
vol.313
INTERVIEW
『石の微笑』
Benoit Magimel
ハリウッドの俳優に比べ地味な印象がぬぐえないフランス人俳優の中で、甘いマスクのイケメン俳優として日本でもファンの多いブノワ・マジメル。2000年の『ピアニスト』では、カンヌ国際映画祭主演男優賞を史上最年少で受賞。2003年には『クリムゾン・リバー2』でジャン・レノとも共演した。そのブノワの日本公開最新作が『石の微笑』。フランス映画の王道ともいえる「愛の深淵」を描いた作品だ。
深く複雑な愛を描いた作品なのに…
ブノワ・マジメルとなぜか初キスの話!
「実は日本には何度も来てるんだ。でも、いつも仕事ばかりだから、いつかひとりで来て、高層ビルだけじゃない他の部分も見たいね。役者としてでなく、ひとりの人間として日本の内面的なところにふれたいと思うよ。ところで、タバコを吸っていい?」
そう言いながら、ブノワは紙巻きタバコを作り始めた。「巻きタバコを吸うようになったのは『年下のひと』の撮影以来なんだ。タバコを吸うシーンがあったんだけど、そのとき医者に、巻きタバコがタバコの中では一番害が少ないと言われたんだよ。まあ、害は害なんだけど(笑)」
くるくるっと紙を巻く動作も、話しながらちらりと浮かべる笑みも、すべてがサマになる。女性ファンが多いのもうなずける。ブノワは今回、愛した女性に翻弄される男の役を演じた。それも半端じゃない“翻弄”なのだが。
「実はシャブロル監督からシナリオをもらったときは、こんな深い映画になるとは思わなかったんだ。出演を決めたのも、シナリオというより、もう一度一緒に仕事をしたいと思ったからだからね。撮影が始まって驚いたのは、シナリオを読んだ時点では感じなかった緊張感が伝わって、そこで初めて、こういう映画だったというのがわかったこと。シナリオには書かれていない行間が、彼の演出によって引き出される。素晴らしい監督だよ」
映画の中では日常的な狂気がとてもよく描かれている、とブノワは言う。愛の映画ではあるが、監督は美しさだけでなく、むしろ怖さを同時に見せる。この作品に登場するのは、ある女性を愛したことで、愛と狂気の間で立ち尽くす男と、一線を越えていく女。しかし男は女を愛することを止められない。それについては「素晴らしいことだ」と、ブノワはあるインタビューで答えていた。
「僕が演じたフィリップというのはとても勇気があってロマンチックな男性だと思う。彼は愛した女性の狂気が分かっても、共犯関係のような立場をとり、最後まで彼女を愛する。僕自身には彼の気持ちはちょっと分からないけど、素晴らしいことだとは思うよ。どんなことがあってもひたすら愛することができる男性は、今ではとっても珍しいと思うからね」
珍しい?
「そうだね。若い人たちを見ると、愛のためにどんな犠牲を払ってもいいという人は少なくなっていると思う。何かちょっとした障害があると、今のカップルはすぐ別れてしまう。でもフィリップは、最後まで彼女といる。とことん最後までね。だから彼のような男性は、女性から見たらある種の理想と言えるかもしれない。愛ってお庭と同じで、一生かけて手入れしていかなければならないと思うんだよ。愛を継続するには、ただ同じ日常を続けていくのではなく、男性も女性もパートナーを誘惑できるようなサプライズをしたりする努力が必要だと思う。そして、人を愛し続けるには譲ることも必要だしね」
ところで、ちょっと聞いたんだけど、と、ブノワからあることを質問された。
「日本では女性はよく映画に行くのに、男性はあまり映画館に足を運ばないって本当? フランス人がそれを聞いたらとっても驚くよ。フランスでは男性もよく映画館に行くし、初めてのデートで彼女とキスをしたいときは映画館に連れていくのが当たり前だからね。日本だとそういう初キッスはどういう機会にするの?」
返答に困っていると、「フランスではこういう感じ」と、ブノワは女性の肩に手をまわす様子を再現。「フフ〜ン」と口づさみながら、横を向いて「チュ」とするポーズまでやってみせてくれた。「暗くて、人目もないし、安全な場所で初キッスというのがお決まりのパターンなんだ(笑)」
サービス精神旺盛なブノワだが、その演技は繊細。今作でも、ブノワ演じるフィリップの葛藤には引き込まれる。“キスの場所”かどうかは別としても、映画館の暗闇で見たい、愛について考える1本だ。

(取材・文/幸野敦子)