
vol.198
歌姫 浜崎あゆみとのスーパーコラボレーションクラシックアルバムが完成!
指揮者・佐渡裕
「世界一のママさんコーラスの指揮者になろうと本気で思ってましたね」
“世界の”の敬称がつく指揮者・佐渡裕のその言葉は意外だった。「指揮者で食べていけなくて、1回5000円でママさんコーラスの指揮をしていた時に得たものは大きかったですね。譜面も読めなかった人たちが1回ごとにどんどん歌が上達していくのを見ていて、とても幸せでした。今も、その時の幸福感を感じられるかどうかが、公演の善しあしをジャッジする自分にとっての基準になっているんです」
今や世界指折りの楽団でタクトを振る佐渡。フランス、イタリア、ドイツ、東京、神戸――。彼は多くの都市で心を震わす美しい音を作り出している。何千回何万回と演奏されてきたクラシックの名曲も、彼がタクトを振るとワクワクドキドキする新しい音として飛び出してくる。佐渡マジックの秘密はその幸福感にありそうだ。
佐渡が1年間に行う公演の回数は100を超える。単純に計算すれば、3日で約1公演。世界に指揮者はたくさんいるけれど、これほどの公演をこなす人の数は片手でもあまるという。
「バーンスタインの影響ですね」と深い声で語る。「彼もたくさんの公演をこなす人だった。作曲も手がけていたし、クラシック以外のジャンルにもトライしていた。子供にクラシックを聞かせようという活動もしていましたね」
バーンスタインは、佐渡の幼いころからの憧れだった。自分のおこづかいを貯めて初めて買ったレコードもバーンスタインだった。佐渡は、小澤征爾、そして憧れのバーンスタインに師事。バーンスタインにとっては最後の愛弟子だ。彼亡きあと、佐渡は、バーンスタインの意思を引き継ぐようにいろいろな分野へと活躍の場を広げている。例えば、浜崎あゆみの初クラッシックアルバム『MY STORY Classical』の監修を手がけたこともその1つかもしれない。
「クラシックとポップソングの組み合わせ、それも浜崎あゆみという素晴らしいアーティストとコラボレーションするのは単純におもしろいなと感じました。彼女の曲を聞いて、浜崎さん自身が素晴らしいアーティストであることに加えて、優秀なスタッフが自然に集まってくる何かを持っている人だと感じました。そういった魅力のある人と仕事ができるのが楽しみでした」
『MY STORY Classical』は、先にリリースされた浜崎あゆみのアルバム『MY STORY』の別バージョンだが、一般のクラシック楽曲と並べても遜色のない作品となっている。あゆのボーカルさえ、楽器の音色のように聞こえてくるような作品で、“佐渡が指揮台に上がるとワクワクする”と言われる、佐渡マジックが発揮されている。
「クラシックは楽譜があって、音や音の組み合わせは決まっている。いろいろな楽団やプレーヤーがそれぞれ個性をぶつけ合い、指揮者はそれを上手く引き出して新しい音を作っていくんです。浜崎さんの楽曲に対しても同じでした。たいていの場合こういう類のものはボーカルを生かそうと演奏を抑えたりすることがあるんですが、この作品ではそれぞれの良さをぶつけ合うことができましたね」
できあがった今作は、佐渡にとって、描いている大きな夢の一端を担う作品にもなりそうだ。佐渡は現在、今年10月兵庫県西宮に完成予定の県立芸術文化センターの芸術監督をしているが、その場所から、クラッシックをよりたくさんの人に聞いてもらえる機会を作りたいと考えている。
「クラシックの敷居は高いですよね。価格も高いから気軽に楽しむのも難しい。でも、クラシックのかしこまった感じを保ちながら敷居を低くしていくことはできると思うんです。例えば、子供も楽しんでもらえるようなね。今回の浜崎さんとのコラボは、クラシックをこれまで聞いたことがない人にも聞いてもらえるチャンスを作った。これに続くような形で面白いことをどんどん発信していきたいですね」
“クラシックをみなさんに”“クラシックの敷居を低く”は、既に聞き飽きるぐらい聞かされてきた言葉であるが、いまだ実現していない。実現していても、本来のクラシックの心地よい格調の高さが失われてしまっていたりする。しかし、佐渡ならばその両方を実現させる新しい方法を