 |
|
「最近、インターネットで物件探しにはまっているんです。こういう仕事をしていると、来年家賃が払えるような暮らしをしているのか、まったく分からないのでいろんな夢が見られて楽しいんです(笑)」シビアなような、のんきなような…。
|
|

vol.264
INTERVIEW
なぜか気になってしようがない!
見るものを巨大スクリーンで取り囲み、日本の非日常を日常の光景に取り込んでゆく−
現代アートシーン
大注目の若手アーティスト
束芋(たばいも)
“芸術家”になろうという意識はまるでなかった
「実は、芸術家を目指したことは今までなかったんです。現代美術というジャンルすらよく知りませんでした(笑)。ただ、そのころから面白いと感じる作品はありましたね。それが、現代美術作品だということは、後から分かったんですけど」
日本のアートシーンで、近年大きな注目を集めている若手女性作家がいる。その名は束芋(たばいも)。レトロなジャパニーズテイストが漂うアニメーションをユニークな方法でスクリーンに映し出す彼女のインスタレーション作品は、発表されるや現代美術界の注目を集めた。その作品『にっぽんの台所』は〈キリン コンテンポラリー・アワード1999 最優秀作品賞〉を受賞。同作は束芋の大学卒業制作で作られた作品だった。
「大学ではデザイン科にいて、デザイナー企業に就職するのが希望でした。それで、なにか賞を取っていると就職に有利なのではと思い、アワードに出品してみたんですよ(笑)。それが現代美術としての評価を得るとは、まったく思っていませんでした」
同アワードでの受賞により個展の開催が決まり、その個展が話題を呼び横浜トリエンナーレへの参加が決定。そこで国内外の評価により海外への出展も増えていった。
「そうやって一歩一歩ステップを踏んで来たわけですが、実はその間もずっと、就職しようという気持ちがあって…。もちろん、そのつど全力で頑張ってきたことは間違いないんですけど、それでも芸術の分野でやっていこうというような目標を立てたわけではなかったんです。美術ってちょっと難しいな、なんて思っていたくらいですから(笑)。だから不思議なんですよ、私が今、ここにこうしていることが(笑)」
そんな彼女が現代美術の作り手としての自分を意識するようになるのは、2003年五島記念文化賞の新人賞を受賞し、その研修としてデザインを勉強するために渡英したときのこと。
「ところが、ロンドンであるデザイナーのもとに通い始めて3カ月間で、デザイナーになるのは無理だと確信したんです。私が尊敬するデザイナーさんは、何があっても自分のポリシーを貫き通す人で、デザイナーになるならこうならなければ、と思った。でも、それが自分には不可能だということも分かりました。そこで今自分が与えられているチャンスに真摯に取り組んでいくことで、いつかはその人と同等に話ができる作家になれるのでは、と考えたんです」
束芋の表現する“にっぽん”
束芋が在学中に与えられた課題が“にっぽん”を描くきっかけだった。
「“ジャパン”というテーマを与えられたとき、思い浮かんだのは社会問題が絡むものばかりだった。社会のことを日ごろから考えていたわけでもないので、自分でも意外でしたね(笑)。日本でも海外でも、ダークな表現に批判精神が見える、というのはよく言われるんですけど…私がキレイなものやかわいいものをそのまま描いたところで、なにも面白くないんですよ(笑)。あのダークなテイストも、なるべくしてああなったわけなんです」
全体に漂うダークさのためか、普遍さと違和感とが混在するためか、束芋の作品世界は、見るものに強烈なインパクトを残す。それはやはり作家としての“狙い”なのだろうか?
「確かに、昔から策略には長けているところはありますね(笑)。でも、ただインパクトだけを求めていても、作品制作は難しい。そのインパクトに裏づけされたものがないと、作品が空っぽになってしまうんですよ」
そんな、強烈な作品世界に観客を引きずり込むのが束芋式インスタレーションだ。あるときは巨大スクリーンで三方を囲み、あるときは観客に障子を開けさせて上映空間に招き入れる。
「観客をわざと苦痛な空間に閉じ込める、ということをいつも考えているんです(笑)。ああいう映像を5分の間、じっと見ているなんて苦痛じゃないですか。視覚的に気味が悪かったり、気を張ってないとどこで何が起こっているか分からなかったりするし(笑)。そこで何かを得ようとしないと、5分もの間同じ場所になんていられない。一生懸命さとか、積極性を持って接することで、作品との関わりあい方も違ってくる。だから、作品をただ目の前に出してあげるのではなく、もっと遠いところにボールを投げている、という訳です(笑)。そうすることで私と観客が同じように向き合うことができる気がするんですよね。他の美術作品にしても、分からないと決めつけるのではなく、積極的に関わろうとしてみれば、前とは違ったものが見えてくるはずだと思っています」
現在、原美術館で開催中の個展名『ヨロヨロン』とは“世論”とヨロヨロと揺れる、束芋本人も含めた現代人の生きる姿をかけたもの。揺れる束芋の歩みは、さらに強烈な個性と存在感を残しているように思った。

(本紙・秋吉布由子)
『ヨロヨロン』束芋
開催中〜8月27日(日) 原美術館
【時間】11〜17時(水曜のみ20時まで/入館は閉館の30分前まで)
【料金】一般1000円、大高生700円、小中生500円
【休】月曜日(7/17は開館)、7/18
【問い合わせ】03-3445-0651
【交通】JR品川駅より徒歩15分
【URL】http://www.haramuseum.or.jp
|