
vol.264
現役ラストプレーは「頭突き」…ジダン、一発退場で現役生活に幕
誰がこんな結末を予想しただろうか。
フランスが誇る“マエストロ”ジダンは、ドイツW杯決勝のドイツ戦で17年にわたる現役生活に別れを告げた。
終幕は唐突だった。延長後半5分、イタリアDFマテラッツィに背後から何か言葉を浴びせられたジダンは突然、険しい表情で振り返ると、屈強なDFの胸元に鋭い頭突きを見舞った。エリソンド主審は気付かず、イタリアGKブッフォンのアピールで審判団が協議。ほどなく「一発退場」を意味する赤いカードが掲げられた。
「永遠の悔恨」「破られた夢」。10日付の仏紙は築かれつつあった「神話」を、神話の主人公が台無しにした結末を失望と悲嘆をこめて報じた。ここ数週間、フランスはジダンとともに2度目の優勝という夢を描いてきた。合言葉は「生きるも死ぬも一緒」。決勝戦の勝敗にかかわらず、ジダンは理想的な引退の舞台で華麗に舞い、「神話の人となる」と誰もが信じて疑わなかった。
技巧と優美なプレーで称えられてきた芸術家はしかし、12枚目となるレッドカードでピッチから姿を消した。寡黙で静けさを愛する34歳の男に潜む、ときに暴発する激情は最後の舞台でも顔を出した。
34歳のチュラムと33歳のマケレレは、放心したように歓喜のイタリアを見つめていた。そこに苦楽を共にしてきた34歳のジダンはいなかった。3人とも一度は代表引退を表明しながら欧州予選の苦境をみかねて復帰した。3人が中央に並んでチームはまとまり、98年フランスW杯で味わった「最高の瞬間」(ジダン)に、あと一歩で手が届くところまで来ていた。
スイスと0−0に終わった初戦当時は「(1点も奪えず敗退した)02年のトラウマが残っていた」(チュラム)。そこから団結したのは、累積警告でジダンを欠いた1次リーグ最終戦のトーゴ戦だった。DFガラスは「互いに疑問を投げかけ話し合った」。ジダンが復帰すると一気に調子を上げ、優勝候補筆頭のブラジルまで破った。
この日も押していたのはフランスだった。しかし最後の最後に盟友が消えた。そのワンシーンは、フランス栄光の時代が幕を下ろす象徴的な瞬間でもあった。