
vol.227
インタビュー
この秋、主演作が続々公開! フランス映画界イチオシ俳優
『真夜中のピアニスト』主演
ロマン・デュリス
もしあのとき、道で声をかけられなかったら…
この主人公のように、夢を引きずって生きていたかもしれないな。
あるときは現代フランスの大学生を等身大に演じ、またあるときは歴史ドラマ感たっぷりのエンターテインメント作品で若き日の怪盗ルパンを演じる。コメディータッチの作品から史劇まで、さまざまな役どころに挑戦してはそれぞれのジャンルのファンを獲得している注目の俳優ロマン・デュリス。彼は今、フランスの映画界で大きな期待を集めている若手の代表格なのだ。
「最初は、溝口健二や小津安二郎の映画のような印象を持ってたんだけど(笑)。いろんなことができて素敵な街だね。早く仕事を終えて見学したいよ! 食べ物も建築も素晴らしいし…日本に住んでもいいな(笑)」
通訳を介して話している最中にも、「そうそう」「そうですかー」と日本語で相槌を。日本に着いてすぐに覚えたとか。これも作品ごとにガラリとイメージを変える彼の器用さの表れ? フランスでは1つのジャンルで成功すると、そのイメージを保ち続ける俳優も多いというが、彼は明らかに例外だ。
「僕は人を驚かせるの好きだから、喜劇も、ノワールも、時代モノもやりたいんだよ。全く正反対の役どころに挑戦するほうが好きなんでね。でもあえて違うジャンルを選んで出演しているわけではなくて、監督がその作品を通してどんなメッセージを伝えたいのか、どういう世界観を持っているか、なぜその映画を撮りたいのか、そういったことを基準に作品を選んでいるんだ。1種類の役だけ演じ続けるというのは、俳優にとっては危険なことだと思うよ」
そして本作では『リード・マイ・リップス』の名匠ジャック・オディアール監督とともに70年代に公開され大ヒットしたハーヴェイ・カイテル主演の『マッド・フィンガーズ』をリメイクしたフィルムノワールに挑んでいる。彼が演じるのは、裏社会で生きながらもピアニストという純粋な夢を抱き続ける主人公トマ。
「ピアノはずいぶん練習したよ(笑)。それ以来、ピアノを買いたいと思ってて。もうあまり弾けないんだけどね(笑)。不動産業界には、そういう裏社会の人が多いということで、そのあたりのリサーチもしたよ。そうやって、トマについては自分なりの方法で役を作り上げたんだ。本作の脚本とオリジナルとを比べたとき、全然内容が違っていたからね。オディアールのシナリオは、トマがどのような運命をたどっていくかがよく分かるようになっていると思う」
深い苦悩、夢に憧れる純粋さ…トマの陰影に満ちた表情が、切ない。その一方で、裏社会の激しさも捨てられない。
「トマという人物はときに盲目的に突っ走ってしまう、荒々しいところがあるんだ。夢に対しても、愛情に対しても」
実は美大生だった彼は、路上でセドリック・クラビッシュ監督にスカウトされ俳優デビューを果たしたというドラマティックな経歴の持ち主。
「学生時代から、人の前でおどけて皆を笑わせたりしていたし、自然に俳優になるような何かを持っていたんじゃないかな。そういうタイプの人って、けっこういると思うよ。そういう人は、実際にきっかけがあれば俳優としてやっていくことができるんだよ。僕だってもしクラビッシュにスカウトされなければ、トマのようにずっと夢を押し殺して生きていて、ある日突然、俳優になりたいとか言い出して、大変なことになっていたかも(笑)」
そうジョークを言うロマンだけれど、偶然のデビューは必然だったと思わせる才能の持ち主であることは間違いない。

(本紙・秋吉布由子)