
vol.222
インタビュー
8年ぶりの主演映画『8月のクリスマス』公開
山崎まさよし
職業は何かと訪ねたら、おそらく「俳優」という答えは返ってこないだろう。シンガー&ソングライターとして数々のヒット曲を生み出し、名盤アルバムを何枚も世に送り込んだ山崎まさよしが、デビュー10周年の今年、『月とキャベツ』以来8年ぶりに長編映画に主演する。主演映画『8月のクリスマス』は、日本でもヒットを飛ばした同名の韓国映画のリメイク。恋愛映画の名手と謳われるホ・ジノ監督の作品が、日本を舞台に置き換え、さらに心に染みる物語として生まれ変わった。
「今でもこの映画を見ると、この街やこの人たちは、どこかで息づいてるような錯覚に陥るんです」
山崎は先日、丸の内の『丸ビル』3周年記念の公開ライブに出演していた。司会者からデビュー10周年についての思いを聞かれると、「この10年、どれが衣装だったか分からない(笑)」と語り、会場の笑いを誘った。インタビューの日も、そのナチュラルさを象徴するような、いつも通りのTシャツ姿。この10年変わらぬ新鮮さを放ちながらも、その歌の魅力同様、人生のどこかですれ違ったことがあるような、人をひきつける不思議なオーラに山崎は包まれていた。
『8月のクリスマス』のリメイク権を買ったプロデューサーは、主演は山崎以外ありえないと思っていたそうだ。
「えっ、そうなんですか? 言ってくれればよかったのに(笑)。でも、思い切ったことしはったですよね(笑)」
俳優としての経験は、その音楽活動に比べれば圧倒的に少ない。しかし、97年の映画『月とキャベツ』に続いて出演した98年の連続ドラマ『奇跡の人』でも存在感を示し、役者・山崎として多くのファンを獲得した。以降、『月とキャベツ』の篠原哲雄監督との付き合いから、ショート・ムービーを集めた『Jam Films』にも出演している。
「役者としてのオファーをいただいても、全部が全部に応えられるようなものは持ってないと思うから、脚本家や監督にお会いして最初の段階から関われるような状況であったり、音楽的な関わりがあるなら、その時間をこっち側にもらえたりするといいんですけどね。『月とキャベツ』も、主題歌(『One more time, One more chance』)の存在が物語とすごくリンクしていたこともあるし。まあ、音楽と比べれば、演じること自体に喜びは感じにくいですけど。最終的に作品というものに還元されていった時には、出てよかったな、何とかやれてるなっていう感覚はありますね」
求められることに気負うことなく、役者としては淡々としている山崎である。
『8月のクリスマス』は、病により余命を宣告された男と、その最期の日々の中で偶然出会った女性との、静かでせつないラブ・ストーリー。決してハッピーエンドに終わらない恋でも、ちょっとしたことで笑いあったりすることが、実は人生の大きな宝物なのだという幸福感が、画面の中で淡く輝く物語だ。
「ものすごい淡々としてるんですけどね。普通なら役者さんが気合入れて演じるような感情的な部分がほとんどカットされてるから(笑)。でも、その分、見てくれる人は中に入っていけるかなと思うんですよ。最初から完全にフィクションのように描かれてると、それはどこか絵空事のように感じるけど、今でもこの映画を見ると、この街とかこの人たちっていうのは、どこかで息づいてるような錯覚に陥るんです。死生観というほどじゃないけど、死ということもある種時間の流れの中のひとつの出来事で、そこから誰かに何かを受け継ぐというか、ちゃんとバトンが渡されるという思いが表現されていて、悲しいだけじゃなくどこか希望に根ざしてる。その方が、実際に生きてる自分たちにとってはリアリティーなんじゃないかなと思うんですよ。まあ、映画ですから、もっと素敵に騙して、という気持ちもあると思いますけど(笑)」
淡々とした中にも、誰もがドラマを抱えているという描写は、音楽家・山崎まさよしのスタイルにもどこか通じる気がする。
「そうかもしれないですね。僕も日常を歌うことが多いから。日常の中にあるちょっといい話みたいな(笑)。ドラマチックに訴えかける人もいますけど、僕はどっちかというと歌の内容がポケーっとしてるんですよ。例えば『区役所』という歌があるんですけど、それはある男が、ただ冬の日に散歩してる歌で、この道を曲がったら区役所に着くぞと。でも、もしかしたらその男には過去があって、彼女と結婚するつもりで区役所に行くことを意識してた道が、彼女と別れてしまったと。でも、道だけはずっと残ってるから、そこに来ると区役所というのを意識してるっていう心情を歌ってるんですけど、詞の中には彼女と別れたなんて一切書いてない。そんな感じでポケーっとしてるわけですよ。ちょっといい話じゃないね、これ(笑)。でも、この映画にある世界は、そういうものに近いような気がしますね。一瞬冷たいようだけど、前向きな出来事っていうのが、多分生きてるとあるんだと思うんです。冷たいといったらおかしいけど、一緒になって哀しむことは、実は停滞だったり止まった感情だったりする。どうにもならないことも含めて時間は流れていくだろうから、その中で人を好きになったりして、ある種颯爽と未来に向かっていくのは悪いことじゃないですよね」
映画の中で唯一ポジティブな感情として描かれるのは恋愛である。人を好きになることは、その人の力になる。それは山崎自身も認めるところだ。
「不思議と何でもできるんじゃないかとか、夜も寝なくて大丈夫とか、人を好きになると思いますよね。恋すると女性はきれいになるっていうけど、活性作用は絶対あると思う。それで主人公の病気も治ればよかったんですけどね(笑)」
映画の結末は変えようがないが、日本版の最期には、韓国版にはないラストシーンが付け足された。彼が彼女に残した手紙の内容が明かされるのだ。
「まあそれも、特にドラマチックじゃなく、普通といえば普通の手紙なんですけど」と山崎は笑うが、手紙の文面は、監督と一緒に山崎も考えたそうだ。
映画につけられたキャッチコピーは『君は神様がくれた最高のプレゼント』。山崎が手がけたサウンドトラックと主題歌が映像と溶け合い、『8月のクリスマス』は、日本ならではのラブ・ストーリーとして生まれ変わった。
作品紹介はコチラから
33歳の山崎が「おじさん」と呼ばれて
映画の中では、知り合った若い女性から「おじさん」と呼ばれている。「その呼ばれ方には終始僕も違和感がついて回りましたけどね(笑)。でも、物語の中のふたりの距離を保つには、その呼び方が適切だと思う。“お兄さん”じゃ近すぎるんですよ。“おじさん”と呼ばれるたびにちょっと距離を感じる。それが、なかなか気持ちを通じさせることのできないふたりを現していたのかなと思います。韓国版も“おじさん”でしたから」 |
お気に入りのシーンは「素で笑っているところ」
映画の冒頭、写真館を営む寿俊(山崎)のもとに、親友の亮二(大倉孝二)が自分の証明書写真を見せに来る場面がある。「この顔はひどい」と亮二に言われ、写真を見ながらふたりは本気で笑っているようだが…。「あの写真には仕掛けがあるんですよ。装飾担当の人が写真に書き込みをしたのを、僕と大倉さんが見て、本気で笑ってます。監督から“ただ本当に笑ってください”と言われたシーンなんだけど、そこは好きな場面ですね」
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(取材・文/幸野敦子)
『8月のクリスマス』
監督・脚本:長崎俊一 出演:山崎まさよし、関めぐみ、井川比佐志、西田尚美、大倉孝二、戸田菜穂他/9月23日よりシネスイッチ銀座他にてロードショー公開 |