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演劇は世の中を写し出す鏡 方丈の海2021プロジェクト『方丈の海』

2021.03.10 Vol.739

 2011年3月11日に起こった東日本大震災から今年で10年が経った。

 本作は仙台演劇界を牽引した劇作家・演出家の石川裕人が2012年に、まさに「東日本大震災の10年後」という設定で描いたお話。津波で流されてしまった三陸の架空の町の中にぽつんと生き残った映画館を舞台に、被災地に生きる人々の思いが語られ、惨状の先にある未来を見つめる人々の心がつづられた。

 石川が主宰を務めたTheatreGroup“OCT/PASS”によって仙台で上演され、多くの反響を呼んだのだが、石川がその翌月に急逝してしまったため、仙台以外で上演されることはなかった。

 今回の上演は2021年3月に同作を再演しようとTheatreGroup“OCT/PASS”のメンバーが呼び掛けた有志により立ち上がった「方丈の海2021プロジェクト」により実現した。

 発生から3〜4年は多くのメディアで被災地の様子や復興の進ちょく、被災者たちのその後を取り上げたが、時間が経つとともにニュースの分量は減ってきた。あらためてあの時の記憶を呼び起こし、さまざまな思いを巡らせるきっかけにもなる作品だ。

どんどん舞台に活気が戻ってくる予感 ミュージカル『ローマの休日』

2020.10.18 Vol.734

 土屋太鳳が朝夏まなととのダブルキャストで主演する日本発のオリジナル・ミュージカル『ローマの休日』が上演中だ。オードリー・ヘプバーンが主演した同名の名作映画を世界で初めてミュージカル化した作品で、上演されるのは約20年ぶりとなる。

 ヨーロッパ歴訪中だったアン王女が、旅の途中のローマで1日だけ自由な時間を過ごす。髪を切ったり、ジェラードを食べたり、スクーターでローマの街を走ったり、船上パーティーでド派手にやらかしたり……これまで経験したことがない時間を過ごす。そしてそこには忘れられない恋も……。土屋と朝夏演じるアン王女、新聞記者のジョー・ブラッドレー、カメラマンのアーヴィングはWキャスト。公演ごとに異なる組み合わせで上演する。好奇心旺盛な少女から凛とした王女へと変化する土屋、堂々たるパフォーマンスでオーディエンスを圧倒する朝夏、そして加藤和樹と平方元基が演じるちょっとワルだけど純情なブラッドレーのやり取り、恋物語に胸を締め付けられる。

座・高円寺で風煉ダンス『まつろわぬ民2017』。東北ツアーも敢行

2017.05.08 Vol.690

 2014年に上々颱風のボーカル・白崎映美を主演に迎え上演された風煉ダンス『まつろわぬ民2017』が5月26日から東京・高円寺の座・高円寺1で再演される。

「前回の公演が終わった時に“東北のお客さんにも見せてあげたい”という声を多くいただきました。公演後も白崎さんの『東北6県ろ?るショー!!』を手伝っていたこともあって、座・高円寺との提携公演が決まってから福島とか白崎さんの出身地の山形でツアーができないかな、と思っていたら“ぜひ呼びたい”と言ってくださる方もいて、今回、東京、福島、山形の3カ所で上演することになりました」というのは風煉ダンスの主宰で作・演出を務める林周一。

 同作は東日本大震災後、作家・木村友祐の『イサの氾濫』という小説にインスパイアされて“白崎映美&とうほぐまづりオールスターズ”というバンドを作ってライブを続けていた白崎の『まづろわぬ民』という楽曲に想を得て作られた作品。舞台は一軒のゴミ屋敷。行政によるゴミ撤去が行われようとしたその時に屋敷に住む老婆に誘われゴミたちの百鬼夜行が始まるというお話で、現在と過去の東北が絡み合う情念にあふれた作品だった。

「この芝居は東日本大震災とどうしても切っても切れない部分がある。2014年からたった3年だけれども、この3年という時間は長いようで短いもの。でもいろいろなことが変わってきている。避難指示なんかも解除されて、福島なんかも徐々に戻る政策も取られているけど、それに対してもいろいろな意見があるわけじゃないですか。でも今回の再演に関してはそういう難しい話には立ち入らないで、もっと普遍的な話、どこかの東北の過疎の町のゴミ屋敷で起こる騒動、みたいなふうに考えていたんだけど、手を付け始めると、もとが白崎さんの“東北に元気を取り戻そう”という目的で始めた東北6県ろ~るショー!!のために作った楽曲から想を得たこともあって、その根っこからは逃げられなかった。そうすると、前回の台本の甘かったところとか、実際に今では使えないところ、使いたくないところが見えてきた。キャストもいろいろと変動があったこともあって、大きな骨子、構成や流れはだいたい同じなんだけど全然違う話になった。2014年版はみんなが英雄を待っていた。そしてその英雄は帰ってくるんだけど、今回はそういうものに頼らないで自分の足で立って歩いていかないといけない、というような話になる。いわば英雄不在のお話で限りなく新作です」

 この3年間で林の気持ちの中でそういう考え方が大きくなってきた?

「3年間の間にそうなったのではなくて、自分がそういうものになっていかないといけないというところもあると思う。自分で立って、人を助けるということをやらないといけない」

 誰かに頼るのではなく、自分で立って、立てた人は誰かを助けていく。

「集団というものはお互いを頼り合って、信頼しあってやっていくものだと思うんですが、その集団論としての話の内容が僕らの風煉ダンスの現在の状況とたまたまシンクロするというか似たような感じになっているということもあります」

 最近、自主避難に関わる問題とか復興相の心無い発言といったニュースが世間をにぎわせているが、今回は特にこの話題にぶつけたわけではない。

「全然考えていなかったんですが、震災に重ね合わせて見てもいいし、全然関係なく見てもいい。あまり前情報なく見てもらったほうがいいっちゃいいのかもしれないですね」

 風煉ダンスは野外劇や既成の劇場ではないところを演劇空間に仕立て上げての作品が多いのだが、今回は座・高円寺という“The劇場”ともいえる場所での公演。

「野外とも違うしね。というか、実はだらだら長くやっていますが(笑)、きっちり劇場という空間でやるのは初めてなんです。稽古するスタジオがあって、楽屋も潤沢にあってという恵まれた環境をちゃんと使い切れるのかどうかという(笑)」

 他の劇団ではなかなか聞かない悩み。そして「来年は立川で野外劇をやりたいと思っている」という。彼らにとっては非常に“珍しい”劇場公演。果たしてどんな作品に仕上げてくれるのか。

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