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男たちが役を入れ替えながらモノローグを綴っていく「ティーファクトリー『4』」

2021.08.16 Vol.744

 本公演は昨年5月に世田谷パブリックシアターで上演される予定だったのだが、新型コロナウイルス感染症の拡大防止による緊急事態宣言が発出された影響で延期となっていたもの。

 1年3カ月の時を経て全スタッフ・キャストそのままに上演されることとなった。

 この戯曲は2011年に世田谷パブリックシアター学芸企画〈劇作家の作業場〉「モノローグの可能性を探る」という上演予定のないワークショップからスタートし、改稿とリーディングを重ねるなかで2012年に白井晃氏の演出で舞台化され、鶴屋南北戯曲賞、文化庁芸術選奨文部科学大臣賞を受賞するなど高い評価を得た。その後、ニューヨーク、ソウル、コペンハーゲンといった世界各国でも上演された。今回は川村自らが演出を手掛ける。これまで川村が他のカンパニーと演出家に書き下ろした戯曲をティーファクトリーで上演したことはなく、かなりのレアケース。

 物語は5人の男たちが役を入れ替えながらモノローグを綴っていく独特なスタイルで進む。どうやら被害者の遺族らしい彼らのモノローグから生と死、感情の停止といったものが浮かび上がる。

 コロナ禍で1年延期され、東日本大震災から10年の今年、この作品が上演されるというのも何かの縁と感じざるを得ない。

「川村毅劇作40周年&還暦 三作品」その2作目 ティーファクトリー『クリシェ』

2020.01.21 Vol.726

 劇作家で演出家の川村毅にとって2020年というのは劇団「第三エロチカ」を旗揚げして40年、自身の新作戯曲をプロデュースするカンパニー「ティーファクトリー」を立ち上げてからも20年という節目の年となる。

 ということで昨年10月から「川村毅劇作40周年&還暦 三作品」と題して3作品を発表する企画がスタート。今回はその2作目。

 この『クリシェ』は第三エロチカ時代の1994年に「ネオ・グラン=ギニョル三部作」の第一弾として上演された作品。映画『何がジェーンに起ったか?』『サンセット大通り』へのオマージュの色濃い、元女優の姉妹が繰り広げる、文字通りクリシェ(紋切型)なサイコサスペンス。今回は大幅にシンプルに改作し「女優をやめられない」姉妹の老いと向き合う姿をコミカルに描いていく。

 物語の舞台は社会から断絶した中年姉妹が2人きりで暮らしている館。2人は『何がジェーンに起ったか?』のように元人気女優。老いさらばえた姿にもかかわらず、本人たちの間では時は止まったまま。そしてこの館と2人にはなにやら秘密があるよう。

 物語の語り部として登場するのは、この2人の秘密を探ろうと劇作家募集の広告に公募してきた若い劇作家の男。果たして姉妹の秘密とはいったいなんなのか…。

 この元女優姉妹を演じるのは花組芝居の座長であり中心役者でもある加納幸和と川村毅。

 川村が俳優(女優としても)として舞台に立つのは昨今ほとんどなく、かなり貴重な舞台となりそうだ。また金曜の終演後には還暦祝トークが行われる。

川村毅が共に生きた時代への鎮魂ともいえる作品『ノート』ティーファクトリー

2019.10.19 Vol.723

 劇作家で演出家の川村毅は来年、劇団「第三エロチカ」を旗揚げして40年、自身の新作戯曲をプロデュースするカンパニー「ティーファクトリー」を立ち上げてからも20年を迎える。

 そこでこの節目に「川村毅劇作40周年&還暦 三作品」と題して3作品を発表することとなった。

 その1作目となる『ノート』は川村が共に生きた時代への鎮魂ともいえる作品。

 昨年は平成の大事件に関連する死刑が大量に執行された。そして新しい元号を迎えるにあたり、平成を振り返る機運の中、平成生まれの若者たちがその事件と経緯を知らないことに川村は愕然としたという。また、死刑囚の中には同世代の人間が少なからずいたことから、還暦を迎えようという世代がどのように80年代からの40年間を生きてきたかを、その時代のかかわり方を通して描きたいと思ったという。

 物語の中では記憶を失った男の記憶をよみがえらせるためにさまざまな証言がノートされていく。そして舞台上では、川村と近い世代の観客にとってはいつか見た風景が、若い観客には教科書には載らない歴史が繰り広げられる。世代や立場によって感じ方は人それぞれの作品となりそうだ。

演劇は常にチャレンジだ!!『愛情の内乱』ティーファクトリー

2016.05.09 Vol.666

 演劇生活30周年以降、新しい文体を模索することを目的に新作を書き下ろし続けている川村毅。2014年から吉祥寺シアターと提携して、今まで取り上げてこなかったものや、避けてきたかもしれないテーマに積極的に取り組んできた。
 今回の作品は初めて「母/家族」をテーマに、白石加代子を主演に迎えた「現代の大衆悲喜劇」。

 舞台はとある地方の広い家、時は遠い未来の誓い過去。母と次男と謎の家政婦が暮らす家に、この一家に興味を持つ男が「ドキュメンタリーを撮りたい」とやってくる。そこへ戦争帰りの長男と長く家出していた三男が帰ってくるのだが、互いに持つ不信感、父の不在など、一家にはなにやら秘密がありそう。母が絶対的な権力を持ち、それに従うばかりの息子たち。そんな家族の姿を通じて、母の愛とは? 家族の絆とは?といった家族の問題が描かれる。

 愛とか絆という美しい言葉が並ぶと、一見美しい物語になりそうな気もするが、そこは川村毅。そんな一筋縄で終わるわけもなく、おかしさの中に怖さと不気味さとちょっとした哀しみが隠されたブラックコメディーに仕上がっている。

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