今週のTOKYO HEADLINE
vol.335
(2007.12/03-12/09)
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撮影:加藤大毅
MOVIE vol.335

INTERVIEW
“現代でイチバン不思議な集団”!? 舞踏集団「大駱駝艦」

舞踏家 麿赤兒

世の映画好きの中には“妙に存在感のある映画俳優”としてとらえている人もあるのでは。麿赤兒(まろ あかじ)…日本映画に欠かせぬ存在である前に、舞踏界の先駆者にして礎的な存在の1人だ。その麿が1972年に立ち上げた舞踏集団「大駱駝艦」が今年創設35年を迎えた。12月、35周年記念の新作公演『カミノベンキ』『カミノコクウ』が上演、年明けにはドキュメンタリー映画『裸の夏』が公開。

『体がありゃあいいんだよ』

「35周年といっても、毎年1回は新作をやっているんで、たまたま今回は35回目だったという。ま、こうなったら50回目までも行こうかと。そう遠くまで来たとも思わないけれど…もう抜けるに抜けられないなあ(笑)」

 抜けられない、舞踏の魔力。そもそも舞踏を言葉で説明するのは難しい。舞踏は、西洋的な“型”があるダンスとは対極の位置にある。ほぼ裸の体を白塗りし、それ自体を作品として見せる。見守るうちにその作品は、何かを感知し動き出す。

「最初に、立ってみるしかないんですよ。でもその後何をしていいか分かりませんから、分からぬままにこうやって手や足を動かしてみたりする。その感じがいいんですよ(笑)。そうやって出てきた動きを“採集”するわけです。もちろん、予期せぬところはある。でも、ただ待っているというわけじゃない。そういう事が出てくるためには、十分器を作っておかなければいけないですからね(笑)」

 35周年記念の新作のテーマとは。

「ゼロ地点から、何かを見つけたという地点に立ったというか…言葉にすると訳が分からないですね(笑)。『カミノベンキ』は、もし神様がいるとしたら創造主は我々を創造したんじゃなくて、排泄したんじゃないか、我々は排泄物だ、地球も宇宙も全部排泄物だ…そういう地点に立つとどうなるか、ということかな(笑)。『カミノコクウ』は世界は空っぽなんじゃないか、でも空っぽだからこそ埋める手立てがあるんじゃないか、と」

 現代で一番訳が分からない集団だね…と笑いながらも、話は深みを増すごとに普遍的な面白さを帯びてくる。

「ラスコーの壁画ってあるでしょう。この新作のテーマは、あれに触発を受けたんですよ。ジョルジュ・バタイユの晩年の著作で『ラスコーの壁画』という評論書があるんですが、それをパラパラと読んでいくうちにドキドキしてきてね(笑)。人間が、遊びや宗教を初めて知った。つまり自然だとか、不安や恐怖といったこととの折り合いのつけ方を知ったわけです。知った瞬間、脳細胞がビッグバン状態に陥ったと思うんですよね、あくまで想像ですけども。知る以前とでは明らかな違いが生まれただろうと。ゼロか100%か、コンピューターの二進法で言うならゼロか1かという感じでね」

 スペクタクル性の強い舞台演出で、ジャンル・文化を超えて多くの人を圧倒してきた大駱駝艦ならではの演出が、今回も観客を楽しませてくれそう。

「真っ暗闇の中で、まずお客さんに原始の洞窟を感じてもらおうかと思って。でも停電かなと思われたり、帰られちゃうかもしれないな(笑)。ただ、美術の安部田保彦君は実際にラスコーの洞窟にも行って来て“まさに子宮ですよ!”と体内回帰をしたような気分で帰ってきたから、何かひらめきがあったようですよ」

 暗黒舞踏の創始者・土方巽に師事し、29歳で「大駱駝艦」旗揚げ。体そのものが天賦の才能であるとする“天賦典式 (てんぷてんしき)”を掲げている。そんな麿のもとには、毎年舞踏を志す若者たちが集い、麿の指導のもと長野県の大自然の中で合宿をする。その様子を追ったのが1月公開予定の映画『裸の夏』だ。

「指導というほどのことはしてないんですけどね。ぼーんと放り込まれれば、生きていかなきゃいけないからなんとか工夫するだろうって(笑)。僕がしているのは、バッドトリップにするか、グッドトリップにするかという方向付けみたいなものだけでね。例えばネイティブアメリカンの部族にいたような、無意識世界の道案内役とでも言うかな(笑)」

 合宿生たちは自分の体と心の可能性を広げていく。それは不思議な体験だ。

「そういうことに触れる体験は、誰でもできるわけじゃない。舞踏というのはきわどい部分もあるから、家に帰って“何してたの、私!?”なんて人もいるかもしれない(笑)。その後社会復帰ができなかったりするといけないから、その辺のバランスは気にかけますけどね(笑)」

 ラスコーの時代から、時は経ち、人間は大きく変わった。参加者もデジタル世代の青少年がほとんどだ。

「確かに進化したといえるかもしれない。得るものもあったけど同時に人間はいろんなものを捨ててきた。それでも体は変わっていないでしょ。本当なら(頭の中に合わせて)体の形も変わっていいくらい。E.T.みたいにね(笑)」

 しかし麿は、そんな現代人を面白く見守っているという。

「財産といえば財産ですよ、身をもって現代を表す作品となっている。本人たちは無意識ですけどね(笑)。現代のいろんな複合的なもので作られた、作品ですよ。そこにどんな感情を持つかは別のことだけど、それを示して見せるのもいいと思う。それを作品化するというのは、マイナスをプラスにするということですからね、一気に元気になると思うんだよね(笑)。だから“そこに立っていればいい、体がありゃあいいんだよ”というわけです(笑)」

 公演を控えての忙しい日々、リラックスする瞬間はと尋ねると、当たり前のようにこんな答えが返って来た。

「一番自由を感じるのは、踊っている瞬間だけでしょうね。その何分間かだけ。あれはダメとかコレがダメとか、そんなことから全部解放されるのは、意外と舞台の上にいるときくらいなんですよ(笑)」

 あの映画のコワモテ親分、あのCMの頑固オヤジは、実は人間が進化の名のもとに捨ててきた何かを踊る表現者だった。今、そんな舞踏との出会いをする人が増えそうだ。




(本紙・秋吉布由子)

麿赤兒(まろ あかじ)…1943年生まれ。「ぶどうの会」を経て舞踏家・土方巽に師事、その間、唐十郎と出会い状況劇場設立に参加。退団後、舞踏集団「大駱駝艦(だいらくだかん)」を旗揚げ、さまざまなユニットを内蔵し、また多彩な才能を輩出しながら、大きな注目のもと国内外で公演を行っている。
■大駱駝艦・天賦典式 創立35周年公演 新作2作品
『カミノベンキ』12月13日(木)〜16日(日)/『カミノコクウ』12月20日(木)〜23日(日)【会場】世田谷パブリックシアター【URL】http://www.dairakudakan.com/ ■映画『裸の夏』シアター・イメージフォーラムにて2008年1月公開予定 テレコムスタッフ配給 ■写真集 麿赤兒「ガドウィンの河を渡るとき」撮影:宮内文雄 ランダムハウス講談社/3500円


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