
vol.204
歴史スペクタクルに込められた、巨匠監督の挑戦。『キングダム・オブ・ヘブン』
リドリー・スコット監督
INTERVIEW
「映画は遺産だと思っているんだ。くだらないものは作りたくないね。
イギリス出身ながら、ハリウッドで数々の成功作を生み出し続けてきた“巨匠監督”リドリー・スコット。『グラディエーター』(00)に次いで描く歴史スペクタクルが、現在公開中の『キングダム・オブ・ヘブン』だ。
「脚本家のウィリアム・モナハンと仕事をしていて、この時代の作品を作りたいと考えた。特にこの10年間の和平の期間が面白いと思ったんだ」
オーランド演じるバリアンは、故郷から遠く離れたエルサレムでこれまで見たこともない文化と出会う。バリアンの目を通して、観客は目を釘付けにされるような映像世界に入り込む。
「常に、実写をCGと融合させることを意識していたよ。まず、基本となるマスターショットを撮る。たとえば、城攻めのシーンなら、やぐらのセットを立て、1000人ほどの兵を配置する。それを実写で撮って、あとはデジタルで埋めていくんだ。3台のやぐらが10台にも増え、矢を1万本に、1000人の兵が7万人になったりね(笑)。でも基本はあくまで実写だ。映画の力というものは、実写から生まれると思うんだ」
ヴィジュアルで魅せる一方、演出にも監督こだわりの理論が働いている。
「例えば、サラディン軍がやぐらを使って、エルサレムの城壁を攻撃するシーン。やぐらの中や背後に身を隠しながら近づき、そこから兵士がどっと出てくる。現在の戦闘で、兵士が戦車を盾にして戦うようにね。それと、バリアンが白く塗った石で、近づく敵の距離を測る場面がある。でも実は、それらは私の想像の産物でね。あんなものは無かったはずなんだよ。でもリアルに感じるだろう?(笑) つまり、当時の戦闘を描くのに、現代と同じ論理を持ち込んだわけさ。時代が違っても、論理的にそんな行動をとるだろう、ということなんだ。似たようなことは当時もやっていたはずだよ」
具体的な戦法を描くことで、迫力もリアルさも度を増す。
「歴史に忠実にしたのは、エルサレムを明け渡したときのエピソードだ。長い間包囲されていたにも関わらず、実際の戦闘は2週間くらいと、とても短いものだっだ。城を包囲した攻撃軍は野営を続け、彼らが飢え死にするまで待つ。ところがサラディンはろう城するエルサレム軍に休戦を申し込んだ。どちらの側も、このまま戦争を続けていたら、聖地自体を破壊してしまうことが分かっていたんだ。サラディンはエルサレムの人々に、税金を払って無事に脱出するか、残って回教徒になるかを選ばせた。ところが中にはとても貧しい人も多くいて、彼は秘密裏に自分の金で、彼らを脱出させてやった。これは有名な話だよ。そういった意味でも、彼は大きな人物だった。私は、そんな指導者が現れることを願うね(笑)」
サラディンとバリアンは、滅びの道でなく和解を選んだ。聡明なリーダーが出会った歴史的な瞬間だ。
「そんなようなことがあったんじゃないかと私は思うんだよ。こういった戦いがあったことは史実だからね」
近年、ハリウッドでは『トロイ』など歴史大作ものが相次いでいるが…。
「現代に置き換えても、同じような話はできるとは思うよ。それも、とても似通った物語がね。でも私としては、歴史に遡って“現代を語る”ことが好きなんだ。そうすると、より今日を理解できるような気がするんでね。私には今の世界がさっぱり理解できなくて(笑)」
『エイリアン』や『ブレードランナー』でリドリー・スコットのファンになった映画ファンは多い。
「あのころに比べてどう変わったか? そう、かなり寛容になったね(笑)。いつも同じことを質問されてドアを蹴っ飛ばしたりしたこともあったけど、今ではそんなことをしても何も得られないと分かったからね。ま、今でもたまにはするんだけどね(笑)。今後も重要なものを作っていきたいと思っている。くだらないものは作りたくないんだ。映画は遺産だと思っているんでね。もちろん娯楽作品ではあるけれども、夢を見ることが出来るからね」
巨匠にして仕事師。リドリー・スコットの挑戦は続く。
(本紙・秋吉布由子)