
vol.196
韓国映画界の若きホープが生み出す、
現実と幻想が交錯するミステリアスなサイコサスペンス
『スパイダー・フォレスト/懺悔』
ソン・イルゴン監督 interview
その蜘蛛の森に、真実は隠されている…
「昼と夜、森には相反する2つの顔があるんです」
韓国から新たな才能が次々に生まれている。ソン・イルゴンは1971年ソウル生まれの33歳。しかしこれまでに第52回カンヌ映画祭短編部門審査委員賞、第58回ヴェネチア映画祭新人監督賞など、国内外のさまざまな賞を受賞。まさに今、韓国が期待する若手監督だ。そのイルゴン監督が手掛けた最新作は、記憶を失った主人の深層心理を描くミステリー。
「この主人公カン・ミンというのは、彼が背負ってしまった運命によって、悲しみとか苦痛を与えられている人物なんですね。彼がそれを克服して乗り越えていく姿を撮りたかったのです」
監督は、記憶を失ったカン・ミンが真実を求めてさ迷う姿を、現実と幻想が交錯しているかのような映像で追っていく。
「物語には何人かの人物が登場しますが、その中でカン・ミンの分身として出てくる人がいます。それが亡き妻とそっくりな女性ミン・スイン。彼女によってカン・ミンはなぐさめられますが、そうされたいという彼の意識の表れ、彼が作り出した人物といえるわけです」
他の登場人物の行動ですら、現実のことなのか、それとも彼の歪んだ記憶が作り出す幻影なのか定かでない。主人公とともに、観客は真実を求めてさ迷うことになる。そのイメージを、監督は“森”に込めたという。
「この映画で、私は森というものを相反する2つの存在として位置づけているんです。カン・ミンとミン・スインが2人で散歩をしているときの森はとても美しくて平和な感じですね。でも夜になると森の顔は一変して、主人公は道に迷い、少女の幻影に出会ったり、誰かに見られているという感覚に襲われるのです」
作品のミステリアスな部分を森という存在が大きく担っていることは確かだ。監督はポーランドに留学して映画製作を学んだ経験を持つ。そこで監督は森を意識するようになったという。
「ポーランドにいたころ、住居の近くにとても大きく美しい森がありました。私はそこで映画を撮ったりもしたのですが、疲れると森の中で休息して、とてもなぐさめられたものです。韓国には森という概念が明確にはなくて、森というより山になってしまうんですよ。ポーランドに行っている間に、森が好きになりましたね。そのせいか、私の作品のなかにはよく森が出てくるのです。森の中を歩いていると、いつもいい“気”をもらうような気がするんです。でも今回、どうしても家を建てなくてはならなくて、木を3本切ってしまったことが残念です。“懺悔”しなければいけませんね(笑)」
本作のもう一つの見どころは、リアルな映像と、幻想的なシーンが精緻に組み合わされているところにもある。
「この映画は抽象的な事柄が多いので、その抽象性を表現する一つの方法としてドキュメンタリー的な手法を取り入れたいと思い、事件に関わる部分をリアルに撮ったのです。だから殺人警察の踏み込み捜査や、主人公の受けた脳の手術などについて、かなりリサーチをしました」
ミステリアスな森の中でさ迷う主人公は、出口を、真実を見つけることが出来るのか…。すべての答えは森にある
「1度、夜の森に行ってみてください。多くの“何か”とお話しすることができますよ(笑)」