
vol.331
INTERVIEW
『呉清源 極みの棋譜』
主演 チャン・チェン
ノーベル賞作家・川端康成が、その著作『名人』の中で「これほど天才という印象の明らかな人はいなかった」と称した、囲碁界の至宝・呉清源(ご せいげん)。演技派として、美形俳優として注目が高まるチャン・チェンが、知られざる孤高の天才を演じきった。
「日本は、世界各国のおいしい料理が食べられるのがいいですよね。来日すると、あまり食べたことのない国の料理を食べにいくことにしています。…さすがに日本では、あまり中華料理は食べないですけど(笑)」
アン・リーやウォン・カーウァイら中国の巨匠監督作品を知る人なら、この端正な笑顔も知っているはず。『2046』、『愛の神、エロス』など、美形俳優としても人気のチャン・チェン。最近は日本映画にも進出し、日本のファンも急増中。街で日本のファンから声をかけられることもあるのでは?
「まだあまりないですよ(笑)。でも、日本人は有名人だと気づいても、そっとしておいてくれますからね。正月休みで日本に遊びに来た中国人に気づかれて囲まれることはあります(笑)」
そんな彼が本作で挑むのは、実在する天才棋士・呉清源。激動の昭和初期、日本と中国の狭間で苦悩しながらも、国境を超えてその才能を知らしめた、孤高の天才として知られる人物だ。
「演じるにあたって、とにかく呉清源先生の自伝をじっくりと読みました。先生は自伝の中で因果関係を交えながら、演じる上でも重要なことを語っています。特に印象に残ったのは、時期によって先生の心境がかなり変化していることです。自伝の中で、心情が具体的に語られているわけではありませんでしたが、僕には先生の心境の移り変わりを感じることができました。そしてこれは、演じる際にも重要な部分でした。田壮壮(ティエン・チュアンチュアン)監督ともよく話し合わなければならない部分でしたから、とにかく熟読が必要でしたね」
囲碁の世界、そして精神的な世界を探求しつづけたという呉清源。そんな天才を理解することは、かなり難しい作業だったのでは。
「確かに、理解するのに困難な要素はありましたね。なにしろ先生の生きた時代の環境の変化は、あまりにも大きなものでしたから。特に、彼は30歳までの人生の大半を日本で過ごしていますが、家族との関係や、日中問題といった複雑な問題を抱えながら、囲碁を極めなければならなかったのです。プレッシャーもあったでしょう。今の時代に生きる僕にとっては、その時代の感覚を実感することは難しかった。100%、呉清源先生の気持ちを理解することは、さすがに無理ですからね(笑)。でも一生懸命、彼の気持ちを推測しながら演じていました」
そんななかでも、彼の心情を身近に感じたシーンは?
「自分自身が好きなシーンでもあるんですが、日本海の海辺で撮影した場面で、彼が奥さんを捜し求めて追っていくというところです。この場面は、ある意味彼の孤独を表現している場面でもある。あのときおそらく、彼は非常に孤独で、誰かに側にいてもらいたかったのだと思います。そして同時に、奥さんへの愛情表現を感じることができるシーンでもあります。彼はとても口ベタで、感情を言葉で表現するのが得意ではありませんでした。そんな彼が、奥さんへの愛情を彼なりに表した場面でしたから、演じていても感動を覚えましたね」
本作でも、舞台の大半は日本。近年は、行定勲監督の『遠くの空に消えた』など、日本映画での認知度も高まっている。
「実は、行定監督とはずいぶん前から知り合っていたんです。というのも、十数年前に映画のスタッフをしていたことがあって、彼とも一緒に仕事をしたことがあったんです。僕はそのことをすっかり忘れていて、『遠く―』のときに“なんで僕を起用してくれたのですか”と尋ねたら“一緒に仕事したじゃない”って(笑)。当時は別のクルーでしたから、まさか覚えていてくれたとは…」
映画スタッフの仕事をしていたというエピソードも驚きだが、そんなときから彼の素質に気づいていた行定監督もスゴイ。本作でも、柄本明や伊藤歩ら日本人キャストと共演し、日本の友人も多いというチャン。日中の映画論などを論じることは?
「友人とは、あまり映画の話をしません(笑)。特に日本の友人とだと、英語と中国語と日本語を使うので、けっこう難しいんです(笑)。それに、ロジックについてでも、心情的なことでも、そういったことって一緒にいるとなんとなく伝わるんですよ、国は違っても映画人同士であれば。言葉で表現するほど複雑になってしまって、逆に、言わなくても分かるでしょう、という部分があるんです」
呉清源をひと言で表すと?
「“純粋な人”。自分が何を追い求めているのかをよく知り、まっすぐに探求していった人でした。彼と出会い、演じたことが、どれだけ自分のプラスになったことか」
国境を超えての活躍がますます楽しみだ。
(本紙・秋吉布由子)
| 「最近凝っているのは読書ですね。…子供のころにほとんど本を読まなかったので、今、取り戻さないと、と思って(笑)。日本の作家もたくさん読みますよ。芥川龍之介や、村上龍、松本清張の作品が好きです」 |