
vol.204
愛を知るすべての大人へ…『ナイン THE MUSICAL』
デヴィッド・ルヴォー
INTERVIEW
知性こそがなによりもセクシーである
感極まった−ビリー・ジョエルも泣いた
tpt(シアタープロジェクト東京)が昨秋、上演したミュージカル『ナイン THE MUSICAL』が5月27日から場所も同じアートスフィアで新キャストを迎え再演される。演出はもちろんデヴィッド・ルヴォー。
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2003年にルヴォー演出、アントニオ・バンデラス主演でブロードウェイでも上演されたこの作品はイタリアの映画監督フェデリコ・フェリーニの最も自伝的要素が強いといわれる映画『8 1/2』をモチーフとした“大人の”ミュージカル。実はルヴォーが日本でミュージカルを手がけるのはこの作品が初めてとなる。
「『女性』というのが、私が今まで芝居をやってきた中での主なテーマになっています。それは社会における女性であり、そこから派生した男と女の関係であったりというもので、『ナイン』もまた男女から派生した愛を扱う物語であり、いままでやってきた数々の作品からの自然な流れの延長上にある作品です。今回は今までよりも、より広い客層に訴える作品が必要だということもあり、ビジュアル的にも音楽的にも非常にエンターテインメント性が高いこの作品を選びました」
フェリーニの分身ともいえるグイド役を今回は別所哲也が演じる。
「グイド・コンティーニは映画監督であり、多くの女性を愛し、なおかつ優れた知性を持った女性たちにも愛されるという人物です。そのためにはカリスマ性も必要なんですが、ナルシスト的なものを持ってしまうとそれが説得力を持たなくなってしまうんです。でも、それをすべて兼ね備えた人というとなかなか見つからない。彼はそれに当てはまるのみならず、ミュージカルにおける経験も豊かでした。この役は歌の難度も高く、質量ともに多く、それだけのものを表現するということは非常に難しいのですが、彼はそういう実力と経験を持っている役者だった。昨秋に『ナイン』を観に来てくれた時に対面して、彼ほどの磁力やきらめきを持った人はなかなかまれではないかと思いました」
ブロードウェイをことさらありがたがるつもりはない。しかしルヴォーの作品に東京にいながら接することができるということはやはり何事にも代えがたい。それはもちろん役者にとっても。昨秋出演した役者たちは公演を経て、何かを手に入れてそれぞれのフィールドに帰っていった。昨秋に続き今回もキャスティングされているメンバーについては…。
「みんな存在感が増していた。今回はそこに哲也が入ったことで、男女のあらゆる関係にまた違うものが生まれた。非常に刺激的なものがたくさん生まれました」
ルヴォーの手にかかるとなぜか女優は美しく魅力的になる(もちろん男優もだが…)。昨秋の『ナイン』の出演者の一人、純名りさはほかの、例えばテレビドラマに出ている姿とはまるで違う演技、存在感、セクシーさを見せていた。なぜこんなにも違うものなのだろうか。ルヴォーは純名についてこう言う。
「セクシーという言葉が出てきましたが、私は実は知性こそがなによりもセクシーなものであると思っています。彼女は非常に知性のある頭のいい方だなと稽古の早い過程で気がついたんですよ。今まで彼女の持っている知性を表現するような役に恐らく巡りあってないんだなと。つまり感情的なというより感傷的な人物を演じることを求められることが多くて、知性を生かすという機会がなかなかなかったんではないか」
日本ではミュージカルというといろいろと物申す人が多い。わざとらしいとか、突然歌を歌い出すのは不自然だとか…。ルヴォーは言う「演劇とダンスとパフォーミングアーツなどが区別できたのは20年くらい前の話。今では分けることは不可能」と。
「シアターというのはあらゆるものを包括する言葉になっているので、やはり真実として感じられなければいけないというのは変わらないと思うんですが、だからといってそれを表現するのに、リアリスティックであるということは必要ない。そしてそのなかで音楽というのは非常にパワフルな要素であることは間違いない。たとえばロックコンサートの演劇的要素というのはすごい。特に音楽と知性が結びついたときの表現はパワフルなものです。アルゼンチンでも『ナイン』をやったことがあるんですが、そのときにちょうどローリングストーンズのコンサートがあって7万人くらいの観客を集めていた。偉大なロックバンドが2時間20分くらい、あらゆる感情の起伏と喜びを観客に味合わせ、そしてクライマックスへと導いていく。そういう技をあれだけ分かっているというのは鮮やかでした。完全にこれは演劇だなと思いました」
確かに舞台と名のつく場所で起こることは今やジャンルという言葉で括るのはナンセンスだ。
「ミュージカルを好きじゃないという言葉を聴くたびに、どういう意味なんだろうと思うんですよ。つまり、異常に幅の広いものをすべて包括してミュージカルと呼ぶわけですから。ニューヨークでやっていたときに本番が終わって楽屋口に回って入ろうとしたら、そこで大の男が泣いていたんです。近づいてみたらビリー・ジョエルだった。彼が言うには、客席で“これはただの演劇なんだ、ホントじゃないんだ”って自分に言い聞かせていたのに、すべての瞬間もつい信じられる、信じてしまう自分がいて、それで泣いてしまったんだと。だからこの作品はそういう真実の次元でつい受け止めてしまうミュージカルなんだって思うんです」
ここ数年tpt設立当時に比べると日本での仕事の本数がぐっと減ってしまったルヴォーだが、まだまだやりたいこともあるし、一緒に組んだことのない人で興味のある人もたくさんいるという。
「今回『ナイン』という作品を選んだのはいままでやってきたものを広げていきたいという思いから。今はあまり間を置き過ぎずに、日本でオリジナルで新作をやりたいという希望を持ってます」
最後にミュージカルに興味のない友人にどう言って『ナイン』をすすめればいい!? と聞いてみた。
「この作品は非常に知的であり、美しいメロディーが満載で、非常にセクシーであるので、もし音楽が好きでセックスが好きでという人であれば、この作品を見ねばなるまいと思わない理由がないと思うんですよ(笑)」
(本紙・本吉英人)
プロフィル 1957年生まれ。イギリス出身、マンチェスター大学卒。'88年初来日。『危険な関係』(松竹)を演出。'93年プロデューサー・門井均とともにシアタープロジェクト・東京(tpt)を結成。『テレーズ・ラカン』『ヘッダ・ガブラー』『The Blue Room』等、tpt作品を演出。日本の演劇シーンに多大な影響を与え続けている。ブロードウェイ『ナイン』(アントニオ・バンデラス、チタ・リヴェラほか出演)では'04年トニー賞ベストミュージカルリバイバルを含め2部門受賞。
【日時】5月27日(金)〜6月12日(日)(開演は月水金19時、木14時/19時、土13時/18時、日14時。火は休演。開場は開演30分前)
【会場】アートスフィア(天王洲アイル)【料金】S席1万2000円、A席8000円、B席5000円、nineシート8000円。当日券は開演60分前から発売。
【問い合わせ】tpt(TEL 03-3635-6355=11〜19時 [HP]http://www.tpt.co.jp/)
【演出】デヴィッド・ルヴォー
【出演】別所哲也、純名りさ、高橋桂、池田有希子、大浦みずき、花山佳子、田中利花、剱持たまき、井料瑠美、鳥居ひとみ、宮菜穂子、江川真理子、家塚敦子、福麻むつ美、高塚いおり、岡田静、山田ぶんぶん、樋口真、向笠揚一郎
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