
vol.318
INTERVIEW
『怪談』尾上菊之助
男は、若く美しいタバコ売り。女は凛とした姿と心を持つ年上の美女。しだいに惹かれあう2人。しかし2人の出会いは、親の代から定められた悲しき因果によるものだった…。『リング』の中田秀夫監督が新たに選んだのは、幕末の落語家・三遊亭円朝の傑作落語“真景累ヶ淵”! 5人の女たちを引き寄せながら、運命に翻弄される主人公・新吉を演じるのは、女形と二枚目両方を演じることでも知られる美貌の歌舞伎役者・尾上菊之助(おのえ きくのすけ)。
“因果”という言葉は、現在では“縁”や“シンクロニティー”という言葉で表されているんじゃないでしょうか。
「実は、僕の曽祖父(六代目 尾上梅幸)と三遊亭円朝さんがとても親しかったそうなんです。さらに祖父(七代目 梅幸)も、豊志賀役を演じていたりして、この“真景累ヶ淵”という題材は、音羽屋(尾上菊五郎家の屋号)と浅からぬ縁があるんです。本来、僕は女形を演じることが多いのですが、この映画では新吉役で、ということだったのでびっくりしました」
――今回、1人の男を死後の世界からも思い続ける女・豊志賀を演じたのは黒木瞳。江戸の精神を伝える歌舞伎というフィールドに育った彼と、名女優の黒木という2人が生み出す空気は、まさに江戸。
「黒木さんとは、最初にお会いしたときにいろいろディスカッションをしました。そのおかげで、2人の関係がすごくリアルになりましたね」
――本作の見どころの1つが、黒木をはじめ井上真央、麻生久美子、木村多江、瀬戸朝香という5人の女優と、尾上菊之助との“美しき”共演。
「新吉が豊志賀に惚れたのは、因縁のためではあるんですが…。豊志賀とその妹のお園さんは、とても温かいんですよ。親の愛情を知らずに育った新吉にとっては、包み込んでくれる母性的な存在なのかもしれない。だから甘えたりもするし。お久は“植物”かな。水をあげないと枯れてしまうから、手塩をかけて育ててあげる。男が放っておけないタイプの女性。お累は新吉に何でも与えてくれる女性。でも、いくら自分が遊んで帰ろうが浮気しようが、三ツ指ついて待っている。それって一番怖いですよね(笑)。そしてお賤(しず)の魅力は…あだっぽさ。あだっぽい色気というのは、男は一番弱い気がします」
――菊之助さんの“一番”は?
「迷うなあ…(笑)。しかもみんな美女だから困っちゃいますよね(笑)」
――みんな魅力的…なんて言いながらも、この爽やかさ。 “男と女”に通じてなければ歌舞伎役者は務まらないというが…。
「いや、これは男性なら同じことを言うと思います(笑)」
――そんな美女たちを引き寄せながらも、因縁ゆえに悲劇へ向かう新吉と豊志賀。とはいえ、現代人にとって“因縁”は決してなじみ深い概念ではなくなっている。
「とはいえ“因果”というものは姿を変えて、現在ではそれが“縁(えん)”や“シンクロニティー”という言葉で表されているんじゃないでしょうか。確かに、江戸から比べればいろいろなことが変化していますよね。携帯電話もあって、すぐ連絡がとれるし…別れてもメールしたりとか(笑)。コミュニケーションの手段や、スピードが全然違いますよね。伝統を受け継いでいる落語や歌舞伎であっても、演じているのは現代の人間ですから、少しずつ変わってきたと思います。ただ、伝承されていくべきはその精神であって、口調や台詞回しがすべてではないんだと思います」
――そう考えると“怖い”という感覚も当時と現代では変わっているのかも?
「その通りだと思います! そういう感覚も変わるんですよね。今、みなさん“四谷怪談”は、怖いと思うのでしょうか? 当時の人たちは本気で怖かったと思うんですよね。その中に身を置いている僕らは、今でも怖いです」
――その感覚を現代人にも味わえるのが、まさにこの映画なのでは?
「そうですね。確かにこの映画は、ホラー要素のあるシーンもありますけど、原作同様、人間の情愛の怖さをテーマにしています。そういう普遍的なことを描いているから、100年前に生まれた物語であっても、今も新鮮に感じられるんじゃないでしょうか。エンターテインメントの部分と、核になる部分がしっかりしていますしね。この作品の中には、障子から漏れる光やカヤの中の人影…そういう怪談話の伝統美が、現代テイストも取り入れながら描かれているんですが、全然違和感がないんですよね。そこも監督の計算のうちだと思いますけど(笑)」
――因縁ゆえに、豊志賀の亡霊に追われ悲劇を重ねていく新吉。しだいに近づいてくる豊志賀の気配。そして…。
「でもきっと、新吉は真実の愛に気づくのだろうなと思うんです。豊志賀がくれた温かさに…」
――江戸の四季の中、寄り添って暮らした豊志賀と新吉。確かに、きっと観客の胸のうちには、2人の愛の日々が叙情豊かな風景とともに、蘇るに違いない。とはいえやや移り気な新吉、果たして真実の愛を得ることはできるだろうか?
「だと思います。…でも、どうします、それからまた逃げ出したりしたら(笑)?」
――新吉なら、それもありうる…などと親近感とともに思い、彼らの恋を切なく感じ、人間の情念にぞっとする。スクリーンで彼のまなざしを受け止めた瞬間、江戸ホラー”の世界に入り込めるはず。
(本紙 秋吉布由子)
| 『怪談』では、黒木瞳をはじめそうそうたる女優陣が顔を揃えるが、中田秀夫監督いわく「ヒロインは尾上菊之助さん」だとか。もちろん、歌舞伎の中でヒロインも演じてきた尾上さんは、まつ毛も長くてお肌もキレイ…。とはいえ、監督がいうところは、つまり“ヒロインのように、次々と登場人物を魅了していくから”とのこと
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