恒例の麻布十番祭りがクライマックスを迎えた、8月26日。ごった返している商店街からほどなく近い、TS UTAYA TOKYO ROPPONGI店も同じようににぎわっていた。大判の絵本を抱えた人たちが作る長い行列の先に陣取っているのは、イラストレーターのジェームス・ジャーヴィスとライターのラッセル・ウォーターマンだ。 ジェームスとラッセルは、15年前に運命的な出会いを果たしてから、カルチャーの動向に敏感な若者たちを刺激するプロジェクトを発表してきた。カルトレコード店のラフトレードでバイヤーをしていたラッセルは、人気ファッションブランド「サイラス&マリア」を立ち上げ、ジェームスはストリートウェアブランド「SILAS」を始め、英雑誌「I-D」、サブカルチャーマガジン「relax」などに定期的にアートワークを提供。日本ではパルコで個展も行い、人気を集めてきた。そんな彼らが手がけた最新プロジェクトが、この「ヴォーティガンズ・マシーン ラスティとウイッグスのマジカル・アドベンチャー」だ。「まだ子供だったころ、僕も『アステリックス(Asterix)』や『タンタン』を読みながら、いつか自分もこんなものが書けたらいいのにって漠然と思ってたんだ。始めたときは思い出しもしなかったんだけれど、今になって自分のやりたかったことができたんだなって思ってるよ」。ライブペインティングに夢中になっていたジェームスは、マーカーを握った手を休めると、このプロジェクトについての思いを語る。 主人公は、イギリスの小さな街に住む男の子、ラスティとウィッグス。2人は犬のドゥウォーキンを散歩させているとき、ふと哲学的な問題にぶち当たる。「犬が賢いっていうのは本当か」、「犬が人間の親友っていうのもおかしくない?」。どんどん食べてまるまると成長した飼い犬ドゥウォーキン、ダンボールを頭にかぶるドゥウォーキン……。やっぱり賢いとは思えない。極めつけにドーキンは、飼い主の家のカギを食べてしまう。そこから、2人の「マジカル・アドベンチャー」が始まる。 「最初は12歳ぐらいの子が読めるようなものを作ろうと思っていたんだ。でも、僕たちはファッションをやっていたわけだし、もっとストリートからピックアップしてストーリーに反映させたほうがいいんじゃないかって感じた。その結果、明らかに12歳が読むものではないものになってしまったね(笑)」(ラッセル) 「キャラクター、例えばミスター・ヴォーティガンズがそうなんだけれど、もともとは僕が書きためていたものを、ラッセルと一緒に作り上げていったんだ。性格、ファッションはもちろん、好きな食べ物だとかディテールとかもね。そしたら、すごい時間がかかっちゃった。僕は、1つのアートワークに臨むとき、このルールで!って決めたらそれをきっちり守っていく。この作品もあるルールにのっとって一通り書き終えところで仕上がりに満足できなくて、書き直した。今度はキャラクターや背景を別々に書いて、コンピューター上で重ねていくっていう作業をしたんだよ。本当はまたやり直したくなったんだけれど…」(ジェームス) 「僕のほうはハラハラしてたよ。コミックスとキャラクターが同時に出て行く予定だったのに、現実、キャラクターはどんどん出ていって、ストーリーは全然出てこない。"このキャラクターはいったい何なんだ?"って状況が長く続いてしまった。ようやくストーリーも届けることができて良かった。僕が美味しいサンドイッチを振る舞い続けた成果が出た(笑)」(ラッセル) 徹底的にこだわるジェームス、そしてジェームスが仕事をしやすいように、飴とムチならぬ"サンドウィッチと叱咤激励"で、うま〜く立ち回るラッセル。いいものを生み出すためには口論も絶えないというが、そこは「夫婦のような関係」とのこと。 さて、「ヴォーティガンズ・マシーン ラスティとウィッグスのマジカル・アドベンチャー」だが、すでに映画、またコミックスの次回作のプランも考えているという。 「ただ他のプランもあって。今度はちゃんと12歳が読めるような子供向けのものを作りたいなって思ってる」(ラッセル) 「子供向けの作品っていいよ。40にもなってティーンエージャーみたいな気持ちでただおもしろければいいって作品を提供していきたいわけじゃないから。僕らは、カルチャーを伝えて行きたいと思っているんだ」(ジェームス) ジェームスとラッセル。英国最強のカルチャーユニットが次に繰り出してくるものは何か。もしかしたら細部までこだわりが反映されているというこのコミックスのなかにそのヒントがあるかも?