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価値感をぐらつかせる作品 イキウメ『天の敵』

2017.05.07 Vol.690

 SFやオカルト、ホラーといった題材を自由自在に操るイキウメ。作・演出の前川知大の作る作品は見る者の立ち位置を不安にさせ、そして「ない」とは分かっていながら「あってもいいんじゃないか…」とついつい思わされてしまうような価値観をぐらつかせるもの。

 今回は2010年に上演した短篇集『図書館的人生Vol.3 食べ物連鎖』の中の一篇をベースとした作品。

 ライターの寺泊は、食事療法の取材中、戦後まもない1947年に「完全食と不食」について論文を書いた医師、長谷川卯太郎を知る。その卯太郎の写真が料理家の橋本和夫に酷似していたことで、寺泊は二人の血縁を疑い、橋本に取材を申し込む。橋本のルーツは、食事療法を推進していた医師、卯太郎にあると考えたのだ。そこで橋本は寺泊に「長谷川卯太郎は私です。今年で 122 歳になる」と言ったのだった…。

 完全食を求めて生き延び、ついには人ではなくなってしまった男が世界の観察者となっていく物語。短篇集では駆け足にならざるを得なかったが、今回は男の100年間がじっくりと描かれる。

また今年は劇団を代表する作品である『散歩する侵略者』が7月に文庫化、9月に映画の公開、10月には舞台で再演される。8月には前川の作品を長塚圭史が演出する(Bunkamuraシアターコクーンほか)など、大きな話題がごろごろしている。

GWでお金使いすぎないようにしないと… イキウメ『太陽』

2016.04.24 Vol.665

 2011年に初演し、2014年には蜷川幸雄演出で『太陽2068』として上演された『太陽』を本家本元のイキウメが再演する。

 夜しか生きられない進化した人類「ノクス」と太陽の下で暮らす旧人類「キュリオ」という2つのコミュニティーに分かれてしまった近未来を描く物語。

 世界はバイオテロにより拡散したウイルスで人口が激減、政治経済は破綻し、社会基盤が破壊される。しかし数年後、感染者の中で奇跡的に回復した人々は人間をはるかに上回る身体に変異。それは頭脳明晰で若く健康な肉体を長く維持できるというものだったが、その反面、紫外線に弱く昼間は活動できなかった。やがて政治経済の中心はノクスに移行し、人口も逆転する。キュリオの中にはノクスにあこがれる者もいれば、ノクスを忌み嫌う者もいた。

 壮大なSFの設定ではあるが、差別、嫉妬、郷土愛、自尊心といった感情は普遍的なものなのだと改めて感じさせる作品。

 4月23日からは舞台に先駆け映画が公開。こちらは神木隆之介、門脇麦主演で、舞台とはまた違った雰囲気の作品となっている。2月に発表された小説と合わせてさまざまな角度から作品を味わってみるのもいい。

もう一度見たかった作品『聖地X』イキウメ

2015.04.26 Vol.641

 SFやオカルトといった日常に潜む「異界」を題材とした作品を上演するイキウメ。SFやオカルトといっても突拍子もないものではなく、作・演出の前川知大は常に「あるかも」「起こりうるかも」と思わせる絶妙な描き方をする。

 その上で展開される人間ドラマも濃密で、さまざまな戯曲賞や演劇賞の常連となっているのもうなずけるところ。

 今回は2010年に初演し、鶴屋南北戯曲賞受賞したSF推理劇『プランクトンの踊り場』を改題しブラッシュアップ。新演出で上演するという。

 前川が、この作品でモチーフとするのは「ドッペルゲンガー」と「パワースポット」。

 夫に嫌気がさして実家の田舎町に帰った妻は東京にいるはずの夫に街で遭遇する。しかし夫はその時、同時に東京にも存在していた。この街ではこれまでも似たような事件が起きていた。調べていくうちにある場所に、“思いを形にする”不思議な力があることが分かったのだった。

 作品はドッペルゲンガーの出現から土地の秘密に迫っていくSF推理「喜劇」とうたわれている。

 しかし前川は、通常のSF作品では「分身」として考えられているドッペルゲンガーに独自の設定を加えることで、ドッペルゲンガーに関わる周囲の人たちにさまざまな心の葛藤を背負わせ、人間ドラマに昇華している。

 再演で、大まかなストーリーは分かっているものの、ついつい足元がぐらつきそうになる作品だ。

ちょっと変わった一筋縄ではいかない作品
イキウメ『新しい祝日』

2014.11.22 Vol.631

 フィクションとノンフィクションの間にある境界線をあいまいにし、事実と妄想を陸続きにしてしまう。そんな作品を発表し続けるイキウメ。

 作・演出の前川知大は今年、『スーパー歌舞伎㈼』の作・演出を手掛け、夏には2012年に発表した『太陽』が蜷川幸雄の演出により『太陽2068』として上演されるなど外部での話題作が続いた。

 一方、劇団では代表作である『関数ドミノ』の再演で、劇団としての成長も知らしめた。

 そんななかで、今回は約1年ぶりの新作公演。

“祝日”をキーワードに、どれも平凡で驚くほど似通っていながら、実は同じものが全くないという“人生”を描く。

 歌舞伎という異質なものとの出会いと、劇団の足場固めを行った後の、新たなる第一歩ともいえる作品だ。
 11日(木)の14時からは前川のトークイベントも開催。イキウメの不思議な世界観を知るいいチャンスかもしれない。

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