
vol.283
競泳人生に疑問…イアン・ソープが電撃引退
シドニー、アテネ両五輪で計5個の金メダルを獲得した競泳男子のイアン・ソープ(24)が21日、シドニーで会見し、「『水泳がなければ、私の人生は何なのか』という疑問がわいた。他のことを試さなければならないと思った」と語り、現役引退を表明した。
24歳のスーパースターが決断した「引退劇」。電撃的な発表も、実は4年前の“選択”が早すぎる引退の元凶ともいえる。02年秋、ソープは9歳から師事してきたダグ・フロスト氏の元を離れた。新コーチに選んだのは母校の美術教師、トレーシー・メンジーズ氏。
「水泳は安心感を与えてくれる存在だったが、僕の人生はバランスを欠いていた。水泳を二の次にして他のことを優先させなければと思った」。引退会見でこう語ったソープが水泳一色の生活に疑問を持ち始めたのは01年9月11日、ニューヨークで米中枢同時テロに遭遇してから。コーチの変更もその一端とされていた。
ソープといえば全身を覆うスイムスーツだが、実はその下に隠された肉体は筋骨隆々という言葉にはほど遠いと日本の競泳関係者は明かす。脂肪質の体は、フロスト氏が課した猛練習で闘う状態に保たれていた。近年は「新たな挑戦」と称して100メートルに重点を置き出したものの、「長距離になるほど練習はハードになる。本人の気持ちが100メートルに逃げていった」と専門家は分析する。
04年アテネ五輪で“貯金”は底をついた。02年以降、世界新記録は出なかった。精神の疲労は極限に達していた。難病と戦う子供たちを支援する基金を設立、男性用下着のデザインにも手を出してみた。だが、ソープが過酷な練習に再び挑む気力は最後まで戻らなかった。