
vol.320
INTERVIEW
『Life 天国で君に逢えたら』
主演 大沢たかお
「最初にこの役のオファーが来たとき、正直言ってちょっと考えましたね」大沢たかおといえば、どんな役でも自分のものにし、その作品に深みを与える俳優だ。その彼を、一瞬であっても躊躇させた役どころ…それがプロウィンドサーファー・飯島夏樹という実在の人物だった─。
飯島夏樹は日本人で唯一、8年間もプロウィンドサーフィンのワールドカップに出場し続け活躍したが、肝細胞ガンのために2005年に38歳の若さで亡くなっている。しかし、余命宣告を受けてからも執筆活動を続けながら、最後まで希望を失わずに生きぬいた彼の姿は、ドキュメンタリー番組でも特集されるなど、生前から多くの人に希望を与えてきた。そして大沢もまた、そのドキュメンタリー番組の視聴者の1人だった。
「僕はほとんどテレビを見ないんですけど、たまたまその番組を見ていたんですよ。ドキュメンタリーは好きですが、病気をテーマにしたものは苦手で…涙もろいところがあるので(笑)。でも飯島さんの番組はまったく違う気持ちで見ていました。この人はなぜこんなに明るいんだろうって、とても不思議で。それで映画の話を頂いたとき、すぐに番組のことを思い出しました。だから、彼がどんな半生を生きたのかは分かっていました。それで、ちょっと考えてしまったんです。あの飯島夏樹という人物を、自分が演じることができるのか…って」
死を目前にした闘病生活。しかし彼は、最後の時間を家族とともに笑顔で生きた。
「無条件にリスペクトしている相手ですけど、僕が彼と同じ行動をとることができるかといったら…できませんよ。あの状況で取材を受けたり、本を書いたり、ガンにあだ名をつけたりね。自分には絶対に無理だと思った。そんな僕に、彼を演じる資格があるんだろうか。でもいつかは、人間は死ぬわけですよね。だから決して他人事のテーマではない。そう考えて、これもなにかの縁だと。それに、自分には彼のようなことはできないけど、彼を演じることによって、何かをもらえるんじゃないか、観客にも何かを伝えることができるんじゃないかと思ったんです」
実在の人物を演じることは…。
「…難しいですね。苦手なほうかも知れません(笑)。芝居にゴールはありませんが、とくに出口がないように思えて。作られたキャラクターであれば、僕なりの人物を作り出せばいいと思えるけれど、この場合はそうはいかない。監督や僕がOKでも飯島さんもそう思ってくれるだろうか、彼の家族がこの映画を見て納得してくれるだろうか、飯島さんが彼らに残したメッセージを歪ませるようなことをしていないか、とまで思うわけです」
そんな思いは、飯島をまっすぐに見つめることで、消えていったようだ。
「クランクインの前日、逗子のウィンドサーフィンスクールで、新城毅彦監督と平野隆プロデューサーと、台本をめくりながら話していたんです。“なぜ飯島夏樹の映画を作るのか”と。僕は、参加するすべての人が、それぞれに答えを持って臨まないと、この映画は絵空事になってしまうと思ったんです。なぜ飯島さんなのか、僕らは飯島さんを通して何を表現したいのか…そういうことを自分の中で明確にしないといけなかった。特に僕や監督は、自分の哲学や死生観も見つめる必要があると思った。確かに、クランクインのときに話し合うには根本的すぎることかも知れません(笑)。でも、監督もプロデューサーも同じように考えてくれて、僕らはもう一歩深く踏み込んでいったんです。今でも感謝しています。普通、映画を撮るときに“なぜこの映画を撮るのか”なんて話はしませんよ(笑)。その日はお昼からトレーニングするつもりだったのに、僕らが話し終えたのは4時でした(笑)。このとき思ったんですよね。この人たちと一緒に仕事ができてよかったって」
飯島夏樹という存在を中心にスタッフたちとも、心が一つになった。
「全員が、まだ自分たちがやり残したことはないのか、どこまでも考えようとするんです。そうやって、みんなが考え抜いて納得して臨んでますから、撮影になったときはもう現場が一つです。手前みそですけど、いいチームだなあって(笑)」
この映画に関わって、“形”として手元に残った思い出は?
「飯島寛子さんの手紙かな。クランクアップしたときに頂いたんです。もちろん1人で読みました。…見せませんよ(笑)」
どんな言葉が贈られたのか…それは大沢と飯島“夫妻”だけの秘密。
「実は、どういうキャラクターとして演じるか、ずいぶん悩んでいたんですよ。どうしても飯島さんがスーパーマンのように思えてしまって。そんなとき、実際に寛子さんにお会いしたんです。寛子さんは“違うんですよ、大沢さん。彼があんなに家族と向き合ったのは病気になってからなんです。それまではどんどん自分の好きなことを勝手にやっちゃう人で。辛いときは、2人で声を出して泣いたこともありました。でも病気になって初めて、夫婦になれた気がするんです”と言ってくれた。ああ、普通の人なんだ、と思った瞬間演じる方向が固まりました」
これは“泣く”映画ではない、悲しみはあっても、生きることの素敵さ、人の温かさに気づける映画だ――そう言う大沢の笑顔は、スクリーンの“飯島夏樹”のように明るく爽やかだ。
(本紙 秋吉布由子)
| 妻・寛子さんも、はっとしたというほど大沢と飯島は重なって見える。「今回は、飯島さんと共作したような感じなんですよね。主人公の飯島夏樹を自分ひとりで表現したのではなく、飯島さんと2人であの役をやっていたような…。だからもし、スクリーンの僕が本当に飯島さんのように見えたなら、それは僕じゃなくて飯島さんかもしれません(笑)」
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