“モーターショーは時代を映す鏡である”今年ほど、この言葉がリアルに感じられたことはない。 19日、一般公開を前に報道関係者に全容が公開されるプレスデー初日。ワールドプレミアが79台、ジャパンプレミア120台というバリューに加え、50周年にあたることから、国内外の報道陣が開館前から列をなした。 プレスデー初日は特有の緊張感や期待感が会場全体に渦巻くのが常だが、今年は例年とはちょっと違った雰囲気……“戸惑い”ともとれる小さなざわめきがそこかしこで聞こえてきた。 ショーの主役は、環境への配慮に主眼を置いた“エコロジーカー”。例えば、トヨタの高級ブランド「レクサス」のコンセプトモデル「LF-Sh」はエンジンとモーターを併用するハイブリッドカー。ホンダは最新鋭の燃料電池システムで走る「FCXコンセプト」に、マツダは水素とガソリンを使用するエンジンとモーターを組み合わせたハイブリッドカー「プレマシー・ハイドロジェンREハイブリッド」に、一際明るいスポットライトを照らしている。 そんな近未来の“エコロジーカー”が報道陣のフラッシュを浴びる一方で、ガソリンを燃焼させる従来のエンジン方式を極限まで突き詰めたハイパワー、あるいは美しさを徹底的に追求した「スーパースポーツカー」も数多く出品され、存在感を示している。 フランス・ストラスブール近郊に本拠を置くヨーロッパの伝統的なスポーツカーメーカー「ブガッティ」は、販売価格1億630 0万円のスーパースポーツカー「ヴェイロン16.4」の市販モデルをワールドプレミア公開。最高出力1001馬力、最高速度は400km/hを超える驚愕のスペックは車を愛する者の心に響き、宝石のように流麗できらびやかな佇まいは見る者すべての目にまばゆい。 輸入元(ニコル・レーシング・ジャパン)のニコ・ローレケ代表は、「ブガッティは、サラブレッドであり続けることに常に敬意を表し、このスポーツカーは全く妥協することなく造られました。現代社会において、規制の壁を越えた究極のコストパフォーマンスという点でやがて評価を受けることになるでしょう」と誇らしげ。さらに「サラブレッドを持つことに何の意味があるのか?とお尋ねになる方もいるかもしれません。意味はあります。優れた種を所有し、乗りたい時にいつでも乗ることができると考えるだけで、あなたの心は究極のプライドと満足感に満たされることでしょう」とも。 「ヴェイロン16.4」は世界限定300台、うち5%が日本で販売されるという。非公式ではあるが既に日本からオーダーが入っているとの噂も。そう聞いただけでも元気が出る。 ブガッティの取材中、あるスポーツカーのことを思い起こした。その名は「マクラーレンF1」。F1の名門マクラーレンがそのノウハウと情熱を投入した究極のロードゴーイングカー。95年のデリバリー開始から、ナンバー付きのロードカーが76台、後に製作されたレース仕様車を含め約100台が世に送り出された。当時の価格は540万ポンド(約1億円)、現在は2億円のプレミアムプライスがついている。前述のローレケ代表の言葉を借りるなら、時が経ってコストパフォーマンスが認められたということになる。 F1マクラーレンチームのビジネス・ディベロップメント・マネジャー安川実氏は、日本における販売とケアを担当している。「F1で開発したノウハウと、ベストな素材のみで組み上げたマシンでした。最終的にいくらで売ろうではなく、最高のものを造ったら、あの金額になりました。デリバリー当時、お客様が“ここまでやるか!これなら高くてもしようがない”と心から喜んで下さったことを思い出しますね」とのコメントがヴェイロンにオーバーラップする。 今年のモーターショーについては、「車の魅力は、速くて安全で、かつエキサイティングであること。この重要な要素を忘れない限り、エネルギーが変わっても車の面白さは変わらないでしょう」。史上最高を謳うヴェイロンの登場ついては、「チャレンジする人がいるからこそ、スポーツカーの世界は面白い。そしてマクラーレンF1も映える(笑)。本当にいいことだと思います」と。伝説は脈々と続いていく。 “美”もしくは“デザイン”という観点から出色なのは、光岡自動車の「オロチ」。大蛇をモチーフにした独特の“うねる”ボディーラインや細部の造り込みは芸術的である。「遊び心を持った、スペックにこだわらないクルマを求める人へ」というコンセプトにのっとって詳細は省くが、来夏ごろから販売を開始、2009年までに4 00台をデリバリー予定。 デザイナーの青木孝憲氏は、「子供のころはアメリカのコルベット、70年代ごろのグラマラスなボディーラインのスティングレーに憧れました。発想の原点は原始的で、とにかくカッコいいこと(笑)。もちろん、人それぞれの好み、基準があるわけですから、万人受けしなくてもいいと思いますし、少なくても本当に気に入ってくれる方がいればうれしいです。アニメでいえば敵役ながらも惹かれるキャラクター、ガンダムのシャアみたいなところを狙っています」。熱い、分かりやすい、そして私事だが、欲しい! “賛否両論は個性の証”ぜひ、ご自分の目でお確かめを。 “操る”、“乗りこなす”ことこそが車の最大の楽しみ方であるという車好きは世界的に多い。静々とスピーディーに走る車が珍しいものではなくなった現代に、あえて“じゃじゃ馬”を生み出し続けているのがアメリカの「サリーン」。サリーンはレーシングドライバーとして活躍したスティーブ・サリーン氏が83年にカリフォルニア州アーバインに設立したカロツェリア、フォードの市販車をベースにハイパフォーマンスカーを製造している。記者発表でサリーン代表が語ったメッセージには、「高出力なエンジン、地を這うようなサスペンション特性」「情熱の結晶」「価値ある投資」と車ファンにはたまらないエモーショナルなフレーズが躍る。さらに「独自のドライビングスリル」が得られるのがサリーンの特長であると豪語する。そう、スキルではなくス・リ・ルである。輸入元(ブルーフレーム)の高梨伸之代表は、「ビッグアメリカンは、ホイルスピンしてなんぼ、という熱い思いを継承している車です。サリーンはドライバーに技術を要求します。クラッチが重いわけではなく、ステアリングも軽い、エアコンも効くんですが、でも30分も乗っているとヘトヘトになるんです。すべてがダイレクトで……レーシングカーですね。こういったものを残していきたいんです」とホットに語る。 新時代へと急速に加速していく自動車シーンの中で、パッションを武器に独自の方向に突き進むサリーンの姿勢がにじみ出た出品車は、「乗りこなせるかい?」と自信ありげに微笑んでいるかのように見えた。 会場をなんとか1周した夕方前、65年から「東京モーターショー」皆勤賞という筋金入りの自動車ライター、中島秀之さんにばったり会った。「ここ何年も感じていますが、国産メーカーのコンセプトカーに胸をときめかせることが少なくなりましたね。65年、初めてのモーターショーで見た当時のスーパースポーツ、トヨタ2000GTは感動的で、子供でしたがスペックを丸暗記したほどです」。 今年の全体像については「ガソリンを使う乗り物がいつかはなくなるだろうと予測される中で、“行き着くところまで行ってしまえ”という刹那的なものを感じます。それがいいとか悪いとかではなく、そこには夢があると思います。」と本音を語ってくれた。 “エコ”と“パワー”が共存する会場を後にしながらふとこんなことを思った。社会環境は常に変化していくもので、例えば昨今、会社などで大幅な経費削減がスローガンとして掲げられることも多い。無駄を省くことは必須だが、新しいものを生み出す心の力をスポイルすることになっては本末転倒……このあたりのバランスがまだまだうまくとりきれていないのではないか。 会場の随所で感じられた“戸惑い”のようなざわめきは、来場者の心の声だったのかもしれない。“時代を映すモーターショー”、今年は特に見逃せない。 写真:左から 安川実さん F1の名門・マクラーレンでビジネスディベロップメントマネジャーを務める日本モータースポーツ界の重鎮 青木孝憲さん 光岡自動車「オロチ」のカーデザイナー。4年間のすべてをこの車に賭けてきた 中島秀之さん 1965年から東京モーターショーを“皆勤賞”している生き字引。自動車ライターで、雑誌編集者としても活躍中 高梨伸之さん/スティーブ・サリーン タフでマッスルな「サリーン」を創立したサリーン氏はレースドライバー出身。高梨さんも硬派な車マニアからこの業界に 電動最速を求める人々の生き様 慶応大学 ELIICA 慶応大学の電気自動車研究室とさまざまな民間企業による産学協同のEliica(エリーカ)プロジェクトは、2台のEliicaを出展。昨年11月、元F1ドライバーの片山右京氏がステアリングを握り、イタリアのテストコースで最高速370km/hを達成した8輪電動車そのものと、湘南ナンバーが付いた公道実験車の2台だ。 「電動自動車の非力なイメージを払拭し、環境やエネルギー問題を解決する一翼を担いたい」という学生たちのピュアなマインドは、携帯電話やモバイルPCでおなじみのリチウムイオン電池でホイール内に組み込まれたインホイールモーターを駆動させ、世界を驚愕させる記録を生み出した。 片山右京氏は「挑戦車両はまるで戦闘機、市販モデルは高級車のような乗り味で驚きました。高速チャレンジだけに安全対策は万全で、押すだけで安全に停止できる“赤いボタン”も。幸い、それを使うことも無く記録を達成することができたんですが(笑)。学生がこんなに夢があって凄いプロジェクトの中心にいるのは素晴らしいし、ドライバーに選ばれて光栄でした」 研究室の学生、八代さんは「今は2台で5億円の車ですが、実験と開発を繰り返して1日も早く市販したい」と目を輝かせた。 VEMAC RD200 モータースポーツシーンで活躍する「VEMAC」で知られる東京R&Dは、車だけでなくスケートの世界でもその技を発揮している。長野五輪のころから脚光を浴びるようになった“スラップスケート”、金メダリスト清水宏保選手の足元を支えるのは彼らの作品である。 マネージャーの平手則男氏は「長野直前のカルガリーW杯でテスト的にスラップを履かせてみるとタイムがアップ、これならいけると。クルマのタイヤと同じでスケートはクツが命。R&Dとのジョイントは記録を生みました」と当時を振り返る。 清水選手に質問を投げかけてみると「R&Dのカーボン素材のクツは、高度に仕上がっていて、フィット感、軽さ、強さのすべてが他にはない完成度」。ご存知のように長野五輪500mでは金メダルを獲得した。 トリノ五輪では黄金の足と共に世界を駆ける日本の名工にも注目したい。 株式会社東京R&D【HP】http://www.r-d.co.jp/ MITSUOKA OROCHI 94年に2人乗りライトウェイトスポーツ「ミツオカ・ゼロワン」を発売、“国内10番目の自動車メーカー”として一躍有名になった光岡自動車(株)。「小さな工場には夢がある」というキャッチコピーの通り、ひたすら夢を追う姿勢に共感するファンが多い。 その“夢”のひとつが、2001年から開発が始まり、市販型として発表された「オロチ・ヌードトップロードスター」だ。蛇をモチーフにした独特のフォルムは、100人中100人に受け入れられるものではないかもしれないが、少なくとも、深く車を愛する者の胸には深々と刺さる。 光岡自動車【TEL】0120-65-0022【HP】http://www.mitsuoka-motor.com SALEEN S7 TWIN TURBO さまざまなカテゴリーのレースでドライバーとして活躍したスティーブ・サリーンが、マスタングを素材として開発した“サリーン/マスタング”を発表したのは1984年のこと。以来、レトロフィーチャーなS281(写真左)により、アメリカでもっともタフで堅実なカロツェリアの座を不動のものとしてきた。そのサリーンが今年発表したのが、“アメリカ市販車最速”を謳うこの「S7ツインターボ」(写真右)。時代に逆らってでも“最速”を求めるスティーブ・サリーンの熱い思いがつまった1台だ。 SALEEN日本総代理店・株式会社ブルーフレーム 【TEL】03-5493-2970 【HP】http://www.saleen.jp LEXUS LF-Sh / NISSAN GT-R PROTO 今年の目玉もきっちりと押さえておこう! トヨタの高級ブランド「レクサス」のワールドプレミア、ラグジュアリーなコンセプトモデル「LF-Sh」(写真左)と、日産のコンセプトカー「GT-R PROTO」(写真右)。この2台のプレスカンファレンスには国内外の報道陣がつめかけ、実車が見えない記者もいたほど。どちらも次世代の日本車の命運をかけたモデル。“サラブレッド”と呼ばれた高度な戦闘力を持つGT-Rの遺伝子がどのように引き継がれたのかを、そしてレクサスの次期フラッグシップモデルのフォルムを、その目で確かめてほしい。 HEART WARMING MOTOR SHOW No.1プレゼンテーション台でゴハン プレスプレビューの日のお昼時、ルノーのブース内に座り込んで食事する人々の姿が多数。こんなことはモーターショーの歴史の中でも初めてのこと。ルノーのF1勝利を記念してだろうか、シャンパンと重箱のおつまみが記者たちに配布されたのだ。これはルノーの人々が日本の畳文化に敬意を表してのことに違いない(だって床に置いて食べざるを得なかったし)。しかしさすがに外国人の中には、そんな文化になじめずプレゼンテーション台に重箱を置いて食べる人が…。 No.2学生有志が支える開発の裏側―慶応大学 Eliicaブースを陰で支えるのも慶応大学の学生たち。研究室の学生たちだけでなく、特別な場合には一般学生からも有志を募る。今回のモーターショーのコンパニオンもみな一般学生だ。 車を買いたいあなたに…… 即買い決定!?のモデルたち モーターショーはコンセプトカー・試作車など、すぐには発売されない車ばかりクローズアップされる傾向があるが、もちろん即買いが期待できる車も多数展示されている。世界プレミアとなるフィアットとアレッシィのコラボレーション、パンダ アレッシィ(左上)もそのひとつ。アレッシィとフィアットそれぞれのデザインの良さが可愛らしくまとまっている(フィアットオートジャパン【TEL】0120-779-159【HP】http://www.fiato-auto.jp)。MITSUBISHIの「i」(アイ・左下)も期待できる参考出品車。軽自動車だがその走りには期待できそう(MITSUBISHI【TEL】0120-324-860)。また、SUZUKIの「LC」(右上)も超キュート。どっちが前か分からないレトロなデザイン・昭和の匂いのする内装などなど、女の子にぴったりの車だ。こちらも市販間近か (スズキ株式会社【TEL】0120-402-253)。 バイクでオススメはYAMAHAの電動スクーター「EC-02」(写真右下)。こちらは既に市販されており、価格も20万円前後とお手ごろだ。 二輪を巡るファッションとパッション 二輪車の出展も多数並ぶなか、今回出色だったのがヤマハのブースだ。大型スクーターに注力するヤマハだが、今年はファッションへの傾注が多く見られる。ブースの作りもさることながら、参考出品の「Gen-Ryu」や大型スクーターの試作車「MAXAM3000」など、デザイン性、ファッション性の高さを感じさせる次世代機が並ぶ。その一方で、「“バイクを操る”というバイク本来の楽しみを思い出してもらいたい」という思いから開発された試作車「DEINO NYCHUS(ディノニクス)」もある。こちらは、ライディングの楽しみを“味わう”ため、クルーザーポジション、コミュータースタイル、BMXスタイルなどに電動で可変するスペシャルモデルだ。 その一方、もっともトラディショナルなバイクメーカーのひとつ、トライアンフが今年発表したバイクにも注目。英国のファッションブランド、ポール・スミスとのコラボレーションによる、世界50台限定のスペシャルモデルを発表した。ポール・スミス特有のポップ感とトラディショナルなトライアンフのフォルムが見事に融合しているが、これは、バイクそれ自体の魅力・走りの魅力に、ファッションの魅力を持ちこもうという動きに他ならない。 つまり、この2メーカーが象徴的なのは、「ファッション性」と「バイク本来の魅力」という2つの方向性を同時に指向しているという点である。並び立たないともいわれてきた2つの方向性が今、互いに刺激し合って融合し、未来へと向かっている。 左上から時計回り YAMAHAGen-Ryu,TRIUMPH by Paul Smith,YAMAHA MAXAM3000,YAMAHA DEINONYCHUS モーターショーへ行こう! 39回目を迎えた東京モーターショー。世界各国の各メーカーが次世代へ向けた試作車=コンセプトカーを中心に、新製品、主力製品を展示する一大ショーだ。車だけでなく、車関連の製品・パーツ、バイクなども同様に展示される。今年のテーマは“Driving Tomorrow!”。世界各地でモーターショーが開催されており、通常開催期間は2週間程度だが、今年の東京モーターショーは、17日間という長期に渡って開催、注目度の高さがうかがえる。 【期間】〜11月6日(日)平日:10〜18時 土日祝:9時30分〜19時 【会場】幕張メッセ【料金】一般1200円、中学・高校生600円、小学生以下無料【HP】http://www.tokyo-motorshow.com/