています。このことは、地域の海洋安全保障にとって新たな懸念材料といえるでしょう。  その他、ラオスやカンボディアはすでに中国への従属の姿勢を鮮明にしていますが、タイについても、2014年の軍事クーデターに米国が非難を強めた隙を突いて中国が軍事的関係の強化に乗り出し成功を収めつつあります。さらに、中国は豪州にもあからさまな圧力をかけ、常時行われてきた豪州海軍による南シナ海での哨戒活動をいきなり両国間の争点とし、かつ、米豪の共同パトロール実施にも警告を発したのです。  もちろん、日本にも台湾にも陰に陽に圧力はかかっています。とくに、「一つの中国」原則を受け入れない蔡英文政権に対しては、近年、国際民間航空機関(ICAO)や世界保健機関(WHO)の総会からの締め出しを図るなど、露骨な圧力をかけています。このような人類共通の課題を扱う国際機関から特定の国や地域を排除すれば、世界全体でのシームレスな連携や対応ができなくなり、すべての人々の人命やその前提となる健康や生活環境に影響を与えます。この深刻な帰結を、我々は声を大にして国際社会に強く訴えるべきでしょう。(衆議院議員 長島昭久)

【長島昭久のリアリズム】変貌するアジア太平洋地域と日本の安全保障(その弐)

2017.06.26 Vol.693
 70年前に地政戦略家スパイクマンが予言した、中国による南シナ海での勢力拡張と日本ならびに西側諸国への圧迫。それを現代において実現する戦略を立てたのが、劉華清提督(鄧小平時代の中国共産党政治局常務委員であり海軍司令員)でした。そして、その将来展望は次のようなものでした。  まず、2000年までに中国沿岸の防衛能力を高め、2010年までに第一列島線内側の制海権を確立。続く2020年までに複数の通常型空母艦隊を建造して第二列島線内部の制海権を確立。さらに2040年には複数の原子力空母艦隊を率いて、米海軍の西太平洋およびインド洋における制海権をそぎ落とし、やがて米国と対等な海軍国になる、と。  これを、太平洋の対岸、すなわち米国から”anti-access, area denial, A2/AD”戦略と評したのが、米国戦略予算評価センターのアンドリュー・クレピノヴィッチ所長です。西太平洋における中国の宇宙から航空、洋上、海底、そしてサイバー空間にいたるクロス・ドメイン戦力の拡大の目的は、同地域への米軍の戦力投射を阻み(A2)、第一列島線の内側、やがては第二列島線の内側全域から米軍を排除する(AD)ことにあるのだと。  この意味を正確に理解するには、1996年4月に勃発した台湾海峡危機を想起すべきです。当時台湾では二期目に臨む李登輝総統が初の総統民選を実施しようとしていました。台湾の独立志向の高揚を極度に警戒する北京政府は、台湾住民にプレッシャーをかけるために、台湾の北、西、南側海域で大規模なミサイル演習を繰り返しました。これに対し、クリントン米大統領(当時)は、二つの空母打撃群(艦艇約20隻、艦載機約150機)を同海域に派遣、「強制外交」(coercive diplomacy)でもって中国を牽制しました。今日の朝鮮半島のように一触即発の危機に直面しましたが、当時の米中の戦力差は歴然で、中国は撤退を余儀なくされたのです。  しかし、仮に今日、同じ事案が発生したらどうなるか。トランプ政権は、96年当時のように躊躇なく空母打撃群を台湾海峡、より正確には第一列島線の内側へ投入することは出来ないでしょう。96年の屈辱を晴らすために血道を上げて取り組んだ大軍拡の結果、中国はこの20年間に、クロス・ドメインのA2/AD能力を保有するまでに強大化したのです。  しかも、中国の究極の目標は、第一列島線と第二列島線の間の広大な海域における中国海空軍の行動の自由、すなわち海上・航空優勢を確保することに他なりません。この海域に、米本土を射程に収める長距離弾道ミサイル(SLBM)を搭載した原子力潜水艦を潜ませることができれば、A2/ADどころか、米国に対する核の報復能力を確立できることになります。  このような中国の海洋戦略に対する米国の対抗策は未だ確立されたようには見えません。しかも、トランプ政権がどこまで効果的に中国の海洋進出に歯止めをかけられるのか予断を許しません。 (衆議院議員 長島昭久)

【長島昭久のリアリズム】変貌するアジア太平洋地域と日本の安全保障(その壱)

2017.05.22 Vol.691
 トランプ政権が誕生して100日余りが過ぎ、ようやくトランプ外交の大枠が見えてきました。そんな中で、筆者は台湾の台北で行われた国際シンポジウムで講演する機会を得ました。以下、およそ10回にわたって、その講演録を全文掲載したいと思います。トランプ政権誕生後の日米同盟やアジア太平洋地域における地政学について、最新の情報を交えながら語り尽くしましたので、ご関心のある方にはぜひお読みいただきたいと思います。  まず、現在のアジア太平洋の戦略環境について、米中を軸に概観したいと思います。  中国の軍事費は、過去30年で約50倍に膨れ上がりました。しかも、中国は、2000年代の半ばまでにユーラシア大陸における国境紛争をほぼ全て解決し、自国が持つ資源の大半を海洋進出へ投入し得る環境を整えることに成功しました。実際、2008年以降の中国海軍、海警を中心とする海上法執行機関の艦船などは、東シナ海や南シナ海、さらには第一列島線を超え西太平洋海域にまで、しばしば常軌を逸する強硬姿勢で積極的進出を図ってきました。  この現実を70年以上前に予言したのが米国を代表する地政戦略家、ニコラス・ジョン・スパイクマンです。彼は、著書『世界における米国の戦略』で、次のように警告を発しています。 「近代化し、勢いをつけ、軍備を増強した中国は、“アジアの地中海(=台湾、シンガポール、豪州北部ヨーク岬を結ぶ三角形の海域=南シナ海)”で、日本だけでなく、西側諸国の地位をも脅かすことになるだろう・・・この海域が米・英・日のシー・パワーではなく、中国のエア・パワーによってコントロールされることもあり得る。」(ここで強調されているのが、シー・パワーではなく、エア・パワーであることは注目に値します。それは、あたかも今日、南シナ海に展開する人工島やそこに建設された3000m級滑走路などを予言しているかのようで、改めてスパイクマンの慧眼に驚きを禁じ得ません。)  そのスパイクマンの予言をそのごとく実現する海洋戦略を打ち立てたのが、劉華清提督(鄧小平時代の中国共産党政治局常務委員であり海軍司令員)です。彼の海洋強国戦略(正式名称は「近海防御戦略」)によれば、「(中国)海軍の作戦海域は、今後の比較的長い期間は、主に第一列島線と当該列島に沿った沿海海域および列島線以内の黄海、東シナ海および南シナ海である。・・・我が国の経済力と科学技術レベルが絶え間なく向上することに伴い、海軍力はさらに強大なものとなり、我々の作戦海域は北太平洋や第二列島線にまで徐々に拡大して行くだろう」とされています。  この中国の戦略が意味するところと具体的な将来展望、ならびに米国の対抗策とその現状については、次回明らかにしたいと思います。 (衆議院議員 長島昭久)

民進党離党の長島昭久衆議院議員が生出演

2017.05.19 Vol.691
 本紙コラムニストで衆議院議員の長島昭久氏がFRESH!の「JAPAN MOVE UP FRESH!」に独占生出演した。  長島氏は4月10日に民進党に離党届を提出。25日に除名処分を受け、現在は無所属で政治活動を行っている。  4月19日には外交・安全保障の勉強会「外交・安全保障戦略を考える会(仮称)」を立ち上げ、会長に就任。7月2日投開票の東京都議選、来る衆議院解散に向け政界再編のキーマンと目されている。  そんな注目の長島氏にこの日は番組MCの一木広治が「離党のタイミングについて」「蓮舫代表について」「小池百合子東京都知事との関係は?」といった刺激的な質問から、東京21区が地盤とあって「2020年東京オリンピック・パラリンピックについて」「豊洲市場移転問題について」といった東京にまつわる問題についても話を聞いた。  長島氏は小池氏については「世に言われているような小池新党でどうとかいうのか勘ぐりすぎ」と前置きしつつも「豊洲問題とオリンピックで苦労していますが、そういうことも含めて洗いざらいやるという意味ではぜひ頑張ってほしいと思っているし僕らも応援している」とエールを送った。また豊洲問題については「都議選の前に決めてほしい。とにかく決めること。決めることのリスクもあるが、決めないことのリスクのほうが大きいと思う」と話した。  また何かと騒がしい北朝鮮問題については長島氏が“国防のプロ”からの視点で分析。「そういう国が近くにあるということ。今まで太平を謳歌してきましたが、(日本も)いよいよ普通の国になりつつあるということ。先日のミサイル発射は強烈。我々が想像していた以上に北朝鮮のミサイルの技術は上がっている。今、日本とアメリカが持っているミサイル防衛のミサイルはどれも届かない。これは深刻」としたうえで「ミサイルを発射する段階で落とすくらいの防衛兵器を持たないと、本当の意味で国民の生命と財産は守れない。そういう議論をすると“やりすぎ”と今までは言われたがもうそんなことを言っている場合じゃなくなっている。正確に現実を知らせて、そういう議論ができるようにしないといけない」とも話した。  番組の模様はアーカイブ( https://freshlive.tv/japanmoveup/114951 )で視聴できる。