
vol.202
本当の中国が見えてくる!? 映画『わが家の犬は世界一』
ルー・シュエチャン監督
犬と飼い主の物語を通して、リアルな庶民の日常生活を描きたかった。
これからは都会を描いた中国映画がもっと出てくるはずですよ。
2003年、中国で公開された一本の映画が、大きな話題を呼んだ。これまで中国映画といえば、壮大な歴史物語や美しい自然を舞台にした珠玉の人間ドラマに重きを置いていた。が、本作『わが家の犬は世界一』は、当局に無登録で飼っていた愛犬を没収された男の騒動を通して“今の中国”を伝える新しい中国映画。これまでにない、リアルな中国のホームドラマなのだ。監督は“第六世代”の代表監督ルー・シュエチャン。
「この映画の元となる騒動は、実際に私の身の回りに起こったことだったんですよ。登録料を払えなかった親せきが、愛犬を没収され、結局取り戻すことが出来なかったのです。しかも、その犬は私がプレゼントした犬でね。私自身、かなりショックを受けた出来事だったんです」
中国では犬を飼うためには登録料(当初は約7万円)を払うことを義務付けられており、散歩時には発行された“犬証”を携帯しなければならない。この物語の主人公ラオは、“唯一玄関まで出迎えてくれる”愛犬のカーラを没収され、何とか取り戻そうと四苦八苦。登録料は、夜勤労働者のラオにとってそうそう払える金額ではない。
「こういったことは、現実の中国のあちこちで起こっていたこと。誰もが理解できるテーマを通して、リアルな庶民の日常生活を描きたかったのです」
都会に生きる庶民の姿をリアルにとらえた本作だが、これまでの中国の映画事情からすると、かなりの異色作といえる。
「今までも、政府が都会の映画を禁じていたわけではありません。ただ、都会を描こうとするとどうしても社会の矛盾やタブーに触れてしまうことが多く、検閲に引っかかってしまう。あれこれ削られてしまうと、都会の映画として意味のないものが出来てしまうわけです。しかし、我々、いわゆる“第六世代”の監督たちは、チャン・イーモウら“第五世代”とは違い、生まれたときから都会生活をしています。従って、都会の真実を映画にしたいと思うのは当然なのです。かつては私も厳しい検閲を経験しましたが、それもだいぶ緩くなりました。私が思うに中国の役人もだんだんと進歩してきたようです(笑)。当節であったなら、本作は検閲にかかって、こうして海外に出すことすら出来なかったと思いますよ。今、中国は過渡期にあり、以前からあったいろいろな問題が表面化してきているのではないでしょうか。本作で取り上げた犬の飼育に関する法律も現在では変わりました。今後、中国はもっと変化していくでしょう。これからは、都会を描いた良い作品がもっと多く出てくるはずです」
家族とコミュニケーションが取れず犬を溺愛するお父さんと、その家族の物語の中には、現在の中国の諸事情が見え隠れする。そんな中国ならではの事情に驚きつつも、どこの国も権威を失った父親の哀愁とユーモラスさ、そしてペットや家族を思う気持ちは同じであることに、温かい親しみを覚える作品なのだ。