
vol.306
INTERVIEW
『赤い文化住宅の初子』
監督 タナダユキ
近年、若手の女性映画監督の活躍が華々しい。そのなかでも、性別・世代を超えて注目されているのがタナダユキ監督だ。可憐な容貌からは思いつかないかもしれないが、伝説のフォークシンガー・故 高田渡のドキュメンタリーを手がけたといえば団塊世代もピンとくるだろうし、女性パワーが結集した『さくらん』の脚本家といえば若い世代も感激するだろう、その人である。
「実は、この映画が好きで…とか、この監督に憧れて…とか、そういうことがまったくなかったんですよね(笑)。『スピード』を見に行くと映画館に3人くらいしかいない、みたいなところで育ちましたし(笑)。もともと、舞台のほうに興味があったんです。それが、20歳のころにテレビで青っぽいきれいな映像を見て、“こういうのってどうやって撮るんだろう”と思い、映像の勉強がしたくなったんです。なんの映像だったのか、さっぱり覚えてないんですが(笑)。そんな理由で、映像の学校へ行くことにしたんですが、けっこう映像系って費用がかかるんですよね。それで一番安かった学校に入ったんですよ…そこが実験映像系の学校だということも知らずに(笑)」
撮りたいのはフィクションだった。しかしタナダユキはあせらない。なにしろ初監督作品の製作は卒業して数年後だ。
「その間は普通にアルバイトをしてました(笑)。今やめても誰も困らないよな、と思いながら…。そんなとき、たまたま『トト・ザ・ヒーロー』という映画を見て、映画作りをやめるということを今決めなくてもいいのかな、と」
それで作品にとりかかった、と。
「いえ、それから2年経って…。撮りたくなったら撮ればいいかな、と(笑)」
そうして生まれた初監督作品『モル』で、タナダは「ぴあ」のフィルムフェスティバルでグランプリを含む2冠を獲得する。
「いまだにデジタル撮影が苦手で、技術的なこともさっぱりだったんですけど……そんな技術的な酷さが珍しくて目を引いたのかなと、いまだに自分では思ってますけど(笑)。実はあのとき締め切り日を間違えてたんですよね。ある日『ぴあ』を見たら締め切りが2カ月後だということに気づいて、大急ぎで作ったんです」
…もしや普段の生活もアナログ派?
「パソコンは苦手です。必要最低限しか機能を使ってないです。最近ようやく、ネットで買い物ができるようになりました(笑)」
アナログな魂が惹かれ合ったのか(?)、タナダユキは伝説のフォークシンガー・高田渡のドキュメンタリーを手がけることに。
「自分がドキュメンタリーを撮るとはまったく思ってなかった。実は、最初に話を頂いたときに、高田さんが存命かどうかも知らなくて…(笑)。その後、資料を見せてもらい、これはぜひやってみたい、と。でも、ドキュメンタリーはもう撮らないと思います(笑)。私は、自分があれ以上のドキュメンタリーは作れないと思うんですよ。高田さんという逸材に、もう出会ってしまいましたから。だって、朝8時に集合してお酒臭いなんて、そんなおもしろい人には滅多に出会えませんよ(笑)」
そして新作『赤い文化住宅の初子』では“赤毛のアンが嫌いな薄幸の15歳”を主人公にしたドラマを描く。原作は松田洋子の同名コミックだ。
「15歳の女の子がカネ、カネ、シネ…とつぶやく。それにまず驚きました(笑)。しかも“赤毛のアン”を否定するヒロインというものに初めて出会った。もちろん、こんなにうまくいくはずはないという部分はあるかもしれないけど、アンの姿に自分を投影させるのが普通。それすら否定する主人公に魅力を感じたんです」
主人公・初子を演じた東亜優(ひがし あゆ)は本作が長編初主演作。しかし…
「タフというか頼りがいのある役者さんですよ。当初は、私もこれほど若い役者さんとしっかり仕事するのは初めてで、大丈夫かなと思うところもあったんですが、実は一番頼りがいのある役者さんだったという気がします(笑)。彼女に関しては、1度もNGを出してないんです。先日、ある雑誌のインタビューで“腹が立ったときにはどうしますか”という質問に“使用済みの鉛筆を折ります”と答えていましたが、非常に私の好きなタイプのヒトでもあります(笑)。実は、最初彼女に会ったときには、初子にしては容貌が可愛らしすぎるな、と感じていました。それが、台本を読んでもらった瞬間“初子がいる”と思った。思わずプロデューサーと目を合わせましたよ」
撮りたいものしか撮らないと聞く。
「映画にしたいものしか撮りたくないというより、映画監督って本当に撮りたいものしか撮っちゃいけないでしょう、って思うんですよ。大勢のスタッフがその映画を作りたいと思って参加してくれるのに、自分がその物語にまったく感情移入せず技術だけで撮るなんて、嘘をついていることになる。それはいろんな人に対して失礼だと思うんです。…それに、そもそもそういう嘘が得意ではないので、もしやったら相当苦しいことになるでしょうね(笑)」
タナダユキの不思議な吸引力を感じたら、タナダが愛した15歳の薄幸少女に会いに、映画館に行ってみてはいかが。

(本紙・秋吉布由子)
| 「毎作、自分に課題を課しているんです。本作では“引き(遠景)”のシーンを撮れるようになることでした」。ちなみに、監督自身の最近の“課題”は? 「まつげは上げていく(笑)! 朝現場が早いので、最悪眉毛はなくても許されるかなと思うんですけど…気をつけないとどんどんオジサン化していくので(笑)」。やっぱり、女性監督ってステキ
|