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Tokyo Culture vol.200

新作『雨と夢のあとに』は、初の怪談!?

作家 柳美里インタビュー

「亡くなった人も、一緒にいるという思いがある。人が生まれて死ぬというのは、それほど大きなことなんだと思います」

 一度読み始めたら最後、読むことを止められなくなる。そんな作家に出会えることは幸せだ。間違いなくその作家のひとりといえる柳美里の新刊が発売された。タイトルは『雨と夢のあとに』。この新作はなんと、柳美里初の怪談。現世では別れてしまった父と少女の思いが作品全体を貫いている。12歳の少女の無邪気な語りと、彼女を包む父の優しさが心に染み渡る。

 「実は小学生の頃から怪談が好きだったんです。エドガー・アラン・ポーの『黒猫』『アッシャー家の没落』とか、上田秋成の『雨月物語』とか。その頃の私は、両親が別れたり、学校でいじめられたり、必ずしもハッピーではなかったから、学校推薦図書になるような明るい児童文学には違和感をおぼえた。敵が来るとピョンピョン跳ねて巣穴にもぐりこむうさぎみたいに、怪談の暗がりが避難場所だったんです」

 主人公の12歳の少女は、12歳の頃の自分でもあると柳さんは言う。荒涼としていた「その頃の私の夢物語」の要素もあるのだと。
 「ホラーって何だろう、怪談って何だろうと考えた時に、目に見えないものを信じる物語ではないかと思ったんです。それは霊だったり、死んだ人の魂だったりもするけれど、愛だったり、夢だったりもするわけです。だれもが目に見えるものばかりを信奉している今こそ怪談を、という思いもありました。けれど何よりも大きかったのは、5年前に東由多加というかけがえのない伴侶を亡くしたことです。そのことは『命』に書きましたが、私が病室で泣くたびに、東は“絶対に死なない”と約束してくれたんです。“だって死ぬはずないじゃない、あなたを残してどうして死ぬの”って。その約束は、『雨と夢のあとに』の父親の言葉に生かしました。でも、東の死後5年を生きて、東は死んでいない、一緒にいてくれているんだ、と実感しています。私と息子をいつも守ってくれている存在として……」

 いるものと、いないものの狭間、現実と非現実の狭間で、作家・柳美里が体験してきた真実は、それが過ぎ去った後、思いとして小説を彩っていく。思い出とはたいそうなものだ。思いは人を慰め、笑わせ、勇気づけ、生かしもする。今、柳さんにとっての死生観とは、どんなものなのだろう。
 「七五三の時、息子が“昨日、東さんが夢に出てきたよ”と言ったんです。で、病室の様子を語り始めたんですよ。東が亡くなった時は生後3カ月でしたから、記憶には残っていないはずなんです。でも、“こちら側”の意識があいまいになる眠りの中で“あちら側”につながれるのではないかという気がします。そして、永遠の眠りである死によって“あちら側”に押し流されるのではないかと。人が生まれたことは消せないし、人が亡くなったことも消せない。ひとりの人間が生まれて死ぬ、というのは、大きいことなんです。死によって消滅するのは肉体だけで、不在として、空席として、存在しつづける、と思います」

 小説を書く時には、あらかじめストーリーを組み立てることはしない。導かれるように書くのが柳美里のやり方だそうだ。作中、何度も登場する『夏は来ぬ』の歌の歌詞も、書いている最中になぜか口ずさんでいたものを、その歌に導かれるように取り入れたと明かしてくれた。
 「小説を読むことによって、自分の人生を照らしたい、あるいは別の人生を体験してみたいと思われる方は多いのではないでしょうか。あらかじめ計画されたものは人生ではないですよね。何の前触れもなく、あした終わってしまうかもしれないのが人生じゃないですか。だとしたら、そのわからなさに身を置いて書きたいんです。小説の登場人物というのは、もちろん現実にはいない人なんだけれど、その人といっしょに耳を澄まして聞こえてくるもの、目を凝らして見えてくるものを書き留めたい。作中人物に引きずられないと私は書けないんです。だから、いつも、“こういうストーリーになります”と最初に編集者に伝えたものとはかなり異っています(笑)」

 売れっ子作家にとって、休息はなかなか訪れない。今も締め切りに追われる忙しい日々を過ごす。しかし、「ストレスの解消法は?」という質問が一番困ると、柳さんは笑顔を見せる。
 「息抜きを出来ない性分なんです。原稿がたまってくると、なんとかして逃げたいと思うんですけど、どうしたら楽になれるかというと、やっぱり書くしかないんですよ。そうやって、もう20年間、休まず書きつづけています。でも、いつか休みたいな。1年間でいいから、映画を観て、本を読んで、旅をして……1年が無理なら半年でもいいんですけど……」

 大好きな映画の守備範囲は全方位的。ハリウッド映画から前衛的なものまで「何でも観る」と柳さん。一番好きな映画作家はと問われれば、「テオ・アンゲロプロスかな」と答えるが、テーマに共感する宮崎アニメは、立ち見してでも必ず初日に見る。ロバート・デ・ニーロが好きで、彼の名前がある作品も必ず見るという。
 「10代の頃から、映画、映画、映画。お金があったら映画館に行くという感じだったから、一番影響を受けたのは映画かもしれませんね」

 柳美里の小説を読むと、鮮やかに映像が浮かぶのは、そういうわけだったのかもしれない。読む楽しみ、想像する楽しみ、そして、たとえ悲しいことであっても、それを感じられる愛しさ。柳美里の新作に接し、すぐれた小説はどんな娯楽にもまさると改めて実感する。




『雨と夢のあとに』
柳美里著 角川書店刊 1470円(税込)

*『雨と夢のあとに』を原作とした連続テレビドラマが、テレビ朝日系毎週金曜23時15分〜放送中。
柳美里 作詞、ヴィジュアル・プロデュース 奥田美和子ニューシングル ドラマ主題歌『雨と夢のあとに』5月25日発売



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