
vol.322
INTERVIEW
『ニュー・シネマ・パラダイス』の巨匠がサスペンスの中に込めた“無償の愛”とは…!?
監督
ジュゼッペ・トルナトーレ
世の映画好きにとって、ジュゼッペ・トルナトーレの名は、ある種の癒し効果を持っている。『ニュー・シネマ・パラダイス』『海の上のピアニスト』…世界中の人々の心を温めてきた巨匠の最新作は、なんと謎とスリル、衝撃に満ちながらも、絶対的な愛を語る物語!
「私の映画には、いつもどこかに希望があるんだ」
薄暗い部屋に集められた仮面の女性たち。彼女たちは“商品”。待ち受けるのは決して優しい温もりではない…。絶望と衝撃が明滅する冒頭のシーンは、トルナトーレファンに驚きをもたらすはず。
「そうですね、観客は初め驚くと思います。私の友人の中には“一体どうしたんだ?”って聞く人もいましたから(笑)。ただ、自分はこれまでにもスタイルを変えて映画を撮ってきましたからね。スタイルを変えるということは、初心に戻った気分になって若返るんで、好きなんですよ(笑)。だから、時間さえあればあらゆるジャンルの映画を撮りたいと思っています。ミュージカルなんかもね(笑)。でも1人の映画監督が一生の間に映画を撮る本数には限りがある。それが残念でなりません」
観客は、謎めいたヒロイン・イレーナが登場した瞬間、その一挙一動を見守らずにはいられない。彼女が何者なのか、何を目的としてときには恐ろしくすらある行動を取るのか…?
「確かに昔ながらのサスペンスのスタイルを取ったところもあるんですが、この作品は犯人探しが目的ではなく、最後に主人公の持つ思いというものを見つけていくための物語なんです」
本作は1人の女性が“母性”を取り戻そうとする、再生の物語なのだ。
「きっかけは20年ほど前に新聞で読んだ記事でした。南イタリアの若い夫婦が注文されて子供を作り、生まれる前に“売って”しまったために、逮捕されたという話でした。それを読んだとき、この母親が逮捕されず数年経ったとき自分の子供を取り戻したいと思ったらどうするんだろう、と思ったんです。母性を否定された女性が、その母性を取り戻すためにどこまで、どんなことをするだろうか、と」
20年前に思いついた物語をなぜ今映画化することになったのか。それはトルナトーレ監督の映画作りの精神に起因するようだ。
「私は、今でも物語のネタになるようなアイデアをいくつも持っているんですが、それをときどき引っ張り出してきては、あれこれ検討してみるんですよ(笑)。物によってはすぐに映画を作らないといけないネタもありますが、そうではなくて自分の中でゆっくりと発酵させ成熟したところで自然と映画になっていく、という場合があります。本作がまさにそうして生まれた作品なのです」
ミステリアスな空気に驚いた観客は、同時にジュゼッペ・トルナトーレという監督の“職人技”の巧妙さにも驚くはず。
「編集しているときは楽しかったですよ。サスペンス仕立てなので、スピードやタイミングなどを考えたりしてね。あのフラッシュバックは短く区切ってあるので、実は観客にはわずかな情報しか与えていません。それが観客の想像力を刺激するんです(笑)」
監督にとって、本作での観客の反応も楽しかったはず。
「もちろん、試写で観客の様子を見ましたよ、いつも観客の反応は気にしていますから(笑)。彼らは最初この作品のテイストについて何も知らず、まず驚いて、だんだんと皆すごく真剣に見始めるんだけど、話がどうなるのか最後まで分からない。そしてついにヒロインと少女の本当の関係が明かされたときにまた驚き、最後にエピローグのシーンで深く感激する、といった感じでした」
イレーナの目的も過去の真相も、ラストがどう終わるのかも謎の向こう。
「でも実は、謎のヒントは物語の最初からあちこちに散らばっているんですよ。だから、2回目に見ると“なんだ、すぐに謎が解けたはずじゃないか”と思うはずです(笑)」
謎がすべて解けたとき、ファンはこれまでにも増してトルナトーレ作品への愛着を深めるだろう。
「私の映画はすべて、どんなに劇的な作品であっても、ラストの部分には何かポジティブなものを込めています。それというのも、幼いころからいつも映画館で過ごしていて、映画を見終わったときに自分に力を与えてくれる、希望を与えてくれるような映画を見たときというのは、映画館を出たときに、ほんの1グラムでも生きる力をもらえた気持ちになっていた。だから自分の映画でもそういう気持ちを与えたい、と思うのかもしれません」
最後に日本のファンにメッセージをお願いします。
「日本皆さんが、いつも愛情を持って私の映画を迎えてくださることに感謝したい。本作は一見今までの映画と違うように思われるかもしれませんが、他の私の映画と通じているものがあります。それは、この物語の核となっているのがとてもポジティブなものということです。私はいつもポジティブなものを描こうとしています。『ニューシネマ・パラダイス』のときはそれがノスタルジーであり、『みんな元気』のときは家族、そして『海の上のピアニスト』のときは自分の存在証明、『マレーナ』のときは恋というようにね。同じようにこの作品も楽しんでもらえると思います」
(本紙・秋吉布由子)
| 「5歳半から27歳くらいまで少なくとも1日1本は映画を見てました(笑)。私は自分が見た映画すべてを、どの映画館で見たか覚えているんですよ。この映画を見たいから行くというより映画館に行きたいから行くという感じかな(笑)。字が読めるようになったくらいから、映画監督になりたいと思うようになりましたね。エンディングロールにいつも“監督”とあるのに気づいて、父に尋ねたんです。この“監督”って何?って。父から映画を作る人だよ、と教えられ、なるほど、じゃあその“監督”になろう、って決めたんですよ(笑)」
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