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教科書には載らない歴史の側面『海越えの花たち』てがみ座

2018.06.12 Vol.707

 劇作家の長田育恵が主宰を務める「てがみ座」はこれまで、過去を材に取り、現代の眼差しから見つめ直すといったスタンスの作品を多く作り続けてきた。

 そんな長田が今回描くのは戦後、日本に帰れずに韓国の土に還った、在韓の日本人女性たちの物語。

 このテーマを選んだ背景は長田の祖父が満州にいたこと、そして自身が高校生の時に日中青少年友好訪問団の一員として中国を訪れた時の体験にまでさかのぼる。その後、取材先での偶然の出会いから長田の思いは朝鮮半島に向けられ、2016年には第二次世界大戦後も在韓で生き続けた日本人女性たちの収容施設である「慶州ナザレ園」を訪問するに至ったという。

 本作ではこういった長田の体験をもとに、教科書には載らない歴史の側にある人々の声や思いが描かれる。そして芝居を見る者はそれを通じて、いろいろなことを考えさせられるはず。

 昨今、朝鮮半島をめぐる情勢は思いもよらぬスピードで動いている。期せずしてタイムリーな上演となってしまったが、それはそれとしてじっくりと向き合うべき作品。

てがみ座『海越えの花たち』
【日時】6月20日(水)〜 26日(火)(開演は水〜金、月19時、土14時/19時、日火14時。開場は開演30分前。当日券は開演1時間前)
【会場】紀伊國屋ホール(新宿)
【料金】全席指定 前売4500円、当日4700円、25歳以下3500円(前売・当日同一料金)/前半割引(6月20、21日)前売・当日・U25それぞれ通常料金より500円引き。※U25はプリエールのみ取扱い。入場時身分証提示
【問い合わせ】プリエール(TEL:03-5942-9025=11〜18時 [劇団HP] http://tegamiza.net/stage/ )
【脚本】長田育恵
【演出】木野花
【出演】石村みか、箱田暁史、岸野健太、実近順次(てがみ座)/桑原裕子(KAKUTA)、内田慈、西山水木、日髙啓介(FUKAIPRODUCE羽衣)、半海一晃、中西良太

確かな脚本力で描かれた物語に引き込まれる

2014.11.10 Vol.630

 劇作家・長田育恵が主宰となって2009年に旗揚げた「てがみ座」は「戯曲を根本にして立ち上げる演劇」を基軸に作品を発表してきた。

 故井上ひさしに師事した長田の書く戯曲は綿密な取材に基づき、細部に至るまで丹念に描かれている。かといって史実に執着することなく独自の視点で創作された物語は、どこまでが事実でどの部分がフィクションなのか分からないほど。というかもうそんなことはどうでもよく、ただただ作品に引きずり込む力を持っている。

 昨年は『地を渡る舟』が岸田戯曲賞の最終候補にノミネートされており、その脚本力は推して知るべしだろう。

 これまでは江戸川乱歩、金子みすゞといった、ある特定の人物の心理描写を通して、主に大正後期〜第二次世界大戦までの時代を俯瞰し描いてきた。今回は新たな創作スタイルに挑戦。従来の人に寄り添う文体を解体し、特定人物ではなく「場」を物語の中心に据え、通り過ぎていく人物を通して「時の断層」そのものを描写するという。

 舞台はフィリピンと日本。フィリピンの沿岸でシラスウナギを密漁する兄弟とその家族を語り手に、日本とフィリピンそれぞれの視点から国境問題、遺恨、未来といった問題を描く。

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