
vol.187
人間の狂気が“会話”に潜む…新感覚のサイコサスペンス
『レイクサイド マーダーケース』
役所広司インタビュー
「g@me」「秘密」など、その原作の多くが映画化されている東野圭吾作品。その中で、この作品だけは映画化されるとは思わなかったと作者が語ったベストセラー作品が、ついに映画化、公開される。映画『レイクサイド マーダーケース』。作者をして、すべては役者の演技にかかっていると言わしめた、一級の“会話劇”映画だ。配されるのは豊川悦司、柄本明、薬師丸ひろ子といった個性派・演技派俳優たち。そして主演は日本映画界を代表する役者、役所広司。
会話で言っていることが真実だとは限らない。
その隠された部分が、会話劇の面白さですね。
「撮影が終了してから、ほぼ1年が経ってるんですよ。僕はあまり自分の作品を後から見たりはしないんですが(笑)、昨日、久しぶりにこの作品をビデオで見直して。いや、最初に見るときは、悲しいかな純粋に映画を楽しめないんです(笑)。役者でもスタッフでも同じでしょうけど、自分の仕事部分が気になって。だから、改めて見てみると印象も違いましたね。会話の面白さが素直に伝わってきた」
実は原作者の東野圭吾氏が現場を訪れ、撮影の現場を見学したという。
「今日は東野さんがいらっしゃるということで、現場は浮き足だっていましたよ。もちろん、僕も、です(笑)。原作者に現場を見られるというのは、怖いものがありますからね。場面にしても、登場人物にしても、ご本人がイメージした“絵”というものがあるだろうし。自分たちがどこまで東野さんの持っているイメージに近づけているか。出来上がったものを見られるのなら、もうどうしようもないからいいけど(笑)。作っている過程でしたから、現場の人間としてはドキドキしますよね。監督は開き直っていたかな(笑)」
とベテラン俳優さえも“ドキドキ”させた東野氏は、別荘のセットに感心していたとか。このログハウスのセットは、物語の中でお受験合宿のために数組の家族が集る別荘として、山梨県鳴沢に、1カ月かけて建設されたもの。
お受験合宿の中で起こった殺人事件。役所演じる主人公、並木は娘の中学受験のために、冷えた夫婦間を隠しながら合宿に参加。しかしそこに愛人が現れ、その夜殺害される。犯人は妻。合宿に参加していた他の親たちは、受験への影響を恐れて、事件を闇に葬り去ろうとする…。東野氏は、派手なアクションもないこの物語が、映画になるとは思わなかったと語っている。突然崩れ去る日常。次第にあらわになっていく人間の狂気。二転三転する真実。ある意味アクション映画よりも濃厚な緊迫感に、観客は釘付けになる。役所をはじめとする本作の演技派俳優たちは、アクションではなく会話の演技でその緊迫感を生み出しているのだ。
「単純に、会話で言っていることが真実だとは限らないんです。その裏にこそ真実がある。何のためにその人物はそんなことを言っているのか、という裏があるわけですよ。そこがいわば“言葉のアクション”だと思うんですよね。そのあたりが会話劇の面白さでしょう。そのセリフには、話していることとは全然違う、隠された真実がある、というのがね」
三谷幸喜とタッグを組んだ『笑いの大学』でも会話劇の醍醐味を表現した。
「会話劇って面白いんですよ、パズルみたいで。この台詞は日常生活の中で聞いたことがあるな、あの人があんな状況でこんなようなことを言っていたな、ということが、いい脚本になればなるほど、あるんです。そんな部分を見つけて自分の中で膨らませ、日常とつじつまを合わせていくのがおもしろいんですよね」
リアルで自然。だからこその迫真。それが、役所広司が演じる会話劇の面白さのゆえんかもしれない。
「特に演じていて面白かったのは、夫婦の会話の部分ですね。いろんな夫婦がいるけれど、各家庭で共通する部分もあるんじゃないかな(笑)」
殺人が起こったという状況化なのに、会話している内容は妙に身近。その違和感がまた物語を濃く見せる。
「僕が演じる並木とは、観客の視点でスタートして、自分なりの結論にたどり着く。事件に巻き込まれて一度は立ち向かおうとするも、さらに大変な真実にぶつかってしまうという、とてもグラグラしている男ですよね。そんな変化が演じていて面白かったですね」
本作の監督は『EUREKA』でも組んだ青山真治。現場はマジメ?
「そんなことないですよ。毎晩のように大騒ぎでした(笑)。ロケ地では皆のために閉店した居酒屋さんを開放してもらって、スタッフやキャストたちはそこで盛り上がっていました。キャストの中で一番多く顔を出していたのは…僕かな(笑)。それと柄本(明)さん。杉田(かおる)さんもよく飲んでたね(笑)」
近年、日本では韓国映画の進出が著しいが、名優アン・ソンギとも共演した役所の名は、以前から韓国でも高く評価されている。
「活気はありますよね。やっぱり若い人が頑張ってますよね。韓国で学生運動が激しかった世代が頑張っている。それと、韓国映画は国が守ってるんですよ。韓国作品のために劇場の枠を何枠空けなければいけないとか、単館作品には援助が出たりとか。でも日本映画も評価されていますからね。自分たちのスタイルを守っていていいと思うんですよ。日本の若い役者さんにも、力のある人がたくさんいるし。『ローレライ』(3月公開)でも妻夫木君と一緒に仕事しましたけど、彼なんて、もう若きベテランですしね」
最後に本作を見る人へメッセージをお願いします。
「『レイク−』は楽しめるサスペンススリラーです。後味の悪さも、またいいですよ(笑)」