
vol.324
INTERVIEW
「野鴨」11月1日〜 シアター1010ミニシアターで上演
無意識なる異端 演出家
タニノクロウ
北千住にあるシアター1010という劇場の稽古場こと「シアター1010ミニシアター」で11月1日からノルウェーの劇作家でイプセンの『野鴨』が上演される。共同脚本と演出としてタニノクロウが参加する。
タニノは「庭劇団ペニノ」という劇団の主宰を務める。この劇団は、公演のために自宅のマンションを改造して舞台にしてしまったり、高性能のマイクで客席の音まで拾ってしまったり、その手法は現在の演劇界では異端に位置する。こんな人間にイプセンをやらせてみたら…と、今回声がかかったのだが、当のタニノはというと…。
「演劇を勉強する環境になかったんで、古典に触れたことがなくて、イプセンなんて読んだことなかったんですよ。だいたい古典とか関係なく、人の戯曲って読んだことがなかったんです。この話がきて、新しい挑戦だな、面白そうだなと。実際に本を読んでみると面白かったし」
戯曲読んだことがないということはペニノでの脚本は全く自己流か。
「全く自己流ですし、半分以上の作品はなかったりもします。最後に出来上がったものをスタッフさん用に、段取りを書いた3〜4枚の紙を渡すという感じ」
ペニノで展開される舞台は一般的にイメージされるものとは若干違う。『黒いOL』という作品では西新宿の空き地でテント公演。必要とあらば異常にでかい穴も掘る。『アンダーグラウンド』という作品では手術台に乗った男の周りを数人の看護師が取り囲み、開腹手術。男の腹からはありえないものがたくさん出てくるのだが、劇中なぜか舞台の下手上にいる楽団がジャズを奏で、外科手術とセッション。『黒いOL』は記者にとってはカオスな作品だった。
「分からないですよね。俺も分からなかった(笑い)。役者に対しても、次こうなるんで、次ここでストッキングが落ちてくるのでみんなで干してくださいって言いながら、俺何でそんなこと言っているのかなって」
そのとき役者は!?
「はー、みたいな。稽古も、あのーすいませんがちょっとイメージがわかないので、みんなで隊列を組んで渋谷から六本木ヒルズまで歩いてくださいって言って、ずっと歩かせたり。じゃあ次はこういう隊列作ってくださいとか言ってやってもらったりね」
その一方で前回作品『笑顔の砦』は一転かっちりとした台詞劇。
「あれは全部、1字1句違わずという感じで。それは徹底しましたね。今まで書いたことがなかったわけではないので、台詞を書くことに抵抗があったわけではないんですが、『野鴨』もあるし戯曲を書くとか読むってどういうことなのかなって…。ステップというわけではないんですが、戯曲の作法というものを自分でやってみようかなと思って、『笑顔−』をやったんですが、そのときホントにハリウッド脚本術とか読みましたからね。いろいろタメにはなりましたよ。起承転結とか最初に書いてあって、起承転結ってどういう意味なんだろうなって。今まで考えてなかったんで、そこから始めましたね」
作品の振り幅が異様に大きい。ペニノってとても自由で、なんでもありな感じ。
「普段演劇に触れてないというのもあるんですけど、意図してというよりはなんとなくそうなっちゃっている。演出部の3人が手ぶらで集まって、“今度公演が何月にあるらしいんだけどどうしようか”と。“で、いくらなの!?”“3000円”“じゃあ3000円でなんかやらなきゃいけないんだよ”と。基本はそこ。ペニノだからどうというのは全くないんです。うちの色出そうとかそういう発想は全くしていない。そういうことを考えてやるとお客さんのほうを向かなくなるから。とにかく3000円に見合った何かをすべきだと」
ペニノの色という意識はない。
「ないんです。3000円あったらなにする? 合コンとか? そうだよな、だから合コンと同じくらいの価値じゃないといけないんだよと」
タニノの作品にはいろいろな人が「理由」とか「意味」をつけたがる。しかし、そういう小難しいことは、そういう人たちのためにタニノがわざわざ「用意してあげている」という気すらする。タニノの言葉にはそういう気負いは全く感じられない。あるとするならばチケットに見合う価値のものをお客さんに見せなければいけないということ、小劇場でやる面白さというのは距離感による特別な臨場感であるということ。この2つくらいはポリシーとして持ってはいるが、それ以外、たとえばそれをもってして何を表現するのかということに関しては、そのときどきの状況で変わる。
例えば『黒いOL』。
「あれは野外劇を1回やってみたいね、という話から始まって。大変だよね。土木的な作業もあるしね。女の人ってやんないよね、どうせ。ノウハウもないしね。でも女だけでやらせたら面白いんじゃないか――ってことになった。じゃあなるべく演劇の色のついてない素人の女の子を呼んで、演劇ってこういうものだよねって、当たり前の顔して洗脳してやったら、これ絶対成功するなって。でも多分無茶苦茶になるよ、関係悪くなったりとかいがみあったりとか…でもそれって面白いねって。それでじゃあOLにしようって」
イプセンは作風も対世間に対してもずいぶんチャレンジャーな人だった。タニノも本人の自覚とは別にそういうポジションに置かれている。イプセン×タニノがクロスしてどんな作品ができるのか。時代を越えてイプセンをタニノがどう料理するのか。イプセンに思い入れのある人が見たら評価は確実に分かれるだろう。いままで上演されたイプセンだと思って来ないほうがいい。
「へっ、と思われるでしょうね」
従来型のイプセンが見たいならよそへ行くことをオススメする。
(本紙・本吉英人)
【日時】11月1日(木)〜30日(金)(開演は火〜金19時、土13時/18時、日月14時。8・15・29日(木)は14時の回あり。24日(土)は14時の回のみ。6日(火)、14日(水)、20日(火)、27日(火)は休演)
【会場】シアター1010ミニシアター(北千住)
【料金】前売4600円/当日5000円
【問い合わせ】メジャーリーグ(TEL 03-5949-4690)、THEATRE1010(TEL 03-5244-1010 [HP] http://www.t1010.jp/)
【演出・上演台本】タニノクロウ
【出演】石田えり、高汐巴、手塚とおる、保村大和、石橋正次、藤井びん、マメ山田、鎌田沙由美、津嘉山正種
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