
vol.202
安藤裕子 Interview
音楽は、人生のなかにあるドラマのサウンドトラックであればいいと思う
高いポップセンスで耳の肥えたリスナーたちも魅了する、シンガーソングライターの安藤裕子が新しい一歩を踏み出す。デビュー以来、さまざまな可能性を探ってきた彼女が、ファーストアルバム『Middle Tempo Magic』のリリースを経てたどり着いたのは、ストレートなポップソング。先日発売された最新シングル『あなたと私にできる事』はこれからの彼女のステートメントともいえそうな作品だ。
安藤裕子は、高いポップセンスを持つシンガーソングライターだ。デビュー以来、耳の肥えた音楽リスナーや、個性的なミュージシャンたちからも注目されてきた。そんな環境の下で、安藤裕子はクールに自分のペースを守りながら、オンリーワンのポップソングを作り続けている。
「『Middle Tempo Magic』を出すまでは、この曲を分かってくれる人がいたらいいなって、気を使いながら作っていたところがあります」と本人。良いフィードバックが戻ってくる一方で、知らない間に優等生の自分が出来上がっていったことに不安が募った。
「自分はそんなにいい人間じゃない。気をつけすぎて、自分の弱みを見せそびれたことに不安になったんです。これはヤバイと(笑)。それでどこかバランスを崩しちゃった」
真の自分と楽曲で表現された自分のギャップ。それがプレッシャーになった。もともと不満があると殻に閉じこもる性格で、しばらくは暗い曲ばかり作って過ごす時間が続いた。そんな状況から彼女を救ってくれたのが、20年来の親友の結婚の知らせだった。
「去年の末ぐらいだったかな、わざわざ手紙で報告してくれて。それをもらったときにうれしくて泣いちゃったんです。それで、暗いところへわざわざ自分の足を引っ張ってるんじゃなくて、普通に結婚してっていう身近な生活の幸せを、私もかみ締めたいなと思えたんですよね」
そうしてできたのが、先日リリースされたばかりの最新シングル『あなたと私にできる事』。柔らかなホーンのイントロで始まるこの曲は、あなたといるだけでシアワセなのと、愛するパートナーへの思いをストレートに綴っている。結婚する友人へのはなむけの曲だ。
「ありえないぐらい素直な歌詞で、そんなこと実生活でも言ったことないよ、っていうくらいストレート(笑)。人ってわかりやすいものを避けたがるところがあると思うけど、伝わってほしいと思うなら、分かりやすいものができてなんぼだろうって思うんです」
曲に登場する女性は安藤の願望でもある。
「私は弱虫だからはっきりした言葉を避ける傾向があるんです。たぶん、言い訳の余地を残しておきたいんだと思います。この曲に出てくる女性は強くて朗らか。そういうものを自分も持ちたいなと思いますね」
カップリングの「lovely second way」でも幸せをまっすぐに歌っている。
「大人が出会うイメージで、過去があって、まっさらな状態ではない2人が出会って、これまでは別々の道を歩いてきたけれど、これからはこの新しい2番目の道はいかがですか、そういうことを書いたんです」
ポジティブで素直な2つの楽曲をリリースしたことは、彼女がこれから向かう方向を指し示す。
「変化の上にいると思うんですよ、分岐点のような。それで今は、自分がこれまでやったことのないストレートなポップスをやって、シングルというカテゴリーのなかで、どういうふうなことができるのかやっていきたい」
悩んだ部分は、来年のリリースを目指すアルバムに反映していくつもりだ。
「相手のことも分かりたいし、自分のことも分かってほしい。そういう気持ちがあってこそ伝わると思う。だから、聞いてくれる人に曲の解釈をごり押しするようなことはしたくなくて。聞いてくれた音楽がその人の人生にあるドラマのサウンドトラックになってくれればいいな、と思います。自分のワンシーンに重ねて盛り上がって泣いちゃうみたいな、それでいいって。たとえ私の伝えようとしたことがそのまま伝わらなかったとしても、聞いてくれた人の心に何かわからない動きがあるってことは、聞いてくれる誰かと手が繋がった状態にあるんじゃないかなって思えるんです」
音楽を始めたときには、この曲はこうあるべきでそれ以外はあり得ないと、「本当にかたくな」だったという彼女。今は確実に本物のシンガーソングライターへと成長している。