 |
|
来日したウィル・ヒメノ。WTC倒壊時に負った怪我のため警官職は辞したものの「今でも警官の心を忘れてはいない」。
|
|

vol.272
5 YEARS AFTER“11th SEPTEMBER”
あの日、悪い夢のような、現実とは思えない映像を目にした時、世界が等しく“テロ”の現場になった。それから5年経った今、世界は依然“テロ”の現場なのかどうか。5年後の今、改めて考える「9・11」。
よみがえるアメリカ、終わらない“11th September”
今年、荒れ果てたワールド・トレード・センタービル(以下WTC)の跡地にも、ようやく再開発の手が入った。ドイツの建築家、ダニエル・リベスキンド設計による「フリーダムタワー」の計画が2010年の完成を目指して始まったのだ。また、ミュージアムを含む「ワールド・トレード・センターメモリアル」の建設も始まり、先月17日には設計者のマイケル・アラッドが出席した式典がWTC跡地で催された。5年という年月を経て、暗い思い出に包まれた“グラウンド・ゼロ”にもようやく活気が戻りつつある。
「癒されるために5年の年月が必要だった――」。先月10日、10月7日公開の映画『ワールド・トレード・センター』のプロモーションで来日したニューヨークの元警官、ウィル・ヒメノはそう語った。あの時、彼は炎上するWTCで人命救助に当たり、倒壊したビルから奇跡の生還を遂げた。映画では、彼とその上司、ジョン・マクローリンをモデルに悲劇を乗り越える勇気や希望を描くが、あの“テロ”の恐怖は、長く被害に遭った市民の心を蝕み続けた。しかし、こうした映画が作られたこと、またWTC跡地の再建が象徴的に物語るように、人々の心は5年を経て、ようやく癒され始めているのかもしれない。ウィル・ヒメノは言う。「ニュージャージー生まれの僕もWTCを見て育った。そのWTCがないことに、僕も、皆も病んでいたが、今は乗り越えた」と。
しかし、その一方でテロは起こり続け、今なお世界は混迷を極めている。今年7月にはドイツの列車内で爆弾入りカバンが発見され、先月10日にはロンドンでアメリカ行きの航空便を狙ったテロが事前に発覚、事なきを得た。世界中でテロへの警戒レベルは上がり、経済面への影響も深刻化している。先月31日には、ブッシュ米大統領がこの5年に渡る“テロとの戦い”を「21世紀最初の戦争」と位置づける演説を行った。この戦いは、イスラム過激派を相手に自由と民主主義を守る「イデオロギー闘争」である、と。
“11th September”は終わらない。激動やまぬ5年後の今、「9・11」の意味が何だったのか、そしてこの先世界はどうなろうとしているのか。国籍の異なる識者3人に話を聞いた。
終わらない“テロ”とその後の世界
 |
|
1938年カリフォルニア生まれ。フリージャーナリスト。『スーパーニュース』(フジテレビ)に出演するほか、執筆活動多数。本紙にてコラム連載中。
|
|
“文明の衝突”が始まり、世界が戦場になった
―木村太郎(日本)
本紙でコラム『ニュースの真髄』を連載中の木村太郎氏に「5年後の9・11」について聞いた。
―5年後の今、結果的に見ると「9・11」とは何だったのでしょうか。
「これによって新しい“戦争”が始まった。もっと言えばサミュエル・ハンチントンの言う『文明の衝突』が現実になったと言えるだろう」
アメリカの政治学者サミュエル・ハンチントンの『文明の衝突』は1996年に執筆されたもので(邦訳は1998年)、その思想は後に世界各地で噴出する民族問題や紛争の際には盛んに援用された。それは、冷戦が終わった現代社会においては、対立の軸は国家と国家ではなく文明と文明の間に起きるというもの。
―では、この5年で世界がどのように変わったとお考えですか?
「世界中が“戦場”になった。そしてまた、テロの根絶のために戦い続けることが必要になるだろう」
―「9・11」が起きたことに明確な理由があったとして、それは何だったのか、またそれは解消されていると思われますか?
「オサマ・ビンラディンは『イスラム民族の“第二市民化”が許せない』から報復するとしている。原因の解消はイスラム民族自身の問題だ」
―日本が取ってきた対中東姿勢、また今後取りうる姿勢については。
「『文明の衝突』では『中立』の立場はありえない。イスラムの立場を取らないのであれば『西欧』側に与するのは当然だ。テロは理屈ではない。身に降りかかる火の粉は払い続けなければならないのだ」
|
|
 |
|
1951年イギリス生まれ。ブロードキャスター、DJ。InterFM『Barakan Beat』、TBS『CBSドキュメント』など。『TOKYO HEADLINE School Edition』にてコラム連載中。
|
|
“テロ”が何かを理解しなければ対応もできない
―ピーター・バラカン(英)
「僕があのニュースを知ったのは翌朝のこと。びっくりして口がふさがらなかった一方で、“やっぱり来たか”と思ったのを覚えています。アメリカはベトナムの後もいつも戦争している国でしたから。エルサルバドルやニカラグアなどの中南米へは直接的に介入し、イラン・コントラ事件に見られるように中近東へも介入していました。つまり、そのように利己的に他国に介入し続けるアメリカへ反発が起きたのだと思いました。
9・11の後のアメリカの対応にも問題があったと思います。中途半端にアフガニスタンに攻め入り、その矛先をイラクに転じた。イラクとテロはまったく関係がないにも関わらずです。テロの後のアメリカでは、非常に右寄りな『フォックス・ニューズ』のようなマスコミが影響力を持ち、大半のアメリカ国民は政府が偏っていることにも気付かず“対テロ戦争”に勝たなきゃいけないと真剣に思っていたんです。
しかし、そもそも“テロ”とはなんでしょうか。マスコミがあまりにも無責任にテロ、テロリストという言葉を使うので、僕はできるだけこの言葉を使わないようにしていますが、定義するとしたら『無関係の一般市民を巻き込む暴力行為』だと僕は思います。だとしたら、例えばレバノンのヒズボラがやったことと、イスラエル軍がやったことにどんな違いがあるのでしょうか。それでどちらか一方をテロリストと呼び、もう一方に正当性があるとするのはどうなんでしょう。それはアメリカも同じことではないでしょうか。9・11の後、ある人が『圧倒的な軍事力に真っ向から戦ってもまったく通じない立場の人がやむを得ず使う手法がテロと呼ばれるもの』と言いましたが、これはなるほど、と思いました。対等に戦えたら“戦争”です。でも、何十分の一かの力しかない人たちには、“テロ”と呼ぶ手段しかないわけです。もちろん、テロを正当化するつもりはまったくありません。ただ、少なくとも理解しないことには対応することもできませんし、理解するには、この世界で起きていることの大半が軍事力も政治力もバランスが全然取れていない、ということに起因していることを理解しないといけないと思うんです」
|
|
 |
|
1954年アメリカ生まれ。テレビプロデューサー、放送作家、タレント。『とくダネ!』(フジテレビ)、『やじうまプラス』(テレビ朝日)、『サンデージャポン』(TBS)、『ザ・ワイド』(日本テレビ)などレギュラー番組多数。また、公開中の映画『日本以外全部沈没』には実名で出演している(写真は同作の舞台挨拶時のもの)。
|
|
テロリストは“目立ちたがり”
―デーブ・スペクター(米)
「この5年で変わったこと? まずアメリカの国内安全神話が崩れたということ。それとアメリカが孤立・隔絶したという印象が強くなりましたね。アフガニスタン(攻撃)までは多国籍軍の協力が得られましたけど、その後必要もなくイラクに行っちゃったので無駄に敵を増やしちゃったんですよ、世論とか他の国とかね。あれは完全にブッシュの誤算です。でも、イラクでも良い面ももちろんありますよ。学校ができたり、新聞も言論の自由を手にしたり。今は分からないけど民主化が進めば将来的には中東をひっぱる立場になっている可能性もなくはない。けど、少しちょっかい出し過ぎでしたよね。
9・11が起きた理由ですか。それはひとつもないです。暗黒時代に生きる狂信者たちが自分の運動のためにやってるだけですから、冷静に見れば正当化できるものは1つもない。オウムのサリン事件と同じでまったくのナンセンスです。彼らはただ自分たちの運動を広めるために目立ちたいだけで、言ってしまえば彼らは大きいターゲットがあればよかっただけで、アメリカを狙ったとすら言えないですよ。
今年は9・11の映画がありますけど、僕なら何であんなひどいことができるのかを調べるドキュメンタリーか、狂信的な人たちを啓蒙するドキュメンタリーを作ったほうがいいと思いますね。WTCにもムスリム(イスラム教徒)いたでしょう? でも彼らは飛行機で突っ込んだ。それは彼らがカルトだからですよ。赤ちゃんがいようが、幸せなカップルがいようがテロリストには関係がない。感情移入もできない人間なんですから。たまたまそういうカルトに入ってしまった人たちなわけですから、そういう人たちを啓発するものがいいですね」
|
|
日本のメディア、海外のメディア
同時多発テロから今に至るまで、日本のメディア、報道に問題はなかったのか。右の3氏から日本のメディアについても聞いた。
木村氏は「日本の報道に偏りや誤りはなかった」としており、それについては、日本で放送にも深く関わるデーブ氏も同様の意見。「フェアで誤りはなかったし、第一報も非常に速かった」と前置きしつつも、しかし「全体像や出来事の報告としてはいいんだけど、奥深い検証記事がない。英字新聞の中には100ページを超えるものもあって、非常に突っ込んだ分析記事、検証記事もあるのにそれを訳したニュースがない。翻訳スタッフが足りないのでは」ときつい一言。「なので、テレビ出演するときはできるだけそういうニュースも伝えるようにした」というのはデーブ氏らしい。また、バラカン氏は「真実を見出すのは難しいが、偏りをなくすために少なくとも異なった意見を持つ新聞を複数読むべき」と指摘。また「今はネットで質の高いドキュメンタリーを見ることもできる。ただ、英語なので日本人には大変かも」とWEBのメリットと言語の問題を挙げた。デーブ氏、バラカン氏とも英語という言葉の壁が日本の報道の限界であることを指摘した形となったのは興味深い。
|
“11th SEPTEMBER”を知るための“CULTURE”
〜人はいかにして「9・11」を捉えたのか〜
DVD
9・11の同時多発テロ後にリリースされたDVDの中で、最も話題を集めたのはマイケル・ムーア監督の『華氏911』で間違いないだろう。
ムーア監督は9・11を「ブッシュ大統領批判の題材」として扱っているに過ぎないものの、音声のみで世界貿易センタービル崩落を表現したシーンからは、ムーア監督自身が受けた衝撃の大きさも感じ取ることができる。
映画界が9・11をいかに受け止めたかがうかがえるのは『セプテンバー11』。これは世界的に名をはせた11人の監督が9・11の記憶を風化させないためにアクションを起こしたもので、ショーン・ペンやクロード・ルルーシュ、さらに今村昌平といった世界の映画人が参加。それぞれ「11分9秒1フレーム」で事件をヒントにした短編を撮り、これをオムニバスにした作品である。
丹念に「グラウンド・ゼロで起こったこと」を追ったドキュメンタリーを見たいのであれば『9.11〜N.Y.同時多発テロ衝撃の真実〜』をおすすめしたい。9月11日、偶然NY市消防署のドキュメンタリーを撮影中だったフランスの映画製作者であるノーデ兄弟は未曾有の大惨事に遭遇。消防署員とともにグラウンド・ゼロへ向かい、目を覆う光景をカメラに収めている。
『華氏911 コレクターズ・エディション』
販売元:ジェネオン エンタテインメント 発売中 3990円(税込)
|
『セプテンバー11 DTS版』
販売元:東北新社 10月27日(金)発売 2625円(税込)
|
『9.11〜N.Y.同時多発テロ衝撃の真実〜』
発売元:パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン 発売中 2625円(税込)
|
CINEMA
世界中の人に大きな衝撃と、そして平和への問いかけをもたらしたあの悲劇から5年。ハリウッドはどんな答えをスクリーンに描いたのか。まず注目したいのは9.11を直接的に描いた2本。ポール・グリーングラス監督の『ユナイテッド93』とオリバー・ストーン監督の『ワールド・トレード・センター』だ。前者はハイジャックされた航空機のうち唯一目標に到達しなかったユナイテッド93便に起こった出来事をドキュメンタリータッチで描いた。後者はニコラス・ケイジを実在した消防士役にキャスティングした感動大作。極力エモーショナルなテイストを排除した前者と、大作ドラマの後者。テイストは正反対だが、どちらも事実の重みを伝える作品となった。
9.11から1年後のアフガンに渡り、そこで撮影した実際の銃撃戦やインタビュー映像を使ったフィクションが『セプテンバー・テープ』。現地での映像を使いながら物語を語っていくというユニークな手法をとった本作は、政府の公式発表や一般的な報道を鵜呑みにすることの危うさを、観客に気づかせるだろう。ちなみに監督が撮った映像の一部はアメリカ国防総省に押収されたままだとか。
映画に込められた真実に触れて、改めて9.11を考えてみては。
BOOK
テレビではなかなかできないアメリカ批判をするのが書籍のいいところ。そんなわけで、9・11以降、もっとも重要で強力な「米批判者」であり続けるノーム・チョムスキーの本をまず1冊。いち早くアメリカ批判の立場を明らかにした彼のバックボーンが分かる1冊『9・11 アメリカに報復する資格はない!』は必読。また、事件の後のアメリカ市民を3年に渡って“定点観測”し続けた冷泉彰彦の『911 セプテンバーイレブンス』もまた秀作だ。事件そのものというよりもその後のアメリカがよく分かる。
5年目のせいか今年は9・11関係の出版も相次ぐが、7月に出たベンジャミン・フルフォードの『9.11テロ捏造 日本と世界を騙し続ける独裁国家アメリカ』は白眉の1冊だ。眉にツバして読むところも多々あるが、信憑性の高い部分ももちろんあり、全体としてスリリングな仕上がりとなっている。
『9・11 アメリカに報復する資格はない!』
ノーム・チョムスキー 著 山崎淳 訳 文春文庫・590円
|
『911 セプテンバーイレブンス』
冷泉彰彦 著 小学館文庫・650円
|
『9.11テロ捏造 日本と世界を騙し続ける独裁国家アメリカ』
ベンジャミン・フルフォード 著 徳間書店・1680円
|