
vol.232
インタビュー
『大停電の夜に』撮影監督
永田鉄男さん
「テーマ曲が『マイ・フーリッシュ・ハート』。これはいい!と思いましたね」
「六本木ヒルズ周辺はすごく変わりましたよね。でも、冬に灯されるイルミネーションはすごくきれい。できればあそこでも撮影したかったけど、ダメだったみたい(笑)」
公開中の映画『大停電の夜に』で撮影監督を努めた永田鉄男さんは、現在パリの郊外に居を構え、フランス映画界で活躍を続けている。その永田さんを日本に呼び寄せ、『大停電の夜に』は完成した。停電の東京を舞台に、わずかな灯りの中に浮かび上がる登場人物たちの心の陰影を、永田さんは魔法のような美しさでスクリーンに写し出した。永田さんは、フランスで権威あるセザール賞の最優秀撮影賞を受賞している名撮影監督。大切にしていることは、絵に余韻を含ませることだという。
「久しぶりに日本に来て思ったんですが、例えば部屋の中でも、日本では天井からの照明が全体に当たっていて明るいじゃないですか。これがヨーロッパだと、いまだにキャンドルをつけたり、間接照明だったりしてほの暗いんです。それは古典的なライティングだけど、僕はそういうことで絵に奥行きをつけるのに興味があるんですよ。普通のシステマティックなライティングでは、写るのはそこにあるディテールだけ。それだと空間としての広がりがないですよね。僕はやはり自分の絵に余韻を作りたいんです。見る人がそのシーンに入っていって、その人なりにいろんなことを感じられる絵を作りたいと思っているんですよ」
出身は長野県中野市。アルプスを望み、志賀高原が背後にひかえる場所だ。「子供のころは友達と自転車に乗って遊んだり、たまにリンゴを盗んだりしてました(笑)」。美しい自然の中で育ったことが、美しい絵作りを求める気持ちに何らかの影響を与えたと思うかと聞くと、「それはあるかもしれないですね」と永田さんは答えた。
「でも、今は変わっちゃったけどね。高速道路が通って、レストランとかコンビニとかラブホテルとかがたくさんできて、街そのものはさびれてしまった。残念ですよ」
今回の撮影にあたり、最初は申し出を受けるかどうか悩んだという。永田さんの心を動かしたのは、映画のメインテーマで使われたジャズのナンバー『マイ・フーリッシュ・ハート』だった。
「プロデューサーの荒木さんと源監督がパリまで僕に会いに来てくれて、いろいろ話す中、監督から“メインテーマは『マイ・フーリッシュ・ハート』を使うから”という話があって、ああ、それはよさそうな映画だなと(笑)。僕もあの曲が好きで、監督もジャズが好きだということで話が弾んで、じゃあ、やりましょうって(笑)」
メインテーマがつないだ縁。夢のコラボレーションが実現する時は、案外そんなきっかけかもしれない。作品の感想を聞くと、自分が撮った作品は、しばらくは冷静に見られないとのこと。「良かったところより、あそこはもっとこうすれば…という部分だけが目について…」。とはいっても、撮影中からとても好きだったシーンはある。「国東家で、電気が消えた後に行灯に火を入れてロウソクをつけて、宇津井(健)さんに向かって淡島(千景)さんが“実は子供がいるんです”と暗闇の中で話す場面。本当に美しいシーンだなと思いましたね」
今後しばらく日本に帰国の予定はない。あとは永田さんが写し出した美しい陰影の世界を、劇場でたっぷりと堪能することだ。

(取材・文/幸野敦子)
『大停電の夜に』
監督:源孝志 撮影:永田鉄男 出演:豊川悦司、原田知世、田口トモロヲ、吉川晃司、寺島しのぶ他 丸の内ピカデリー2ほか松竹・東急系にて公開中/配給:アスミック・エース
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