
vol.325
INTERVIEW
あのブッシュ大統領が凶弾に倒れる―!? 世界を揺るがした超問題作、ついに日本上陸!!
『大統領暗殺』 監督
ガブリエル・レンジ
2007年10月19日アメリカ中部時間20時13分。全世界を衝撃が襲った。アメリカ合衆国第43代大統領ジョージ・W・ブッシュが何者かにより銃撃を受けた。そして彼は、その数時間後に死亡してしまったのだ――。2006年のトロント国際映画祭で上映され、そのあまりに衝撃的な内容とリアルさが議論を巻き起こしながらも、国際批評家賞を受賞した超問題作が、この秋ついに日本上陸。アメリカ政府にもにらまれ、日本の映倫管理委員会からも異例の指導を受けたという問題作を手がけた、監督ガブリエル・レンジを直撃!
実際のニュース映像を駆使して描く、衝撃の“擬似ドキュメンタリー”!
「来日の後半は京都に行きたいと思っているんだ。…24時間ほどの限られた時間だけど(笑)」
インタビューに現れたのは、実に紳士的で物腰柔らかな人物。ある意味物騒なこの映画を手がけたようには…。
「確かに、この映画についてもいろんな誤解をされました。でも、僕は以前から現実をモチーフとすることに興味があったので、僕にとってこのテーマはとても適切だったと思っています。ただ、映画を見る前に自分の考えにはまってしまう人がいる、ということは興味深かったですね。作品を見る前から、この映画がブッシュ大統領の暗殺をあおるような映画だと思ったり、“墓の上で踊る”ようなひどい悪ふざけの映画だと思ったり。でもこの映画は決してブッシュ大統領を攻撃している映画ではないし、その反対でもない。ただ、非暴力を訴えている映画なんです。リベラルな人たちからの反応は、ブッシュ大統領に対して甘すぎる、という意見もあったくらいです。ブッシュを普通に描きすぎている、とね」
そう、この映画はブッシュ大統領暗殺という衝撃的な“もしも”をテーマとしながら、その後に起こるフィクションを描くことによって、現実のアメリカが抱える闇を浮き彫りにしていく映画なのだ。
「実は、以前にも似たような手法で作品を撮っているんです。そのうちの1本はイギリスの公共交通網についての映画。もし、あなたがイギリスに行って現地の公共交通を利用したことがあるならそれがどれだけ重要なものか、分かると思います。その交通がストップしてしまったら…という映画でした」
フィクションを通して、現実に潜む問題を鋭くえぐるという手法は、本作『大統領暗殺』と確かに通じている。
「そんなスタイルとテクニックを使った作品をまた撮りたいと思っていたこともありますが、やはりなんといっても自分がニューヨークに住んだ経験が、一番のきっかけになったと思います。そのときに感じた空気というのが、とてもシニカルなものだったんです。9.11とフセインを無理やりつなげようとしているような、ね。そしてそれが、メディアによって拍車をかけられているように感じました。もし、こんな状況でブッシュ大統領が暗殺されたら…と考えたことが出発点となったのです。そこで、製作会社に相談したところ、彼らは危険性を理解しながらも映画を作りたいと言ってくれ、このプロジェクトが誕生したのです」
レンジ監督は、社会派作品ばかりを手がけてきた硬派なタイプ?
「そうでもないんですよ(笑)。エンターテインメントな作品にも興味はありますし。イラク戦争に反対するデモには参加したことがあるんですけど、あのときはみんなそういうことをしてましたからね。僕は特に政治的な人間というわけじゃないんです。もちろん興味はありますけど“政治オタク”ってわけじゃないんです(笑)。でも、政治的なテーマにもドラマ性というものはあると思います。むしろ事欠くことがないくらいにね。もちろんイラク戦争にまつわる政治的状況においても、です。そしてそこには、とても不穏なものも存在する。この映画はフィクションですが、そういった現実をとらえたドラマとして成立していると思います」
アメリカ全土を覆う、不穏な空気。ブッシュ大統領を貫いた銃弾は恐ろしい連鎖を生んでいく。9.11後のアメリカを包んだ恐怖が、ある形を取り始める…。本作が描くのは“ブッシュ大統領が暗殺されるまで”より恐ろしい“された後”。それを、実際のニュース映像を巧みにつなぎ合わせ、事実そのものの“一つの未来”を描いていくのだ。ある意味、単なるブッシュ批判より現実的で恐ろしい。
「マイケル・ムーア作品のように一面的な描き方をされた映画だと思った人も多いと思います。実際に本作を見た批評家たちのリアクションは“驚き”でした。それは、この映画がセンセーショナルなテーマを強調するだけでなく、悪趣味な表現をするものでもなく、ちゃんとメッセージを伝えるものだということを、分かってもらえたからだと思います。ブッシュ大統領暗殺という設定は、あくまで9.11以降の世界を現すメタファー。ブッシュ政権が何をしてきたかを改めて人々に問う、深い意味を考えてもらうための映画になったと思っています」
ショッキングなテーマに挑みながら、ある未来への警鐘を鳴らしたレンジ監督は、最後にこう締めくくった。
「僕はどうしてもこの映画を作りたいという強い意志があったので、いろんなことも障害とは感じませんでした。もちろん、製作会社やスタッフのおかげでもあります。アメリカの製作会社だったら、とても資金を提供してくれることなんて不可能だったでしょうからね」
この後、ビンラディンをテーマにしたフィクション作品を企画しているという。ガブリエル・レンジは、フィクションを通して、すべての現実から目をそむけてはいけないことを伝え続けてくれるだろう。
(本紙・秋吉布由子)
| 監督・脚本・製作:ガブリエル・レンジ
出演:ジョージ・W・ブッシュ、ディック・チェイニー他
プレシディオ配給/1時間33分/10月6日よりシャンテシネ、シネマメディアージュ他にて公開
http://www.20071019.jp/
|