
vol.308
INTERVIEW
世界が注目する北野武監督、最新作は、北野流“映画と、映画を愛する人へのラブレター”!!
『監督・ばんざい! 』監督
北野武
本年度のカンヌ国際映画祭で“世界の映画監督35人”にも選ばれ、改めて“世界のキタノ”の存在感を示した、監督・北野武。そんな北野監督が映画に愛を捧げた最新作を語る!
「最初はタイトルがね、『Opus19/31』だったの。でもさ、映画が完成したときスタッフから“監督、頼むからタイトルを変えてください”って言われちゃって。観客が(フェデリコ)フェリーニを連想して、まじめな映画だと思って見に来られたら大変なことになるって。確かに、白いポスターにそんなタイトルが赤く入っていて、この映画だったら見に来たやつ間違いなく怒るもんな(笑)」
本年度のカンヌ国際映画祭では“世界の映画監督35人”に選ばれた北野武監督。日本が、そして世界が注目していることを知りながら、監督は記者を爆笑させながら毒舌を続ける。
「この“ばんざい”は“バンザイ突撃”みたいなもんでね“グローリー(栄光)”のばんざいじゃないんだよ。お手上げ、みたいになって、ばんざいって言っちゃったみたいな、ね」
ちなみに、先日監督はカンヌでちょんまげを被って登場したが、今なお海外では、キタノ=寡黙な巨匠監督のイメージが根強かったりもする。
「『風雲! たけし城』で薄まったはずなんだけどな。あれ、やたら人気があるんだけど、どうも違う人だと思われているらしいよ。同じだって言ってもあまり信用しないらしい。今じゃ俺が映画監督で、隣にいたやつが県知事だもんな。そんな2人が裸になって暴れてりゃ、それは信用しないよな。大笑いだよ」
そんな監督が“好きな映画を作った”と語る最新作『監督・ばんざい!』。忍者もホラーも出てくるって…一体?
「邦画が海外映画の動員数を上回ったという話にみんな喜んでいるけど、それに引き換え“俺”の映画はなんで人が入らないんだ、ということから始まるんだけど、俺だって売れる映画が撮れるということを見せ付けてやる、同じようなストーリーなら俺のほうが上手に撮れるということを見せようとして、結果的に次々とダメになってヤケクソになって終わってしまうという映画なんだ(笑)」
まず“監督”は古きよき30年代・小津風映画を取り始める。スクリーンがモノクロになった瞬間、あまりの“らしさ”に笑いがこみ上げるほどだ。ところが…。
「やっぱりダメだったというオチがついて(笑)。30年代よりも当たる映画を撮らなきゃいけない、当たる映画って何だ、ということになるんだけど、ファンがいる暴力映画はもうやらないと宣言しちゃった。で、今ふうの恋愛映画とか忍者映画とかを撮るんだけど、結局江守(徹)さんのツッコミがナレーションで入って全滅してしまう。ストーリー的にはムチャクチャだよなあ(笑)」
劇中作がそれぞれ見ごたえたっぷりの出来で、それがまた笑いを誘う。
「(劇中作の)何本かはツッコミを入れるためじゃなくて(笑)、意外とまじめに撮っているんだよ。まじめに撮って自分で編集して、自分で思いついた悪口を江守さんに言ってもらう。頭から突っ込みが入る予定で撮ったわけじゃないんだよな。ただ、一番ダメなのが恐怖映画なんだけど、アレは最初からツッコミが入っていたんだ(笑)」
SFに恋愛物…主人公は次々と作品を手がけては失敗。
「今考えれば『俺は、君のためにこそ死ににいく』みたいなのがあってもよかったな。戦場に行っても“やっぱやめた”とか言って帰って来ちゃうの」
もはや定型ジャンルでは収まりきらない。頭をひねる批評家たちの姿が目に浮かぶ。
「この間、外国人のファンクラブみたいな集まりに行ってきたんだけどね。その人たちは『Dolls』とか『ソナチネ』が好きで、コレを見て肩を落として帰っていったよ。しばらく俺と口をきかなかったね。クレイジーって言われた(笑)」
前作『TAKESHIS'』で、前衛的すぎる、という声が上がったのが思い出される。
「ヘンな言い方をすると『TAKESHIS'』のときはもう死んでるに近い状態でね。体調も悪くて、頭も混乱してた。でもだんだん元気になってきて。くたばったヤツが生き返ってきたときのきっかけの作品なんだよ。死を振り払って生きようとした映画なんだ」
確かに、本作を語る北野監督は何だか楽しげだ(そのほとんどが毒舌だが)。
「祭り上げられた自分のイメージを壊さないと、次の映画ができないんだ。何をやらかすんだ、コイツって(笑)。確信犯的にやっているんだよ」
あふれる笑い、笑えるほど巧みな技巧、技巧にとらわれない破天荒さ。本作で、北野武は“何だか分からないけどスゴイこと”をやらかしたのは間違いない。
「現場ではね、ウケるかどうかカメラマンや照明さんの顔ばかり見てた。そしたら江守さんの場面でカメラマンが揺れちゃってね。“スミマセン、おかしくて手が揺れちゃってダメです”って。うまいこといったと思ったね(笑)」
かつてない怪演を見せる豪華キャストたち。芸人の井手らっきょはもちろん、大御所・江守徹に、ここまで爆笑させられるとは。
「今回、想像以上にみんなが個性的だったから。俺、江守さんのテンションがあんなに高くなるとは思わなかったな。江守さんがやるって言ったから、あんな台本を書いたんだけど、あれほどうまくやるとは思わなかった(笑)」
今回の現場でも監督は本当に楽しそうだったと聞く。
「面白いものを面白がって撮れれば幸せだよな。以前の作品はファンの予想を裏切らないように…という部分があった。でも今回は、素直に自分の好きなものを撮ったという感じ」
『監督・ばんざい!』は、監督から映画へのラブレターであり、これまでの感謝状のようでもある。
「自分のキャリアらしきものは、これで全部払拭したという感じがあって。暴力映画とか、これまでのキャリアを全部吹っ飛ばして、新しい次元の映画を作るという宣言みたいな映画だからね。古いキャンバスを白いペンキで塗りなおしたみたいな。だから次は本当に新しい作品を作る。今までにないような映画を撮るよ。この映画の中のオムニバスで撮ったような作品は、もうこれで絶対撮らないけどね」
おっと、これは本作の主人公を思わせる衝撃宣言か。
「それ以外に何か(新しいジャンルが)あるのかなと思いながらコレを撮ったら、“意外にまだ何かある”って思ってね。ヒット確実というような状況のもとに作られた映画ではなくて、まぐれ当たりするような映画を撮れる自信ができた。だからこの作品を作れたことは、実はかなりうれしいんだ」
うれしい、と素直に表現する北野武(ちょっと照れてる?)。もしかしたら本作は、我々が北野武とビートたけし、同時に共感を持てる初めての作品かもしれない。監督も観客も、“面白い映画”が好きなのだから。

(本紙・秋吉布由子)